Windows OSの次期バージョン「Windows 11」
Windows OSの次期バージョン「Windows 11」 すべての画像:「What's next for Windows」からのスクリーンショット
  • スナップ機能でウインドウ操作を改善
  • 通知やウィジェットを集約
  • Androidアプリやウェブアプリも動作
  • XboxゲームはオートHDR対応
  • TeamsをWindowsに統合
  • “最後のWindows”だったWindows 10の終わり

Microsoftは日本時間の6月25日、Windows OSの次期バージョン「Windows 11」を発表した。

Windows 11はスマートフォン時代に最適化したOSとなっている。操作体系を改善したほか、Androidアプリへの対応や、Xboxのゲーム体験の向上などを行なっている。

MicrosoftはWindows 11の正式版を2021年中に提供開始する。現行OSのWindows 10ユーザーは2022年までは無料でアップデート可能だ。早期リリース版は「Windows Insider Program」の登録者向けに来週より配信開始される。

スナップ機能でウインドウ操作を改善

ここからは、具体的なアップデート内容を見ていこう。まず、デザインは従来のWindows 10をベースとしつつも、より抽象的でシンプルな見た目にアップデートされている。

これまで左下に配置されていた「スタートメニュー」は、タスクバーのアイコンとともに下部中央に寄せて配置。スタートメニューは簡素化され、必要なアプリやファイルを素早く見つけられる仕様になった。

新しいスタートメニュー
新しいスタートメニュー

スタートメニューの「おすすめ」欄には最近使ったファイルやアプリが表示される。ここには、iOSやAndroidで直近編集した「Microsoft 365」上の文書なども表示されるという。

ウインドウの「スナップ」には、操作性を大きく改善するアップデートが組み込まれている。これまで、1つのモニターを縦2分割や上下4分割し、ウインドウを表示できたが、Windows 11では「スナップレイアウト」機能によって、縦3分割表示も可能になる。スマートフォンが普及し縦長の表示に対応したウェブサイトが増加した今だからこそ、ウインドウを効率的に操作できる機能となるだろう。

「スナップレイアウト」
縦3分割を実現した「スナップレイアウト」

また、「スナップグループ」という新機能では、あらかじめ複数のアプリを組み合わせて登録しておき、一度に起動できるようになった。よく使っているアプリの組み合わせを登録すれば、素早く起動することが可能だ。

ウインドウの操作については、外付けディスプレイに接続した時の操作性も改善されている。外付けディスプレイで開いていたウインドウの配置を記憶し、同じディスプレイに繋いだ時にそのまま復元できるようになっている。自宅や職場でノートパソコンを大画面ディスプレイで繋いで使うようなモバイルユーザーには便利なアップデートだろう。

操作体験ではペンやタッチパネルへの最適化を進めている。Windows 11をタブレット表示にすると、タスクバーのアイコン同士の距離が広がり、ウインドウの拡大・縮小などの操作もしやすいようにタッチ領域が広がる。音声入力も強化し、句読点を認識するなど音声でのタイピングに耐えうるものとなっている。

通知やウィジェットを集約

ウィジェット機能はスマートフォンのようにモダンなスタイルとなった。ガラスパネルをモチーフとした専用のウインドウを持ち、ニュースや天気、通知などを集約して表示される。

ウィジェットはサードパーティーの開発者も開発・配布できる。

ウィジェット機能
ウィジェット機能

Androidアプリやウェブアプリも動作

スマートフォン時代への対応として一歩踏み込んだのが、Androidアプリへの対応だ。具体的には、Androidアプリの実行ファイル(.apkファイル)がWindows 11上で動作するようになる。これにより、例えばTikTokのような、スマートフォンでしか使えなかったサービスをWindowsパソコンで利用できるようになる。

Androidアプリへの対応
Androidアプリへの対応

Windows Storeでは、Amazon アプリストアと連携し、Android向けアプリをインストールできる。発表では明確に言及されていなかったが、Amazon アプリストア以外でダウンロードしたAndroidアプリの実行も可能となるものと見られる。

Amazon アプリストアと連携
Amazon アプリストアと連携

ただし、AndroidスマートフォンのアプリがすべてWindows 11で動作するようにはならないだろう。AndroidスマートフォンにプリインストールされているGoogle Playストアの品揃えと比較すると、Amazon アプリストアに登録されているアプリの品揃えは限られている。開発者がGoogle Playのみでアプリを配信している場合、Windows 11では使えないという状況は続くことになる。

技術的に見れば、今回のAndroidアプリの対応は、Windows 10の戦略の延長線にある。Windows 10ではWindows Subsystem for Linuxとして、Linux OSのフル機能をWindows上で実行する技術の開発が進められていた。その技術がLinuxから派生したAndroid OSへの対応も可能にしたという格好だ。

なお、今回の発表にあわせてAmazonはIntelと提携し、Intelプロセッサー向けのAndroidアプリの動作を最適化を進めるとしている。

Androidアプリのほか、ウェブベースのプログレッシブアプリ(PWA)もOSレベルでサポートされる。PWAはモバイル向けのウェブサイト上で動作するアプリで、ウェブサイトを開くだけで使えるのが特徴だ。例えばTwitterやThe Weather Channel、日経電子版などがPWAを導入している。

Windows 11ではこうしたPWAアプリをWindows向けのアプリ(Win32/64、UWBアプリ)と区別せずにOSに登録し、起動できるようになる。もともとPWAはモバイルウェブ向けに開発された技術だが、Windows 11の対応により、パソコン向けに提供される事例も増えるだろう。

アプリ開発者にとっては、Microsoft Storeの更新が大きな意味を持つことになると言える。Windows向けにウェブベースのアプリやAndroidアプリが配信できるようになり、これまでスマートフォン向けアプリを主戦場としていた開発者が、パソコン向けに参入しやすくなる。

Microsoftは有料アプリの開発者から徴収する手数料を15%(Windowsアプリの場合)や12%(ゲームの場合)と定めている。この料率はiOS(App Store)やAndroid(Google Play)よりも低い。また、アプリ開発者が独自に課金システムを提供する場合は、Microsoft Storeでは手数料無料で配布できるとしている。

XboxゲームはオートHDR対応

Windowsの機能の一部として統合されているXboxのゲームには、ゲーム専用機のXbox Series XおよびSで搭載された機能から、「DirectStorage」と「オートHDR」いう2つの機能が移植される。

DirectStorageは、グラフィックスの負荷が高い最新のゲームにおいて、高速なハードウェアの性能を存分に活用し、データ処理を効率化する仕組みだ。

グラフィック処理を行うGPUは、通常はCPUを介してストレージへとデータを送信している。DirectStorageでは、NVMe接続に対応する高速なストレージを利用した場合に、GPUとストレージの間のデータのやり取りにCPUを介在させないことで、膨大なデータを短時間でやり取りさせる。これにより、ロード時間を大幅に削減できるとしている。

オートHDRは、HDR非対応の旧作をHDR表示に変換する機能だ。HDRで表示するためには、ディスプレイとコンテンツの両方の対応が必要となっているが、オートHDR機能によりHDRに非対応のゲームでもHDR表示が可能となる。

オートHDR
オートHDR

旧作を見栄えよく表示するオートHDRは、Xboxの戦略に沿うものと言える。Xboxではサブスクリプションサービス「Xbox Game Pass」で数百タイトルのゲームを遊べる環境を整えている。過去に発売したタイトルの後方互換性にも注力しており、最新のXbox Series XおよびSでは、2001年発売のゲーム専用機「Xbox」から4世代に渡り発売されたゲームタイトルのほとんどが動作する。

「Xbox Game Pass」
「Xbox Game Pass」

この膨大なゲームライブラリーの多くはWindows 10でも動作する。Xboxではクラウドゲーミング技術の導入により、AndroidやiPhone、スマートテレビなどへの対応も進めている。

Xboxの戦略は、過去20年にわたって発売された膨大なゲームタイトルの中から、好きな作品を環境を問わず遊べる環境を用意し、Game Passというサブスクリプションサービスで収益を得るというものだ。この戦略と、過去作をHDR表示に対応させるというWindows 11の新機能は、相性が良いと言えるだろう。

TeamsをWindowsに統合

Windows 11では、Microsoftが提供するコラボレーションツール「Teams」がOSレベルで統合される。Teamsにはチャットや通話、ファイル共有などの機能があり、WordやExcelなどMicrosoft 365のツール群とスムーズに連携する点に特徴がある。

Windows 11ではTeamsがOSの一部として動作し、ビデオ通話の発信やメッセージの送信をスムーズに行えるようになる。アップルはビデオ通話機能のFaceTimeやチャットツールのiMessageをMacに統合しているが、それに近い体験をWindowsとTeamsでも得られるようになる。

「Teams」と統合
「Teams」と統合

ただし、パソコン向けのOSでシェアの高いMicrosoftによるTeams統合は、Teamsの競合するサービス提供者にとっては痛手となる可能性が大きい。Microsoftは過去に、ウェブブラウザのプリインストールについて、EUから独占禁止法上の処分を受けている。今回のWindows 11へのTeamsの統合でも、同様の批判を受ける可能性はある。

“最後のWindows”だったWindows 10の終わり

35年にわたる歴史を持つWindows OSだが、これまでは現行の「Windows 10」が“最後のWindows”とされてきた。今回のWindows 11の発表は、それを覆すものだ。

MicrosoftはWindows 11の発表に際し、Windows 10 HomeおよびProの製品サポートを2025年10月14日をもって終了するとアナウンスしている。

Windows 10が“最後のバージョン”と呼ばれてきたゆえんは、その提供形態にある。Windows 10では定期的に大型のアップデートを実施し、すべてのデバイスが製品寿命まで使えるように、長期的なサポートを提供している。この提供形態は、Windowsの新バージョンを発表するたびに、ユーザーが買い替えていた従来のビジネスモデルから転換するものとなっていた。

Windows 11は、持続的な大型アップデートというWindows 10の方針を踏襲するものだ。従来のWindows 10ユーザーは無料でWindows 11にアップデート可能で、現在Windows 10を搭載しているデバイスでは、基本的にはWindows 11も動作する。

前述した通り、Windows 10は2025年にサポート終了となるが、当面は継続して利用できる。Windows 10にはバージョン20H2アップデートとして、セキュリティ更新を含む最新のアップデートが提供される。

つまり、Windows 11という名称は、見た目の大きな変更や大きな機能追加をアピールするためのブランディング戦略に過ぎない、とも言うこともできる。

ただし、これまでに見てきた通り、操作体系の刷新やスマートフォンアプリの動作など、Windows 11の新機能は多彩で、スマートフォン時代に寄り添うものだ。外観や新機能など目に見える部分だけでなく、裏方的な役割を担うプラットフォームとしてのレベルでも大きな刷新が図られている。

「Windowsは単なるOSではありません。プラットフォームを作る人のためのプラットフォームなのです」Microsoft・CEOのサティア・ナデラ氏はこう語る。Windowsは書類やウェブサイト、動画、ゲームといったコンテンツを扱うだけでなく、それらのコンテンツを作成したり、Windows自身で動作するアプリを開発したりする場でもあると強調した。

Microsoft・CEOのサティア・ナデラ氏
Microsoft・CEOのサティア・ナデラ氏

一番身近なIT機器がパソコンからスマートフォンへと移り変わりつつある現代において、Windows 11はスマートフォン時代のIT機器としてふさわしい体裁を整えるとともに、スマートフォンアプリをも取り込む意欲的な機能を盛り込んでいる。“最後のWindows”の次のWindowsにふさわしいバージョンアップとなり得るだろう。