
- フォロワー1800万人の人気YouTuberが起業するも、再スタートへ
- 日本1号社員は日テレ出身の26歳
- 「映え」を気にしない、「ロール」での共有がキモ
- 海外で広がる「Instagramの次」の写真SNS
今でこそブームが落ち着いたが、この半年で最も話題になったサービスといえば、音声SNSの「Clubhouse」で間違いないだろう。今年1月頃から日本のテック業界の一部で話題になっていたが、その後は芸能人などが続々参加。結果として幅広い層の注目を集めた。
そのClubhouseの熱狂が冷めない2月頃から、「次にくるSNSだ」と評されて話題になったのが米国発の写真SNS「Dispo」(ディスポ)だ。
Dispoは富士フイルムの「写ルンです」に代表される、使い捨てカメラ(レンズ付きフィルム)を模した撮影機能が主体の写真SNSアプリだ。アプリで撮影した画像には、自動で使い捨てカメラ風のレトロな加工がなされ、友人やほかのユーザーと写真を共有できる(フィルターは1種類のみで、選べない)。
Dispoには大きく2つの特徴がある。「翌朝現像」と「ロール」による写真の共有だ。
まず、翌朝現像。実はこのアプリで撮影した写真は、撮影した翌日の9時にならないと閲覧できない。そのため、Instagramなどで言われる、「映え(写り映え)」を意識した写真を撮るのは難しい。写真としての作り込みを楽しむのではなく、友人同士が使い捨てカメラでありのままの姿を撮り合って楽しむ、というのがこのサービスのコンセプトだ。
撮影した写真は、アナログ写真のフィルムケースを模した「ロール」で共有される。このロールにはユーザー自身、もしくはユーザーが選択したDispo上の友人のみと写真を共有する「プライベート」と、Dispo上のユーザーが自由に参加できる「公開」を選択できる。
ロールは複数作成できるので、個人の、もしくはリアルな友人との旅行や日々の出来事をプライベートで共有するような使い方もあれば、料理や地名をテーマにした公開ロールに参加して、見知らぬユーザー同士で同じテーマの写真をアップし合うことも可能だ。公開ロールを検索する機能は現状ではないが、公開したロールをURLやQRコードで共有することで、誰もが参加できる。
フォロワー1800万人の人気YouTuberが起業するも、再スタートへ
Dispoをもともと企画したのは、人気YouTuberだったDavid Dobrik(デイヴィッド・ドブリック)氏(現在はDispoの取締役を退任)。もともとは短尺動画共有サービス「Vine」(Twitterが買収し、のちにサービス終了)で有名になった後、YouTuberに転身していた。コロナ禍で更新をストップしているが、現在でもチャンネル登録者1830万人を誇っている。
そのDobrik氏が、Instagramで使い捨てカメラで友人らと撮った写真だけをアップするアカウントを作ったのが、Dispoの構想のルーツだ。フィルムカメラ独特の雰囲気と人気YouTuberの生活が垣間見えるのが話題となり、更新が止まった今でも295万人超のフォロワーを誇っている。
Instagramの人気から着想を得たDobrik氏は、共同創業者で現CEOのDaniel Liss(ダニエル・リス)氏と起業。ベンチャーキャピタルや起業家、人気クリエイターなどから資金を調達して開発したのがDispoだ(当初は単に使い捨てカメラ風の写真が撮れるカメラアプリだった)。その後、Clubhouse同様に「招待制」のSNSとしてテストサービスを開始(現在は誰でも利用できる)。2月にはSNSとしての再スタートを切った。
DispoはZ世代など若者を中心に人気を集めて、2月と3月には、米国AppStoreの「写真/ビデオカテゴリー」でトップ10にランクイン。米国以外でもノンプロモーションながら注目を集めており、4月には日本、ドイツ、ブラジルでトップ10入りをした。現在は全世界で500万超ダウンロード、アプリ内での写真撮影は1億枚を突破している。
ここまで見ればサービスとして好調に思えるDispoだが、大きなトラブルもあった。3月末にはDobrik氏を中心とするYoutuberグループであるVlog Squadの元メンバーによる女性の性的暴行の疑惑がメディアで報じられて、ユーザーや投資家からの信頼が失墜。Spark CapitalやSeven Seven Sixといった初期投資家が投資からの撤退の声明を出し、Dobrik氏も経営の現場から去ることとなった。
だが、CEOのLiss氏を中心としたチームはサービスの開発を継続。6月9日には、シリーズAラウンドの資金調達を発表するに至った。金額は非公開だが、世界的な写真家であるAnnie Leibovitz(アニー・リーボヴィッツ)氏、NBA選手のKevin Durant(ケビン・デュラント)氏をはじめとした著名人やVCが投資家やアドバイザーとして参画した。さらに初の海外展開として、5月1日付けで日本で1号社員も採用したことも明かした。
日本1号社員は日テレ出身の26歳
日本の1号社員となったのは、現在26歳の米永圭佑氏。日本テレビ放送網(日テレ)に新卒で入社し、研修後すぐに番組制作の現場に配属され、バラエティ番組「有吉ゼミ」のディレクターや、「有吉の壁」のビジネスプロデューサーを経験した。
学生時代から起業志向があったが、インターンでコンテンツ制作の現場を経験したことをきっかけにコンテンツ業界に飛び込んだという米永氏。Dispoが日本のメンバーを募集していることも、知人を介して知り、すぐに応募した。
通常、テック企業が海外拠点の1号社員を採用する場合、マーケティング、もしくセールスで、それなりのキャリアを持つ人材を探すことが多い。だがDispoは、メディアを活用してサービスを広めることができるクリエイティブ人材を求めていたということ、ユーザーの年齢層に近いということで米永氏を抜てきしたという。
前述の騒動についても採用プロセスのを進める中で知ったが、プロダクトの可能性、そしてLiss CEOの姿勢に共感し、米永氏はDispoに入社した。コロナ禍でのスタート。まだオフィスもない状況だが、マーケティングやコミュニティーマネジャーの採用、今年後半をめどに日本オフィスの立ち上げなどを準備中だ。

「映え」を気にしない、「ロール」での共有がキモ
Dispoは詳細なユーザー属性を公開していない。その上で米永氏は「ローンチ当初こそリテラシーの高いテック業界で話題になったものの、若い世代の利用が増えている」と語る。また他の写真SNSとの違いについて次のように話す。
「これまでの写真SNSと一番違うのは、ソーシャルの主体が個人にあるかコミュニティにあるかという点です。Dispoには友達と共有する『ロール』があります。これがほかのサービスとは圧倒的に違う考え方だと思います」(米永氏)
Instagramに代表されるこれまでの写真SNSは、ユーザー自身が写真を撮り、自分のページにアップする、つまり自己表現のSNSであるとも言える。それが先鋭化された結果生まれたのが、映えを重視する文化だろう。対してDispoは、映えを気にせず(そもそも撮影結果が翌朝まで見れない)、自分自身や友人たちとの時間を切り取るサービスだということだ。とは言え、DispoにもInstagramのような自己表現のためのSNSとしての魅力もあると米永氏は語る。
「個人のプロフィールページには、公開しているさまざまなロールの写真が並びます。若い世代の人に聞くと、たとえばInstagramであれば、趣味や世界観を(アカウントごとに)1つにしないといけない。ファッションインフルエンサーならファッションの写真だけを上げないといけないので、複数のアカウントが必要になるそうです。ですが、Dispoにはロールがあるので、たくさんのテーマの写真を共有できます」(米永氏)
SNSとしての再スタートからはまだ数カ月。Dispo側もユーザー側も、サービスの使い方を模索しているところだ。
「Dispoのチームとして『こういう使い方をして欲しい』というのはありますが、不健全なものでもなければ、使い方はユーザーに委ねていけばいいと思っています。私が実現したいのは、中学生、高校生のコミュニティです。たとえば日々の写真を1年間撮って、そのロールが卒業アルバムになるといった使い方です。リアルで会うことと写真(の価値と)のかけ算ができるいいサービスになると思っています」
着飾らない、日々のリアルと連動する写真SNS。そんな構想を持つDispoのライバルは、実はInstagramなどの写真SNSではなく、LINEのアルバム機能などではないか。米永氏はそう語る。
「Z世代であれば、Instagramでメッセージを送り合い、写真はLINEで共有しています。上の世代になるほど、LINEを(メッセンジャーとして)よく使いますが。Dispoはそういう意味で不思議な(立ち位置の)サービスかもしれません」
海外で広がる「Instagramの次」の写真SNS
Dispoはフィルムカメラ風のレトロなフィルターと翌朝公開の「ロール」で、リアルなソーシャルグラフをもとにした写真の楽しみ方を再発明しようとしている。そこには、Instagramで培われた映え、作られた投稿へのアンチテーゼとも言うべきものがある。実はそんなInstagramの“次”を狙う写真SNSが海外では続々と登場している。
米・TTYLが提供する「Poparazzi」(ポパラッチ)は、友人を自分の「パパラッチ」に見立てるというコンセプトの写真SNSだ。ユーザーのページには、Poparazziに登録するリアルな友人たちが撮った、自身の写真が並ぶ。米スタートアップメディアのTechCrunchが報じたところでは、TikTokでの事前プロモーションが奏功し、Z世代の話題を集めている。このPoparazziとDispoは、アプリを最初に立ちあげた際のアニメーションも派手(Poparazziに至ってはバイブでのアクションもある)で、若い世代に興味を持たせるこだわりが見られる。
またフランス発の「BeReal」1日1回アプリに写真の投稿を促す通知が届く。アプリで写真を撮ると、携帯電話のフロントカメラとリアカメラ両方の写真が同時にアップされる。また他のユーザーの投稿を閲覧するには、先に自らが写真をアップしなければいけない。その名のとおりリアルさを求めた、「映え」の対極にあるサービスと言ってもいい。米テックメディアのNewcomerによると、BeRealは著名VCであるAndreesen Horowitzをリード投資家として、3000万ドルの資金調達を進めているという。
かつてmixi、GREEといったSNSが、TwitterやFacebook、Instagramに駆逐されたように、若い世代に向けた新しいSNSの胎動が、日本にも届き始めている。