YOJO TechnologiesではLINEを活用して医療相談や医薬品の購入をサポートする“オンライン薬局”を運営している
YOJO TechnologiesではLINEを活用して医療相談や医薬品の購入をサポートする“オンライン薬局”を運営している すべての画像提供 : YOJO Technologies

LINEを活用して薬剤師にチャットで健康相談をしたり、医薬品を購入したりできる“オンライン薬局”を手がけるYOJO Technologies(以下YOJO)が事業を拡大中だ。

女性特有の心身の不調や、はっきりとした原因は分からないが何となく体調が優れない、いわゆる“不定愁訴”で悩む20〜50代の女性を中心に、同社のLINEアカウントの登録者数は9万人を突破。コロナ禍でニーズが高まり、2020年4月と比較して顧客数は20倍に成長している。

YOJOではさらなる事業拡大に向け、グロービス・キャピタル・パートナーズと既存株主のANRIを引受先とする第三者割当増資により2.5億円を調達した。この資金を活用して組織体制の強化を図るほか、サービス上で扱う医薬品の拡大や機能拡充などに力を入れていく計画だ。

YOJOが運営するオンライン薬局では、LINEを軸にユーザーと薬剤師がコミュニケーションを取る。ユーザーは最初にLINEのチャット上で20問程度の自動問診に回答。無料で薬剤師にチャット相談をすることもでき、これらの情報を基に各ユーザーごとに適した医薬品や健康食品が提案される仕組みだ。購入に至った場合には、YOJOが東京・四谷に構える薬局から30日分の医薬品が自宅に届く。

飲み方や保管方法などに関するガイダンスのほか、健康情報に沿ったアドバイスや月に一度の定期問診など医薬品購入後のアフターフォローが充実している点も特徴の1つ。サブスクリプション型のモデルとなっており、定期問診や服用状況などを参考に必要に応じて医薬品の変更や追加も提案される。

大まかなサービスの流れ
大まかなサービスの流れ

YOJOの創業者で代表取締役を務める辻裕介氏は大学病院に医師として勤務していた経験の持ち主で、その際に「患者と医療者の間に距離があることを課題に感じた」のが起業のきっかけになった。

「現状の医療では患者が体調不良になり、医療機関を受診した段階でようやく(医療者との)接点が生まれます。その接点もほとんどの場合は数分の診療や服薬指導で終わってしまい、再診がない限りはフォローアップの機会もなく、点と点の関係になってしまいやすい。そこに問題意識を感じていました」(辻氏)

YOJO Technologiesのメンバー。中央が代表取締役を務める辻裕介氏
YOJO Technologiesのメンバー。中央が代表取締役を務める辻裕介氏

医療者にいつでも相談ができ、個別丁寧な診療やアドバイスが受けられ、アフターフォローも適切に行われる“シームレスな医療体験”を実現できないか──。そのような考えから辻氏は機械学習エンジニアである共同創業者の上野彰大氏と2018年にYOJOを設立した。

現在同社には薬剤師の免許を持つメンバーも社員として複数人参画しており、エンジニアと薬剤師がタッグを組む形でプロダクトの開発を進めている。

表向きはLINEを用いたシンプルなサービスに見えるが、薬剤師が使うCRMツール(顧客管理ツール)は自社で開発。数万人規模のユーザーに対してすべての対応を属人的に行っていては負荷が大きいため、初回の自動問診など、自動化できる部分は極力人手をかけずに済む仕組みを作ってきた。

自社で開発したCMS
自社で開発したCMSの管理者画面のイメージ

また薬剤師が適切なコミュニケーションを効率よく進められるように、チャット画面のすぐ横にユーザー情報を表示したり、メッセージの入力をアシストする機能を設けたりするなど、管理画面の設計も継続的に改善を重ねているのだという。

こうした取り組みの結果、当初と比較して薬剤師1名あたりの生産性は約10倍になっているそう。YOJOでは薬剤師へのチャット相談自体は無料ででき、医薬品の購入に繋がるのはその一部に過ぎない。それでも事業として成り立つのは、自作のCRMを用いた高効率のチャットオペレーションが構築できているからだと辻氏は話す。

加えて同社の要でもある薬剤師の採用については、リモートワーク体制を軸に働きやすい環境を整えることで人材を確保してきた。医薬品の販売には実店舗を構え、そこに薬剤師が常駐する必要がある。そのため薬剤師免許を持ちながらも、出産や育児、介護などの事情から離職せざるを得ない人も少なくない。

YOJOの場合は四谷の店舗に出勤する薬剤師とリモート勤務する薬剤師の分業体制を取ることで在宅勤務を可能にし、これが採用の強化にもつながっている(具体的にはリモート薬剤師がチャットの下書き部分を作成し、店舗薬剤師がその内容を確認した上でユーザーに返答するといった形で役割分担。この体制自体は保健所にも問題がないことを確認済みだという)。

漢方をはじめとする市販薬を中心にスタートし、2021年2月に保険薬局の指定を受け、直近ではオンライン服薬指導による処方薬領域にも本格的に参入した。不定愁訴に悩む女性は処方薬や市販薬、サプリなどを併用している割合が高く、YOJOのユーザーからも“かかりつけ薬局”としてそれらを一元管理し、飲み合わせの確認や適切な服薬フォローを行うことに対するニーズが強い。

今後は扱う医薬品や健康食品の幅を広げるほか、パーソナライズ提案の質を自動で改善するアルゴリズムの開発などを進めながら「滑らかで個別最適化された医療体験の実現」を目指す計画。製薬企業や薬局など法人からの問い合わせも増えてきているそうで、中長期的にはB向けの事業展開も検討していくという。