
- 従来型のVC投資への疑問が創業のきっかけ
- ユニコーン企業と敵対する概念ではない
- 従来型のVCファイナンスの弊害
- VCとは異なるリターンを設計
急成長、急拡大を遂げ、評価額が10億ドル(約1100億円)を超えるスタートアップ、ユニコーン企業が続々と誕生する一方で、昨今、“ゼブラ企業”という言葉が注目されている。ゼブラ企業とは持続可能な成長を掲げ、利益と社会貢献の両立を目指す存在のことを指す。
一見すると相反するように見える2つの目標を追う姿を、白黒模様のシマウマに例えていることが名前の由来だ。2016年に起業家や投資家らによるコミュニティである米Zebras Uniteが提唱を始めた概念として知られる。
米国の西海岸ではそんなゼブラ企業の価値を重視する「ゼブラ・ムーブメント」が起こりつつある。そこでは「会社は株主のもの」「株主価値の最大化が会社の存在目的」といった考え方に異を唱え、「会社はステークホルダー全員を幸せにするために存在する」「会社は経済的価値とともに社会的価値を生み出していかなければならない」といった価値観が重視されている。巨額の資金調達によって指数関数的な成長を目指すユニコーン企業と対照的に語られることが多い。
海外では、YouTubeコンテンツ製作者、ミュージシャン、ウェブコミッククリエーター向けのクラウドファンディング・プラットフォーム「Patreon(パトレオン)」などがゼブラ企業の代表例として知られている。
また国内でも、経済的リターンと社会的課題解決の両立を図る「インパクト投資」が増えている。最近では6月、地方企業の副業・兼業に特化した人材シェアリングサービス・JOINSが、ソーシャル・インベスト・パートナーズ(SIP)と日本財団が共同運営する基金からインパクト投資の考え(編集部注:売上や利益ではなく、6カ月以上契約継続する人数をソーシャルKPIとして設定)に基づく出資を受け入れている。
JOINSに対してはマネックスグループのCVCであるマネックスベンチャーズも地方DXをテーマとするファンドから出資を行っており、経済的リターンと社会的インパクトの両方の最大化に向けたスタートアップへの投資マネーの流入が始まっている。
そんな中、社会課題の解決と持続的な経営の両立を目指すゼブラ企業の成長を支援するZebras & Company(ゼブラアンドカンパニー)が2021年6月に1億円の資金調達を実施した。果たしてゼブラ企業は今後どの程度社会に浸透する存在となり得るのか ── 代表取締役・阿座上陽平氏、陶山祐司氏、田淵良敬氏の3名に話を聞いた。

従来型のVC投資への疑問が創業のきっかけ
Zebras & Companyの設立は2021年3月。メンバーはインパクト投資やスタートアップ投資の実務経験者を中心に構成されている。
同社がゼブラ企業の成長支援を目指すに至った背景には何があったのか。共同創業者のひとりであり、2014年からLGT Impact(リヒテンシュタイン公爵家によって設立されたインパクト投資機関)でインパクト投資に携わってきた田淵氏は自身の実務経験を通じて得た問題意識をこう明かす。
「これまでに数多くの素晴らしい起業家の方々と出会う機会がありましたが、必ずしもすべての起業家がベンチャーキャピタル(VC)が求めるような“急成長”を目指しているわけではありませんでした。それにインパクト投資と言っても、当時は第三者割当増資によるVC型の投資スタイルが主流で、起業家のニーズと提供されている資金の性質がマッチしていないケースも見られました。そこにある種の“ジレンマ”を感じることもありました」(田淵氏)

起業家が描く世界と投資家が描く世界との間の“ギャップ”を何らかの方法で埋めていく必要がある──その考えのもと、2018年4月に英オックスフォードで開催された社会起業家向けイベント「スコール・ワールド・フォーラム」の会場に訪れた際に、米Zebras Uniteのファウンダーと意見交換する機会を得た田淵氏。それが直接的なきっかけとなり、自分と同じような問題意識を数多くの人々が抱えていることを知ることができたという。
「未公開企業において、株主からの要求によって本来的には必要のない上場や短期的な急成長を求められた結果、ステークホルダー全員が不幸になってしまっているケースが見られます。また上場企業においても、短期的な株価の動向に踊らされて長期的な成長の妨げになってしまっているケースがあります。こうしたある種の不幸な制約から起業家を解き放ち、ステークホルダー全員が望む方向に向かうための仕組みが求められていると個人的には考えています」(田淵氏)
ユニコーン企業と敵対する概念ではない
すでに述べたように、巨額の資金調達によって指数関数的な成長を目指すユニコーン企業と対比して語られることが多いゼブラ企業だが、共同創業者のひとりである陶山氏によれば、「必ずしもユニコーン企業と敵対する概念ではない」という。
「ゼブラ企業という概念が生まれたばかりの頃は、ユニコーン企業と対立するものとして捉える傾向が見られましたが、現在ではユニコーン企業もあって然るべきだし、ゼブラ企業もあって然るべきというように、多様性を重視した考え方にシフトしてきています。どちらが優れているというわけではありません。適した場所に適した資金があれば良いということです。スタートアップの世界においては、これまではユニコーン至上主義がどちらかといえば支配的でした。そこにゼブラ企業という形を提示することによって、供給される資金の性質を多様化させていければと考えています」(陶山氏)

ユニコーン企業は「創業10年以内」「評価額10億ドル以上」「未上場」といった条件を満たした企業と定義されている。ゼブラ企業にはこのような定義は存在するだろうか。
「ゼブラ企業に特有の要素として、『長期的でインクルーシブな経営姿勢である』『社会課題の解決を事業の目的にしている』などが挙げられます。しかし大切なことは、ゼブラ企業を“定義しすぎないこと”だと考えています。そもそも上から目線で定義すべき性質のものでもありませんし、さまざまな企業がゼブラ企業になり得るということを社会全体に対して広く伝えていく必要があると考えています」(陶山氏)
従来型のVCファイナンスの弊害
新卒で経済産業省に入省し、東日本大震災・原発事故の対応、それらを踏まえた中長期のエネルギー政策の企画立案、エレクトロニクス産業の競争力強化などに従事していた陶山氏は、事業計画も無い状態の起業家に対してリスクマネーを供給する金融の仕組みの素晴らしさに惹かれ、VCの世界に飛び込むことを決意した。
「VCでの仕事を通じて、さまざまな起業家の方々と巡り合う機会に恵まれた」と語る同氏だが、一方で、優れた事業であるにもかかわらずベンチャーキャピタリストという立場ゆえに関与できないケースもあったという。
「一定の資金を投じることで急成長のシナリオを描きやすいIT企業の場合、VCを通じて多額の資金を集める傾向にあります。一方で、農林水産業や教育産業といった中長期的な視点で事業に取り組むことで成長する企業の場合、短期的なイグジットが期待できないこともあって、資金を集めにくい傾向にあります。また、そういった企業には資金的な体力があまりないことや数値管理的な経営手法との相性が悪いことから、経営支援を行うことが難しい状況がありました」(陶山氏)

一般的にVCは指数関数的な成長に期待してスタートアップに初期段階で資金供給を実施する。しかし当然ながら、投資先すべてが順調に成長するわけではない。現実問題として、投資した場合の成功確率はどの程度が見込まれるのか。また投資先の事業が順調に進捗していない場合、どのような手段が講じられるのか。
「仮に50社に投資した場合、うまくいくのはせいぜい5社。残りの45社に対しては、担当者によっては、次第に見向きもしなくなります。特に満足のいくようなリターンをファンド全体で出すことができていないVCの場合、投資先に対してイグジットへのプレッシャーを不当にかけてきたり、ファンド期限が迫ってくると起業家に対して株式買取を請求するケースも場合によっては見られます。このような状況になると、相当な利益相反が生まれることも想定されます」(陶山氏)
VCとは異なるリターンを設計

ゼブラ企業への投資・経営支援を目的に、社会変革推進財団(SIIF)や日ノ樹、ミオアンドカンパニー、みらいターボなどから1億円を調達したZebras & Company。今後は調達した資金をもとに、1社あたり1000〜2000万円の規模でスタートアップに投資していくという。投資の手法に関しても期限が区切られており、必ずその期限までのイグジット(保有する株式の売却)が必要な“ファンド形態”ではなく、明確な期限のない“企業形態”で5年間で4〜6社に対して投資を行っていく予定だ。
田淵氏は「将来的にはもっと大きな投資規模になる可能性もある」と、将来に向けた展望を明らかにする。
「最初の3年間についてはR&D(研究開発)的なフェーズととらえており、ゼブラ企業の実証事例をつくることに注力していきます。現在はゼブラ企業への投資がビジネスとして成立するというエビデンスがそもそも不足している状況です。しかし、3年も経てばエビデンスが生まれてきて、より広範な方々に対して説得力のある説明ができると考えています。既存のスタートアップ投資とは違った方法ですがリターンが得られるということが理解された場合、数十億レベルの資金調達も見えてくると考えています」(田淵氏)
従来型のVCは、投資先がIPO(株式上場)やM&A(合併と買収)といったイグジットによって金銭的リターンを得ることを目的にしているが、Zebras & Companyはどのようなリターン設計を行っているのか。
陶山氏によれば、従来型のVCファイナンスの課題を踏まえ、Zebras & Companyは売上のレベニューシェアといった手法を取り入れ、投資家と起業家の双方にとって継続的に利益を生み出せるようにしていくことを目指すという。
「もちろん、我々も金銭的リターンを得ることを目指していますが、リターンを得る期間の考え方が従来型のVCとは大きく異なります。一般的に10年とされているファンド期間を設けず、(10倍ではなく)5倍程度のモデレートなリターンを得ることを目指しています。レベニューシェアなどの手法に加えて、エクイティとデットの中間の性質を持つメザニンファイナンスを活用した、ミドルリスク・ミドルリターンを実現するスキームについても検討しています」(陶山氏)
「社会もしくは地域社会に対してポジティブな影響を与える方々を積極的にサポートしていくことが狙いです。“急成長”ではなく“等身大の成長”の実現をサポートしながら、社会全体をより良くしていくことができたら、と考えています」(阿座上氏)
