
5G、DX、NFT──テクノロジーの進展とともに、こうした新しいキーワードが日々登場している。本連載「5分で分かるテックトレンド」では、その道のスペシャリストに、今知るべきキーワードを分かりやすく解説してもらう。
第2回のキーワードは、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)と呼ばれる4社の巨大IT企業への規制を強化する米国の独占禁止法(反トラスト法)の改正案だ。この改正案が今の内容のまま可決されれば、iPhoneのSiriは「Apple Music」でなく「Spotify」で音楽を再生し、Googleの検索結果は「YouTube」よりも他の動画配信サイトを優遇するようになるかもしれない。
米国時間6月11日に米下院の超党派議員らによって提出された5つの法案は、GAFAをどう問題視しているのか。米国のスタートアップやテクノロジー、ビジネストレンドについて自身のメディア「Off Topic」やSpotifyと共同で展開するポッドキャスト「bytes」などで解説する宮武徹郎氏に話を聞いた。
──提出された法案が標的としている企業は。
5つの法案が標的としているのは、米国における月間のアクティブユーザー数が5000万人以上、かつ時価総額が6000億ドル(約66兆円)を超える企業です。そのような規模の企業は現在4社しか存在しません。Google、Apple、FacebookとAmazonです。
──法案の目的は。
この法案が提出されたのは、巨大IT企業があまりにも大きな力を持ち、市場を独占しているからです。例えば、FacebookはInstagramを買収していなければ、ここまで巨大にはなっていなかったのではないかという懸念を抱く人は多くいます。その買収さえなければ、今でも健全な競争が続いていたかもしれませんから。Facebookのような巨大IT企業が持つ力をCEOのマーク・ザッカーバーグ氏が1人で制御できる状態にあって良いのだろうか、という疑問もあります。
また、Amazonが自社運営のECモールで自社製品を優先して消費者に薦めることは、プラットフォームを利用しビジネス展開する他の企業にとって不公平だと言えるでしょう。現行の反トラスト法はテック企業が台頭する前に施行されたものなので、規制を更新する必要があったのです。
ですが、6月11日に提出された内容はあくまでも法案。内容がどのように変わっていくのか、どの案が通るのか、といった見通しはまだ不透明な状況です。
──5つの法案それぞれの内容は。
1つずつ順番に説明しましょう。
・American Innovation and Choice Online Act(自社製品の優遇禁止法案)
この法案は各プラットフォームに自社の製品やサービスを優遇することを禁じる内容になっています。例えば、AppleはアプリストアでApple MusicをSpotifyよりも優先して表示することができなくなります。
人気ゲーム「Fortnite」を展開するEpic GamesはAppleが独占的な立場を行使していると主張し、App Storeの30%の手数料をめぐって裁判で争っています。
その公判中、過去にAppleがApp Storeで競合の「Dropbox」よりも自社の「Files」を優先して表示していたことが、リークされた社内メールから明らかになった、とThe Vergeなどの一部メディアが報じています。この法案が通れば、Appleはこのような自社製品の優遇はできなくなります。
・Ending Platform Monopolies Act(プラットフォームの独占禁止法案)
この法案はプラットフォームによる独占を禁じるためのものです。プラットフォームを展開する巨大IT企業による、他社製品よりも自社製品を消費者に推奨するような利益相反を禁じます。法案が今のまま通れば、ECモールを展開するAmazonは自社製品の展開自体が難しくなるかもしれません。
・Platform Competition and Opportunity Act(買収の制限法案)
この法案は巨大IT企業による他企業の買収を制限するような内容になっています。Facebookは最近だとVR関連のスタートアップを立て続けに買収していますが、法案がこのまま通れば、同社は競合になり得る企業は買収できなくなります。競合になり得ないことを証明できれば話は別ですが。
一読すると合理的な法案に思えるかもしれませんし、一部のスタートアップからは歓迎の声もあるものの、今の内容のままでは米国の多くのスタートアップにとっては悪影響となりそうです。M&Aによるイグジットが減れば、米国のスタートアップエコシステムの発展スピードが鈍化してしまう可能性があります。
また、例えばGoogleは検索エンジンや動画配信サイトをはじめとして、多岐にわたる事業を展開しています。そのため、今の法案のままでは何もかもが競合になってしまい、何も買収できなくなってしまう。それが果たしてフェアなのかどうかは今後、議論されるべきだと思います。
・Merger Filing Fee Modernization Act(買収の申請手数料の法案)
この法案は10億ドル(約1150億円)以上の買収における申請手数料を高くするというものです。反トラスト当局はコストカットで予算を削られているので、財源を確保するためのものだと言えるでしょう。
・Augmenting Compatibility and Competition by Enabling Service Switching Act(データ移行の法案)
この法案はGDPR(EU一般データ保護規則)に近いもので、プラットフォームから他のサービスへのデータ移行を安易にすることなどが目的だと考えられます。