(左から)パラレル共同代表の歳原大輝氏、青木穣氏 すべての画像提供:パラレル
(左から)パラレル共同代表の歳原大輝氏、青木穣氏 すべての画像提供:パラレル
  • 「高音質な通話環境」がゲーム好きにヒット
  • オンライン飲み会、Clubhouseとの違いは「コンテンツの有無」
  • 海外ユーザーの割合は640%成長、グローバル展開にも本腰

一度目の緊急事態宣言中に流行した「オンライン飲み会」や、この半年で一時は社会現象化するほどの盛り上がりを見せた音声SNS「Clubhouse」──直接人と会う機会が減ったコロナ禍で“オンラインで友だちと話す”ニーズは急拡大した。

そんなニーズをくみ取り、成長を遂げているのが音声通話アプリ「パラレル」だ。同アプリのサービス開始は2019年8月。その1年半後には累計登録者数が100万人を突破したほか、今年の5月には月間総通話時間は4億分を突破。おもなユーザー層は10〜20代で、ユーザー1人あたりの1日平均通話時間は3時間を超えている。

そのパラレルの運営元がReactあらためパラレルだ。同社は6月11日、ジャフコグループ、KDDI Open Innovation Fund、ANRI、W ventures、三菱UFJキャピタルを引受先とする第三者割当増資により総額12億円の資金調達を実施した。

また今回の発表に併せてコーポレートブランドを刷新。社名をこれまでのReactからパラレルに変更したほか、サービスデザインもリニューアルしている。パラレルは今回調達した資金をもとに、パラレルの開発体制やマーケティング、グローバル展開を強化する予定だという。

「高音質な通話環境」がゲーム好きにヒット

パラレルは仲の良い友達とオンライン上に“たまり場”をつくり、コンテンツや時間を共有しながら遊べる通話アプリ。「PUBG MOBILE」や「荒野行動」といったオンラインゲームを友だちと通話しながら遊べるほか、麻雀や大富豪のようなカジュアルなゲームも複数人で通話しながら遊ぶことができる。

これまでにもLINEを筆頭に通話アプリ自体はあったが、なぜスタートアップが生んだこのサービスに注目が集まるのか。それは既存サービス以上に、オンラインゲームに最適化された機能があるからだ。

従来の通話アプリはゲーム音よりも、通話の音量を重視する仕様になっていることが多く、どうしてもゲームの音量が下がってしまう傾向にあった。そうした中、パラレルは左右で違う音が聞こえるステレオ音響に対応しているほか、個別音量調整にも対応。アプリを立ち上げているスマートフォン上でゲームをプレイしても、ゲームの音量が下がらず、通話とゲーム音の両立ができる。

またゲームしながら通話することを前提にシステム設計し、サーバーの負荷対策も行っていることで通話バグなども発生せず、安定した環境で通話を楽しむことができる。

パラレルは2019年8月にリリース。当初はオンラインゲーム好きの間で「(ゲーム中でも)通話の品質が良い」といった口コミが広がり、ユーザーを獲得した。

オンライン飲み会、Clubhouseとの違いは「コンテンツの有無」

そんなパラレルにとって追い風となったのは外出自粛による在宅時間の増加だ。友だちと直接会う機会が減ったことで、友達との交流をオンラインに求める人が増え、アクティブユーザー数や新規登録者数、通話分数が右肩上がりで成長していった。

その過程でZoom飲みやLINE飲み、Clubhouseといった(パラレルにとって)ユーザーを奪われかねない新たな習慣、サービスも出てきたが、いずれも半年も経たないうちに人気が下火になってしまった。はやり廃りが激しい中で、なぜパラレルのユーザーは増え続けるのか。その理由をパラレル共同代表の青木穣氏は「コンテンツにある」と言う。

「オンライン飲み会やClubhouseの盛り上がりを見て、人には"誰かとしゃべりたい”ニーズがあることが分かったと思います。今までは話すきっかけがなかったので、一時はオンライン飲み会やClubhouseに注目が集まりましたが、結局は『話のネタ』、つまりコンテンツに困ってしまうんです。そのため、すぐにユーザーが離れてしまいました。その点、パラレルにはオンラインゲームを中心に友だちと定期的にしゃべれるきっかけを生むコンテンツがあります。それが自分たちの強みでもありますし、成長を支えるドライバーになっています」(青木氏)

当初は他社のオンラインゲームをプレイする際に利用されていたが、アプリ内にもコンテンツの幅を拡大。現在はパラレル単体でYouTubeの同時視聴や、パラレル内で用意されている「キーワード人狼」「お絵かきしりとり」など約10種のミニゲームを楽しむこともできる。

共同代表の歳原大輝氏によれば、今後はゲーム会社などを中心にコンテンツホルダーとの戦略的アライアンス連携に注力しコンテンツの拡充を図っていくほか、映画やライブ、音楽鑑賞、ショッピングを一緒に楽しめる機能の開発にも取り組んでいく予定だという。その狙いを共同代表の歳原大輝氏はこう語る。

「スタートアップの戦い方として、まずは狭く、深く突き刺すことが重要です。自分たちはオンラインゲーム好きの人に音質、通信環境を訴求することで狭く、深く突き刺しました」

「ただ、それだけの価値訴求になってしまうと老若男女が使うサービスにはなれません。広いユーザーを獲得していくためにもオンラインゲームではなく、YouTubeの同時視聴やミニゲームなども追加していっています。さまざまなコンテンツを楽しめるようにすることで、『オンライン上で遊ぶ空間といえばパラレル』という認知を獲得していければと思っています」(歳原氏)

YouTubeや映画などの同時視聴に関しては、先日Appleがビデオチャットツール「FaceTime」の新機能として、音楽や映像などのコンテンツを複数人で共有する「SharePlay」を発表した。この機能について、パラレルはどう見ているのか。

「SharePlayはコロナ禍においてAppleが本気でオンライン上のコミュニケーションを盛り上げようとする動きの表れだと思います。ただ、実態としてはTikTokやYouTubeの動画をLINEなどでシェアして非同期で楽しんでいたものが同期になるだけだと考えています。SharePlayは面白いコンテンツを見つけてから友達と繋がる“Contents First”の世界観を推している一方、パラレルがプロダクトづくりで意識している“People First(友達と繋がってからコンテンツを見つけること)”の世界観とは真逆であると考えています」

「Contents Firstはコンテンツパワーがないと成立させるのが難しい一方で、People Firstはコンテンツパワーがなくても友達と一緒にいることに重きが置かれるため、楽しみ方は変わってくるのかなと思っています」(青木氏)

また競合サービスとして通話コミュニティ「Yay!(イェイ)」の名前が挙げられることも多いが、青木氏は「Yayはリアルで面識がない人とオンラインでつながるサービスですが、パラレルは仲の良い友達とオンライン上に“たまり場”をつくるサービスなので、サービスの設計思想が根本的に違います」と語る。

海外ユーザーの割合は640%成長、グローバル展開にも本腰

パラレルが提供する“オンライン上にたまり場をつくる”という価値は国内だけでなく、海外にも届き始めている。青木氏によれば、2020年9月から2021年5月の間で東南アジアを中心に海外ユーザーの割合は640%成長しているという。

「なぜ、ここまで増えているのか明確な理由はまだ不明ですが、コロナ禍は日本だけでなく全世界で同時に起きていること。『オンラインで人と繋がりたい』というニーズはどの国にもあるんだと思います」(青木氏)

今後、パラレルはシェアが広がりつつある海外への展開も強化していくほか、マーケティング活動も強化し、一気に国内のユーザー獲得も狙っていく。

「サービス開始から1年半が経ち、パラレル1本でグローバルで勝負していける確信が持てました。そのため社名もパラレルに変更しています。サービスとしての基盤はようやく整ったので、ここから本腰を入れて認知獲得に動いていきます」(青木氏)