
- インスタグラマーがマーケティングの手法を変えた
- Instagramは「発信する場所」から「稼ぐ場所」へ
- 企業主導からインフルエンサー主導へ
- ゆうこすに見る「令和時代のインフルエンサー像」
- 企業に求められるインフルエンサーとの「協働」の姿勢
SNSマーケティングに注力している企業の中では、もはやなじみのある言葉となった「インフルエンサーマーケティング」。
SNSで影響力を持つインフルエンサーを活用し、企業の商品をPR投稿(商材をインフルエンサーに提供し、#PRなどスポンサードコンテンツであることを表記した上で写真やレビューなどを投稿してもらう)を依頼するマーケティング手法だが、最近、PR投稿に慣れてきたインフルエンサーと、依頼する企業の関係性に変化が生じつつある。
筆者がCEOを務めるスタートアップ・FinTでは、これまで大手企業を含む累計80社以上のSNS運営を支援してきた。これまでの取引を通して得た知見をもとに、企業とインフルエンサー(クリエイター)との今後あるべき関係性について紹介していく。
インスタグラマーがマーケティングの手法を変えた
まず、インフルエンサーの稼ぎ方を述べる前に、現在のInstagram(インスタグラム)の最新動向にも触れておきたい。数年前まで、Instagramはインフルエンサーが好きなものを自由に発信できる趣味の場所として機能していた。だが、現在は企業が商品の購買を促すようなプラットフォームとしての「商業化」が進んでいる。
Instagramのローンチは2010年。もともとはスマートフォンで撮影したお気に入りの写真を共有するSNSとしてスタートし、2014年には日本でのサービスも始まった。
2017年に日本でユーキャンの「新語・流行語大賞」でInstagramでの見栄えの良さを指す“インスタ映え”が年間大賞を獲得したことで、Instagramは脚光を浴びることになり、ユーザー数は増加。2015年6月時点で810万人だった月間アクティブアカウント数は2017年10月に2000万人を記録しており、現在は3300万人を突破している。
そうしたInstagramのアクティブアカウント数の増加やそれに付随したプラットフォーム側のアップデートによって、Instagram内で多くのフォロワーを持ち強い影響力を持つ人・インフルエンサーたちが誕生。“インスタグラマー”と呼ばれるようになった彼ら、彼女らは、大きな宣伝・広告効果を持つ存在として知られるようになっていった。
そうしたインスタグラマーを筆頭として、インフルエンサーのフォロワーに対する信頼度や高い購買力が、少しずつマーケターの間にも広まり、今やインフルエンサーマーケティングは数あるマーケティングの手法の中でも、より現代らしいアプローチと言われるようになっている。
Instagramは「発信する場所」から「稼ぐ場所」へ
インフルエンサーマーケティングは企業をも巻き込んでいく。今ではインフルエンサーだけでなく、ブランドの公式アカウントや企業アカウント、メディアアカウントなどがInstagram上に乱立。積極的な運用を行うことで、Instagramの商業化が進んだ。具体的には、インフルエンサーマーケティングがECサイトでの購買にひもづくことになり、Instagramが「発信する場所」から、「稼ぐ場所」に変わっていったのだ。
さらに昨年からの新型コロナウイルスにより、休業要請や時短要請が出された結果、オンラインの進出に舵をきる企業も多くなってきた。その結果今まであまり活用されることのなかったInstagram上でのショッピング機能(編集部注:投稿画像から直接ECサイトで購入ができる機能。日本では2018年6月にリリースされている)や広告活用に再び注目が集まり、Instagram側も、それを後押しするようにアカウントのマネタイズを推し進めるアップデートを展開している。
昨年、新しく実装された短尺動画機能「Reels(リールズ)」にも早々にショッピング機能が実装され、インフルエンサーやクリエイターが動画で企業の商品をPRすることが可能になった。
インフルエンサー(クリエイター)による、アカウントのマネタイズを促す流れに関しては、Instagramを傘下に持つFacebook CEOのマーク・ザッカーバーグ氏も、今年の4月に「クリエイターが自分のコンテンツによって収益を上げられるように支援すれば、それがより広範なクリエイターエコノミーの構築につながるというのが、われわれの見方だ」というコメントを発表している。

プラットフォーム自体の改善に伴い、Instagramでのインフルエンサーマーケティングも年々、規模を拡大している。デジタルインファクトの調査によれば、2025年のインフルエンサーマーケティング全体の市場規模は723億円になる見通しであり、Instagramも昨年の85億円から、2025年には185億円にまでのぼることが予測されている。
現在も拡大の一途をたどるインフルエンサーマーケティングだが、一方で早くも案件の飽和が起き始めているようだ。今、インフルエンサーは自身の元へやってくる数多くの案件依頼の中から、受ける案件を自由に選べるようになってきている。
FinTでは業務としてインフルエンサーにマーケティングの依頼も行っている。そのやりとりを通して見えてきたのは、インフルエンサー側の目線が厳しくなってきたということだ。クライアント企業の選定も、PR投稿の条件設定もますます厳しくなっているのだ。特定の企業以外のDMをブロックし、取引先の固定化を思わせるような対応が見られたり、他社案件との親和性を考慮したりして、1週間に1回のみPR投稿を実施するインフルエンサーも最近はよく目にする。
企業主導からインフルエンサー主導へ
ここから見えてくるのは、すでにインフルエンサーマーケティングでは企業主導ではなく、インフルエンサー主導になっているということだ。
少し前までは企業側が一方的かつ絶対的な条件を提示し、インフルエンサーがそれを飲み込むスタイルだったのが、現在はインフルエンサーがより自由度の高い案件を選ぶ立場にある。
インフルエンサー側も、自分が育ててきたアカウントのフォロワーに対する誠実さを重視している。FinTでも自社で運用してきた女性向けメディア「Sucle(シュクレ)」があるが、フォロワーに対する誠実な対応は大切にしてきた。いちアカウントの運用者としても、この構図こそ本来のインフルエンサーマーケティングの真の姿だと考える。
企業側は、インフルエンサーの「自らの世界観にあう商材を、自己の裁量によって本当にいいと思ったものだけを紹介していくスタイル」を尊重するように依頼しなければ、良い関係性を築くことは難しいだろう。
さらに、近年のステマ(ステルスマーケティング)をはじめとした悪質なPR投稿も増加しており、インフルエンサーのフォロワーたちがPR投稿を見る目も厳しくなってきている。フォロワーもインフルエンサーマーケティングになじみ深くなってきたことで、投稿自体が本物かどうかを細かくチェックされる風潮ができ上がりつつある。
トライバルメディアハウスの調査によれば、PR投稿が魅力的であれば投稿自体も受け入れられやすいというデータもあり、PR投稿の質を担保することは、インフルエンサーマーケティングをする上でも特に大切なポイントになってきていると言える。
FinTでも、インフルエンサーが商品を気に入らない場合、PRを依頼する意味がなくなってしまうため途中で案件を止める場合もある。その商材を本当に好きだと言ってくれるインフルエンサーをアサインできなければ、商材の真の魅力はフォロワーにも伝わらず、インフルエンサーもハッピーにならないからだ。
ゆうこすに見る「令和時代のインフルエンサー像」
インフルエンサーと企業の力関係が変わったからこそ、企業に依存にしないインフルエンサーも増えていると感じる。
そんな令和時代のインフルエンサーの稼ぎ方として第一に上がってくるのが、すでに多くのフォロワーを抱えるインフルエンサーが、直接自分のブランドを立ち上げるタイプだ。例えば前職で身につけたアパレルの知識を生かし、ファッションブランドを立ち上げるなど、自身の強みを活かしてブランドを立ち上げる流れも増えてきている。
こうした、個人が直接商品を開発して販売するビジネスモデルは、いわゆる「D2C」と言われるビジネスモデルになるが、インフルエンサーのブランドづくりは、その中でも独特な方法をとる。
最近の事例を挙げるならば、元HKT48のゆうこす(菅本裕子)氏が、小学館の発行する女性誌「CamCam」とタッグを組み、開発したプロテインがある。
彼女はリリースの前からSNS上で制作過程を公開し、ユーザーの興味関心を引きつけていたが、この方法は、近年のクラウドファンディングや、アイドルグループ「NiziU」を生んだサバイバル型オーディション番組にも通じる手法だ。メイキング映像を見せるように、サービス開始前に本人が苦労して試行錯誤している様子を見せることで、ファンの感情移入やブランドに対する親近感を誘うのだ。
また自らブランドを立ち上げる以外にも、令和時代のインフルエンサーの稼ぎ方ではより堅実に、オンラインサロンやLINE@を通して、自らのインフルエンサーとしてのノウハウを販売するタイプも登場しているほか、タレント事務所に所属し、雑誌モデル・ファンミーティングなどの活動を本格的に行うタレントタイプのインフルエンサーも存在する。
こうした3つのインフルエンサーに共通していることは、D2Cやサロンビジネスではなく、YouTubeの広告収入を定常的なマネタイズ手段にしているということだ。
実際、相場で言えばInstagramの案件報酬よりもYouTubeの広告収入の方が多いのが現実だ。例えばFinTの社員で、プライベートでYouTubeとInstagramを運用しているメンバーの場合、Instagramの報酬は1案件あたり2500〜5000円ほどで、これを月に3〜4回やったとして、報酬は最大でも2万円程度だ。
それに対し、チャンネル登録者数約3万人のYouTubeで月3〜4本アップした場合、広告収入は8〜10万円ほどになる。Instagramの報酬とYouTubeの報酬を比べるとその差は歴然だ。インフルエンサーはYouTubeという“固定給”で足場を固めながら、企業の広告案件や新たなビジネスで稼ぎを得るという、いわゆる2階建てのビジネスモデルを構築している。
企業に求められるインフルエンサーとの「協働」の姿勢
以上から見えてくるのは、インフルエンサーと企業の力関係が変化している、ということだ。トレンドの変化が目まぐるしく、競合アカウントの乱立も含め成熟しつつあるSNSエコノミーで、インフルエンサーは自らの求心力を維持しながら持続的な収入源を常に探しているように見える。
インフルエンサーとタッグを組む企業は今後、ギフティング(PR投稿)依頼にとどまらず、インフルエンサーの趣向を尊重したクリエイターサポートが必要になってくるだろう。
今や消費者に対しマス広告よりも影響力を持つ彼らのインフルエンス力の“次の活用法”を、企業も同じ目線に立ち、誠実なパートナーとして共に模索する必要があるのではないだろうか。