
- 飲食店のDXを支える「飲食店版Shopify」へ
- 飲食店にもD2Cのトレンド、デリバリーやテイクアウトも2.0の時代
- ギフティとのタッグで飲食店向けのツール拡充へ
「Shopify」や「BASE」、「STORES」といったサービスの登場はECサイトを立ち上げる際のハードルを劇的に下げ、誰もがオンライン販売に挑戦できる環境を作った。同じような波が今後は飲食業界にも訪れるかもしれない。
複数店舗を構える大規模なチェーン店でなくても、自社のウェブサイトやモバイルアプリを簡単に開設し、そこで顧客から直接デリバリーやテイクアウトの注文を受けたり、コミュニケーションを取ったりできる──。2016年創業のDIRIGIOが作ろうとしているのは、例えるなら「飲食店版のShopify」だ。
これまで同社ではテイクアウトの事前注文・決済機能を軸としたモバイルオーダープラットフォーム「Picks」の展開を進めてきた。
累計で3500店舗以上の飲食店に対して、スマホからテイクアウトの注文管理や売上管理ができる基盤を提供。消費者向けには“テイクアウトのポータルサイト”のようなアプリを用意し、Picks導入店舗の検索や商品の注文・事前決済などができる仕組みを作っている。
2020年11月には新たな試みとして、飲食店が自社のモバイルオーダーアプリをノーコードで開発できる「Picks App」をローンチ。これを活用すれば店舗はPicks上だけでなく、自らのアプリで直接テイクアウトの注文を受け付けられるようにもなった。
現在はアプリに加えてモバイルオーダー用のウェブサイトを作れる機能(Picks Original Web)も取りそろえ、数社に実際に運用してもらいながらブラッシュアップを進めている状況だ。
DIRIGIO代表取締役CEOの本多祐樹氏によると、ここから本格的にサービスの拡大を進めていく計画。そのための資金として7月1日にギフティ、ANOBAKA、イーストベンチャーズなどから総額2.4億円の資金調達を実施したことを明かしている。
飲食店のDXを支える「飲食店版Shopify」へ
「プロダクトとしては飲食店のDXを支えるバーティカルSaaSを目指しています。イメージはモバイルオーダーを軸に会員管理やマーケティング機能なども備えた、飲食店向けのShopifyのようなもの。Picksとして基盤となる仕組みを提供し、各飲食店が自分たちのニーズに合わせて最適な機能やインターフェースを選べるサービスにしていきます」
本多氏は今後の事業の方向性についてそのように話す。コロナ禍でテイクアウト需要が伸び、従来から運営していたPicksが成長。この半年強は次の打ち手として、特にPicks Appの開発と仮説検証に力を入れてきた。

現在Picks Appの中心となっているのはテイクアウトに対応するためのモバイルオーダー機能だが、それだけでなく、クーポンやリワードプログラム、お知らせの配信など集客や販促のためのツールも実装されている。5月からはオンデマンド配送プラットフォーム「CREW Express」と連携し、東京都内の一部エリアでデリバリー機能も提供できるようになった。
DIRIGIOとしては今後もPicks App上などで使える飲食店向けのツールを拡充していく計画。飲食店がデジタル化を進めていく際にPicksがインフラの役目を果たし、各飲食店が顧客のニーズに応じて必要なツールやインターフェース(モバイルアプリやウェブなど)を自由に選択できるサービスが理想だと本多氏は話す。
Shopify(アプリストア)やBASE(BASE Apps)にもミニアプリのような形でユーザー向けにさまざまな拡張機能が用意されているが、それに近しい仕組みだと考えるとわかりやすいだろう。

飲食店にもD2Cのトレンド、デリバリーやテイクアウトも2.0の時代
もともとDIRIGIOがPicks Appを立ち上げたのは、飲食店における「顧客接点のデジタル化」ニーズに応えるため。デリバリー、テイクアウト、ECなど販売チャネルが多様化する中で、それらの取り組みを一箇所に集約するとともに、顧客に伝えられる場所が必要だと感じたのが背景だ。
加えて、この1年で日本でもデリバリーやテイクアウトの市場が急激に拡大したことに伴い、新たなニーズや課題も生まれているという。
「デリバリーやテイクアウトが普及してきたからこそ『デリバリー・テイクアウト2.0』のような時代が来ていると感じています。飲食店としては自分たちの世界観を反映した場所にお客さんを呼び込みたいという思いが強い。小売などにおけるD2Cの考え方と同様です。特にある程度集客ができているような店舗だと、(集客よりもそれ以外の)機能の充実性や既存の顧客とどのように繋がりを持つかの方を、より重要視されるようになってきています」(本多氏)

デリバリーに関しては「Uber Eats」などを筆頭に複数のプラットフォームが次々と登場し、選択肢が広がった。こうしたプラットフォームは全く接点のない見込み客に自社の存在を知ってもらう上では強力なツールである反面、“安くない手数料”が飲食店や消費者にとっては負担になりがちだ。
外部プラットフォーム経由で自社を気に入ってリピーターになってくれたロイヤリティの高いユーザーがいた場合、店舗は注文の度に数十%の手数料を払うことにもなる。
本多氏はプラットフォームを利用する飲食店の主な課題として「高手数料率が与える収益への影響」と「(プラットフォーム上での)集客力の限界により重要度を増すリピーターの存在」を挙げている。Picksの料金についても以前は「11%の手数料モデル」一択だったところを、手数料と従量課金を組み合わせた複数プランから選べるように変えたのだという。

こうした背景もあって、飲食店においてもモバイルオーダーやデリバリーなどに対応できる自社アプリや自社サイトを作りたいというニーズは広がっている。その一方で開発会社などに依頼してイチから作るとなると、初期費用だけで数百万円単位の資金が必要となることも珍しくなく、小規模な店舗にとってはハードルが高い。
実際の運用フェーズにおいても「ログイン方法がわからない」などアプリにまつわる質問やバグの問い合わせなどが全て店舗側に寄せられてしまい、オペレーションが回らないといったケースもあったそうだ。
Picks Appの場合は最短5日、月額2万円で自社アプリを構築・運用できるのが大きな特徴(Picksと同時に利用することが前提で、Picksの利用料は別途必要)。DIRIGIOがこれまでテイクアウトプラットフォームを運営する中で培ってきたカスタマーサポート体制なども活用できるため、飲食店側はアプリにまつわる負担を増やさずに済む。
ギフティとのタッグで飲食店向けのツール拡充へ
上述した通り、DIRIGIOではPicksの基盤強化に向けて今回複数の投資家より資金調達を実施している。本多氏によるとCRM(顧客管理システム)や店内モバイルオーダーをはじめとした拡張機能の開発を加速させるとのことだが、自社のみで全ての機能を作るのではなく、他の事業者とも積極的に連携していく方針だ。

今回新たに株主となったギフティとは、まさにその方向性を見据えて資本業務提携を締結している。
ギフティはeギフトプラットフォーム「giftee Loyalty Platform」を通じて、事業者がデジタル回数券や定期券、サブスクプランなどを自社サイト上で販売できる仕組みを提供してきた。
これらの機能はPicksの導入店舗にとっても顧客ロイヤリティの向上や収益拡大を目指す上での武器になり得る。DIRIGIOとしてはギフティとタッグを組むことで飲食店のデジタル活用をさらに後押ししていきたいという。