Michael H
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本の朗読を耳で聴くオーディオブックサービスの「audiobook.jp」。500社以上の出版社と提携し、数万冊のオーディオブックを配信する。2007年にローンチ(当時のサービス名はFeBe)した古参の音声サービスだが、ここ数年で会員数が急伸している。

2018年に月額750円(税込)でコンテンツが聴き放題となるサブスクリプションプランを導入したところ、人気に火がついた。2019年10月に100万人の大台を超えた会員数が2021年6月には200万人を突破し、約1年半で倍増した。

累計会員数

運営元のオトバンクは配信コンテンツのさらなる拡充で、潜在顧客の獲得をもくろむ。そのための施策として、文章を音声に変換する「音声合成技術」を活用した新サービス「カタリテ」を開発した。初音ミクに代表されるボーカロイドのような合成音声を使って、AIが文章を読み上げるというものだ。

カタリテは、オトバンクがAI技術に強みを持つPKSHA Technology(パークシャ・テクノロジー。以下、PKSHA)とともに共同開発したサービスだ。オトバンクが持つ膨大な量の音声データを、PKSHAが開発する音声合成技術に学習させることで実現した。また、PKSHAが保有する独自のアクセント推定技術によって、一般的な音声合成ソフトウェアと比較して、より人間に近い発声の再現に成功したという。音声は、アニメ「Go!プリンセスプリキュア」のキュアマーメイド役などで知られる声優の浅野真澄さんの声で再生される。

オトバンクでは、カタリテの本格的な展開に先駆けた実証実験として、日本経済新聞の速報ニュースをベースとした記事を音声化し、audiobook.jpで7月14日から配信を開始する。聴き放題プランを利用するaudiobook.jpのユーザーに向けて、月曜日から金曜日の午後6時に配信する。当面はaudiobook.jp内に限定して音声を配信し、精度の向上を目指す。今後は日本経済新聞のアプリや日経電子版での配信も予定するほか、連携媒体を増やしていく予定だ。ただしマネタイズに関しては現時点では明確にしていない。カタリテをSaaSのように媒体社などに提供するかといった方針も未定だ。

総務省の「令和2年 情報通信白書」によると、音楽やラジオを除けば、コンテンツ市場における音声コンテンツの割合はわずか0.1%だ。カタリテの提供開始はオトバンクにとって、同社が目指す「全てのコンテンツが耳で聴ける時代」へ向けた第一歩と言えるだろう。カタリテの発表に関するプレスリリースも、文章だけでなく音声でも配信されている。