Allbirdsの定番商品「Wool Runners」 Photo by Naoki Noguchiコンセプトストアに並ぶAllbirdsのスニーカー Photo by Naoki Noguchi
  • 驚くほど軽い高級ウール使用のスニーカー
  • シンプルなデザインと高い機能性で、シリコンバレーの著名人らにヒット
  • ウェブサービスのように、細かなアップデートを繰り返す
  • アマゾンでの模造品販売に「私たちの環境への姿勢を真似すべきだ」

ハリウッド俳優のレオナルド・ディカプリオも出資するサンフランシスコ発のスニーカーブランドが、ついに日本にやってきた。1月10日、「Allbirds(オールバーズ)」の日本第1号店となるコンセプトストアが、東京・原宿にオープンする。米Time誌が「世界一快適な靴」と評したスニーカーを生んだのは、サッカー選手とバイオテクノロジーの専門家という異色のタッグ。同社がスニーカーを通して発するメッセージとは。(編集・ライター 野口直希)

驚くほど軽い高級ウール使用のスニーカー

 Allbirdsは、元サッカー・ニュージーランド代表のティム・ブラウン氏とバイオテクノロジーの専門家であるジョーイ・ズウィリンガー氏がタッグを組み、2016年に米・サンフランシスコで設立した、スニーカーのスタートアップだ。

 主力商品は、米Time誌に「世界一快適な靴」と紹介されたこともある「Wool Runners(ウールランナー)」だ。シューズ内側には最高級ウールである極細のメリノウールを使用し、高い履き心地と通気性、吸湿性を追求している。洗濯機での丸洗いや中敷きの取り外しも可能なので、手入れも簡単だ。

 筆者も実際に履いてみたが、スリッパのように軽く、通常のスニーカーを履いているときのような足を締め付ける感覚がほとんどないのに驚いた。ほどよく足にフィットしてストレッチ性もあるため、アクティブな動きにも対応してくれる。

店内に並ぶAllbirdsのスニーカー Photo by N.N.定番商品の「Wool Runners」 Photo by N.N.

 このウールランナーのほかにも、ユーカリの木の繊維を使ったメッシュ構造の「Tree(ツリー)」シリーズや、サトウキビ由来のGreen EVA素材を靴底に採用した「Wool Runner-up(ウールランナーアップ)」など、Allbirdsは5つのシリーズを生み出してきた。履き心地とスタイリッシュなデザイン、そして環境に配慮したポリシーが好評を博しており、すでに米国や中国、イギリスなどで世界14店舗を展開している。日本での価格はウールランナーが1万2500円(税込)からとなっている。

 日本初のストアは、2020年1月10日に原宿にオープンした。代表のズウィリンガー氏は、前日に開催された記者発表会で「日本の人々には大きく注目してもらっている。若者のみにとどまらず、たくさんの人に手にとってもらいたい」とコメントして意気込みを示した。またコンセプトストアで直にシューズに触れてもらうだけでなく、D2C(Direct to Consumer:自社サイトから直接商品を販売をするECのこと)にも注力する。ゆくゆくはECサイトでの販売率を50%程度にまで伸ばしたい考えだ。

シンプルなデザインと高い機能性で、シリコンバレーの著名人らにヒット

 創業者の1人であるブラウン氏は、ニュージーランド代表としてワールドカップに出場したこともある元プロサッカー選手だ。同社の日本法人であるAllbirds合同会社でマーケティングディレクターを務める蓑輪光治氏は、「プロ選手として大手シューズメーカーの手法を実際に体験したことが、彼の原動力になっている」とAllbirds誕生のきっかけを説明する。

「Nikeなどの大手シューズメーカーは、大きなスポーツの大会をショーケースとして活用しています。出場選手にはそれぞれの体型やプレーに最適化したシューズを提供する一方で、その年の流行のカラーやロゴをメディアに露出することで、消費者の購買意欲を喚起しているんです」(蓑輪氏)

 デザインを学んだ経験もあるブラウン氏は、引退後にスニーカー作りに身を投じた。派手なロゴを排したシンプルなデザインで、普段使いに最適な履き心地を備えたシンプルなスニーカーだ。その過程で、故郷であるニュージーランドのメリノウールに目をつけたのだという。

 ウールを活用した試作品には、クラウドファンディングで発表した4日間で10万ドルの支援が集まった。その後、ズウィリンガー氏と出会ってAllbirdsを設立。さまざまな投資家から支援を受け、2018年10月のシリーズCでは5000万ドルの資金調達を発表した。

 製品の発売後には、Google共同創業者のラリー・ペイジなどシリコンバレーのトレンド感度の高い層に評価され、一気にブレイクした。高い機能性とスタイリッシュなデザインは、ビジネスシーンでも使える高機能な靴として、ラフなスタイルを好むスタートアップ界隈に好まれている。

ウェブサービスのように、細かなアップデートを繰り返す

 一方のズウィリンガー氏はバイオテクノロジーを専門とし、ゴールドマン・サックスやデロイトといったコンサルティング企業に勤務していた人物だ。出自も経験も全く異なるブラウン氏とズウィリンガー氏だが、むしろ2人の考え方の違いがAllbirdsに活気を生み出しているという。

Allbirds共同創業者のジョーイ・ズウィリンガー氏Allbirds共同創業者のジョーイ・ズウィリンガー氏 Photo by N.N.

「考え方には異なる部分も多いですが、2人はジョークを交えながら軽快に話し合っています。サンフランシスコのオフィスはペット連れ込みも可能な開放的な雰囲気。情熱を持ったメンバーが家族のようにフラットな環境で働いていることが、急成長の原動力になっているのだと思います」(蓑輪氏)

 また、蓑輪氏がAllbirdsの働き方の特徴として挙げたのが、IT企業のような思想で行動していること。連絡や工程管理に最新のツールを導入するのはもちろんだが、その傾向は製品開発にも現れている。

「大手シューズメーカーは、一度リリースした商品をアップデートすることは多くありませんが、Allbirdsでは日常茶飯事。最新のウェブサービスのようにちょっとしたデザインや細かなつくりをたびたび改めており、その頻度は2年で30回近くにものぼります。小売店から『もしかしてちょっと変わった?』と確認の連絡が寄せられるくらいです」(蓑輪氏)

アマゾンでの模造品販売に「私たちの環境への姿勢を真似すべきだ」

 Allbirdsがユーザーの支持を集めるもう1つの理由が、環境に配慮した素材を厳選している点だ。シューレースに再生ポリエステルを、インソールには炭素排出量を抑えるために石油ではなくヒマシ油を使用し、靴ひもはリサイクルしたペットボトルでつくられている。こうした取り組みが評価され、環境や社会に配慮した企業に送られる「B Corp認証」を取得している。

 同社のエコへの姿勢を象徴するエピソードがある。Allbirdsが人気を集め出した頃、Amazon.comがウールランナーによく似た製品を販売したのだ。

 それに対してズウィリンガー氏は、自身のブログで「あなたたちの製品がAllbirdsに似ているのは嬉しいが、それならば環境に優しい素材への使用も真似すべきだった」と表明。Amazonが石油ベースから脱したスニーカーをつくれば、地球環境により大きな影響を与えることができると表明したのだ。Allbirdsではスニーカーの素材もオープンにしている。

 こうした姿勢を支持して、環境保護活動家としても知られるハリウッド俳優のレオナルド・ディカプリオもAllbirdsに出資している。シリコンバレーの若者に同社の製品が好評なのも、きっと機能性だけが理由ではないはずだ。

「ジョーイの口癖は、『ベターワールドをつくろう』です。環境問題は一個人ではなく全人類にとっての課題であり、だからこそものをつくる企業はそれに配慮しなければならないと考えています。近年は日本でもSDGsが流行っていますが、単にバッジを身につけるだけでなくそこに込められたイシューを多くの人が理解することが大事。Allbirdsを履く人々が、少しでも環境のためにアクションしてくれると嬉しいですね」(蓑輪氏)