
- 最後まで勝敗がわからない「大逆転ギア」
- コロナ禍に必要なのは、「辛口」より「大逆転」
- 大事なのはゲームの結果より、過程で生まれるコミュニケーション
コロナによる「巣ごもり需要」の恩恵を大きく受けた商品の1つが、「ボードゲーム(アナログゲーム)」だ。蔦屋書店の発表によると、2020年4〜6月のTSUTAYAでのボードゲーム売り上げは、前年同期比454%を記録した。外出が難しい時期のレジャーとして、注目を集めた。
ボードゲームの中でも、特に日本人になじみ深いものの1つが「人生ゲーム」だろう。初の日本語版発売から50年以上の歴史を持ち、累計販売数は1500万個以上になる。家族や友人、親戚といった集まりで遊んだことがある人も多いのではないだろうか。
時代の要素を取り入れ、ほぼ毎年リリースされる人生ゲーム。その新作が、今年も登場した。タカラトミーは7月8日にシリーズの新作「大逆転人生ゲーム」を発売した。歴代67作目となる本作は、タイトルの通り「大逆転」がモチーフだ。
巣ごもり需要やボードゲームへの注目といった人生ゲームを取り巻く環境が変化する中で、新たな人生ゲームがテーマに「大逆転」を採用した理由とは。そして時事ネタや新要素をふんだんに取りいれながらも変わらない「人生ゲームらしさ」とは何なのか。
最後まで勝敗がわからない「大逆転ギア」
大逆転人生ゲームの基本的なゲームシステムは従来の人生ゲームと同様で、人型のピンを刺した自動車型のコマをルーレットの出目に応じて進める。止まったマスの指示に従ってお金をやりとりしながらゴールを目指し、最終的に資産をたくさん手に入れたプレーヤーが勝ちだ。各マスの内容は結婚や就職など、人生で迎えるイベントになっており、ルーレットに人生を左右されるその様は、まさに「人生、山あり谷あり」だ。
大逆転人生ゲームでは、特定のマスに止まった際にだけ動かす複数の「ギア」が登場。ギア同士は連動しており、例えば「天気ギア」が晴れなら「結婚ギア」は「リゾ婚(リゾート婚)」を示し、結婚時に多額のご祝儀をもらえるなど、獲得する資産の多寡に影響する。

さらに、今回の目玉である「大逆転ギア」には「ほかのプレーヤーを追い出して住みたい家に住める」、「約束手形(借金)を右隣のプレーヤーにおしつける」など、ゲームの勝敗を決定的に変えてしまう効果もある。途中まで不利だったプレーヤーがより一発逆転を狙いやすいゲームになっている。
最後まで勝敗がわからないことで、全てのプレーヤーがゲーム終盤まで緊張感を持ってゲームに臨める。本ゲームでは2〜3ターンに一度はルートの分岐や人生の節目となるイベントが訪れ、さらにギアによる大逆転の仕掛けを導入することで、すごろくをベースにしたゲームにつきものの中だるみを防いでいる。
家族間で遊ばれることの多い人生ゲームでは、ゲームの内容をあまり理解していない未就学児と勝敗を強く意識する青年など、年齢層もゲームに対する興味のベクトルも異なる人々が卓を囲むことも少なくない。そんなゲームで、最後まで「ゲームに意識を向けさせる仕掛け」は重要な役割を果たしている。
コロナ禍に必要なのは、「辛口」より「大逆転」
人生ゲームが日本で初めて発売されたのは1968年。1作目の人生ゲームはアメリカのボードゲームメーカー・Milton Bradley社(現・Hasbro)から1960年に発売された「THE GAME OF LIFE」の邦訳版だが、1983年発売の3作目からはタカラ(現・タカラトミー)の製作になり、正月やお歳暮といった日本ならではの要素が追加。90年代からはほぼ毎年1本のペースで新作が発売されている。
ラインアップは大別して、約8年周期でリリースされる「スタンダード」と、ほぼ毎年リリースされる「テーマ版」の2種類だ。テーマ版は難易度が通常版とは異なる「辛口シリーズ」や、「平成版1999」、「人生ゲーム+令和版 目指せ TOP OF インフルエンサー」といった時代ごとの要素をふんだんに取り入れたもの、「阪神版」、「ときめきメモリアル2」といったコラボシリーズなどを幅広く展開する。ラインナップを眺めるだけでも、当時の思い出に浸る、意外なコラボを発見するなど、思い思いの楽しみ方ができるはずだ。
大逆転人生ゲームもテーマ版の中の1つだ。タカラトミー エデュテイメント事業室の池澤圭氏によれば、その誕生経緯には少なからず近年の時代背景が関わっている。

「今年は周期通りなら辛口シリーズの発売年だったのですが、昨今の空気を踏まえるとただの辛口はふさわしくない。もともと辛口シリーズには、『世知辛い状況をゲームで笑い飛ばす』というコンセプトがありますが、今回は逆境からの返り咲きというモチーフを前面に押し出した『大逆転』を採用しました」(池澤氏)
池澤氏は明言こそしなかったが、大逆転人生ゲームは少なからずコロナ禍を踏まえて製作されている。マス目のテキスト内容を楽しむのも人生ゲームの大きな醍醐味だが、今作でもそれは健在。「リモート会議で下だけパジャマなのがバレた。$8,000はらう」、「今日は巣ごもり お宝カード(編集部注:プレイヤーの財産となるアイテム)『人生を楽しむボードゲーム』か『話題の映画ソフト』を取る」といったマスからも、新しい生活様式とそれにまつわるストレスをゲームで笑い飛ばそうとする姿勢が感じられる。
大事なのはゲームの結果より、過程で生まれるコミュニケーション
最近の巣ごもり需要の影響も相まって、日本のボードゲーム市場は着実に成長している。日本人クリエイターによるボードゲームも増えており、ヨドバシカメラや東急ハンズ、ドン・キホーテなど、以前に比べて購入場所も多くなった。
こうした影響は人生ゲームにも及んでおり、2020年度年末年始の売上は前年同月比170%を記録したという。とはいえ、こうしたボードゲームを取り巻く環境については、「特にそれを受けて何かを変えるつもりはありません」と池澤氏。
「近年のボードゲームには戦略性が高く、大人でも楽しめるものが多いですが、人生ゲームが大切にしているのは、子供からお年寄りまで幅広く遊べること。ブラックな風刺を取り入れた一部のテーマ版には、対象年齢が高めのものもありますが、この軸を変えるつもりはありません」(池澤氏)
幅広い年齢層に受け入れられるために特に大切にしているのは、やはり子どもだ。大逆転人生ゲームでは従来の「就職」に加えて「副業」が追加されたが、その内容も「フードデリバリー」「動画クリエイター」など時代性を意識したものになっている。こうしたチョイスもその時々に子どもが憧れるものを反映している。
「ゲームにおける戦略要素をあまり高くせず、運次第で勝てる設計にしているのも、幅広い年齢層に楽しんでいただくためです。人生ゲームにおいて大事なのは、あくまで結果より過程。ゲームを通じて交わされるコミュニケーションこそが楽しさの基盤だというのは、初代から変わっていません」(池澤氏)
時事ネタや新たなギミックをふんだんに取り入れつつも、その裏には「幅広い年代層のコミュニケーションを活発にしたい」という姿勢が貫かれている。アナログゲームはご無沙汰な人も、夏のおうち時間には、身近な人たちと一緒に古くて新しい人生ゲームを遊んでみてはいかがだろうか。