
Youtuberなどの配信者や、noteで文章や写真を発表する作家、ハンドメイドのクラフトを制作するアーティストなど、個人のクリエイターが収入を得ることができる経済圏「クリエイターエコノミー」が日本でも注目されつつある。米国では今年に入ってから急速に盛り上がっており、米ビジネスメディアThe Informationによると、2021年1月から半年で50社ものクリエイターエコノミー領域のスタートアップが資金調達に成功。その額は合計で20億ドル(約2195億円)にもおよぶという。
また、ニュースレタープラットフォームのSubstackやクリエイター向けクラウドファンディングサービスのPatreonといったクリエイターエコノミー領域のスタートアップがユーザー数を拡大し存在感を強める中、大手SNSもクリエイターエコノミーを意識した機能を立て続けにリリースしている。Facebookは6月にSubstackを意識したニュースレター配信機能の「Bulletin」をリリース。Twitterもサブスクリプションサービス「Twitter Blue」を開発中で、クリエイターがコンテンツを有料配信できる「Super Follows」という機能を一部ユーザーに提供開始した。
海外のメディアやニュースレターを毎日のように読む筆者にとって、クリエイターエコノミーはすでに聞き慣れた言葉だ。この潮流がいよいよ日本にもやってきたようだ。例えば、6月に開催されたピッチコンテスト「LAUNCHPAD Entertainment」ではファンコミュニティ形成を支援するツールを開発するTORIHADAやミーチューといったスタートアップが登壇した。
そして7月8日、日本のクリエーターエコノミー関連企業もこの流れにのるかたちで、「クリエイターエコノミー協会」なる業界団体の発足を発表した。
クリエイティブ活動の普及やクリエイターの保護を目指す
クリエイターエコノミー協会では、ECプラットフォームのBASE、メディアプラットフォームのnote、そしてYouTuberのマネジメントを手がけるUUUMの3社が代表理事を務める。加えてクラウドファンディングを展開するCAMPFIRE、ボイスメディア運営のVoicy、スキルマーケットを展開するココナラ、そして資産管理ツールを提供するマネーフォワードが正会員として参加している。
クリエイターエコノミー協会の発足に先立ち、BASE、noteとUUUMは6月に2426名のクリエイターを対象としたアンケートを実施している。その結果からわかったのは、クリエイターたちが「SNSや各種プラットフォームの運用知識」、「トラブル予防や自分の作品を守るための法律や権利の知識」、「誹謗中傷を受けた時の対応」などで課題を抱えているということだった。
アンケートの結果も踏まえた上で、クリエイターエコノミー協会では(1)情報発信やイベント開催によるクリエイティブ活動の普及・促進、(2)誹謗中傷や広告案件における依頼主とのトラブルからのクリエイターの保護、(3)法規制の緩和や新たなルールづくりに向けた政策提言──という3つの活動内容を掲げた。
7月8日に開催された設立発表会で、note代表取締役CEOの加藤貞顕氏は「インターネットが誕生してから四半世紀ほどが過ぎました。最近では人々が消費者だけでなく、生産者・販売者にもなり、双方向の経済活動が始まっている。それが今までとの大きな違いだと思います」と語った。
「この数年でクリエイターという言葉が持つ意味も変わってきています。これまでは作家、写真家、画家、映画監督といった、ごく一部の表現者を指す言葉として使われてきました。今では誰もがコンテンツや商品をつくり、発表・販売をすることが可能です。すべての人がクリエイターになれる時代になったのです。そしてこの流れはコロナ禍で加速しています。こうした背景があり、クリエイターを支援し、クリエイターエコノミーを拡大するためにこの協会を設立しました」(加藤氏)
炎上受け、PR記事に関する対策も進める
クリエイターエコノミー協会はまだ発足したばかりのため、その可能性はまだまだ未知数だが、クリエイターの保護という観点では、ニーズが大きいのではないか。noteでも4月には、クリエイターによるPR記事が炎上した。そのクリエイターは説明を求められ、対応に追われている。
記事は作家の島田彩氏によるもので、大阪市の新今宮エリアを訪れ、居酒屋などで出会った人たちに飲みものなどをおごってもらうなどし、「借りができた分、貸しをつくる」という考えのもと、後に出会うホームレス男性らに定食やたばこをおごるという内容だ。記事が公開されると、SNSなどで「貧困消費」といった批判が集まり、記事が電通関西支社を通して依頼されたPR記事だったことも火に油を注ぐ結果となった。
noteでは、企業・団体がクリエイターにコンテンツ制作を依頼するときのガイドライン、そしてクリエイターが第三者からの依頼で記事を書くときのガイドラインを作成し公開した。新たなガイドラインでは、PR記事における依頼内容を読者に明示することを求めている。
この件について聞くと、加藤氏は「クリエイターエコノミー協会としても(PR記事に関する)対策をしていきたい」と述べた。
「PR記事やステルスマーケティングはインターネットに残る大きな課題です。悪意がある場合だけでなく、悪意がなくやってしまう場合も結構多いと思いのではないでしょうか。発注者側と受注者側、それぞれに啓蒙したり、基準を作成するなどの整備もしていきたいと思っています」(加藤氏)
クリエイターエコノミー協会では情報発信やイベント開催の準備を進めるほか、自民党議員らの協力のもと、規制緩和に向けた課題を検討している。また、7月8日より法人会員の入会を受付けている。