
今の時代、モノを買ったりサービスを選んだりする際に“ネット上の声”を参考にする消費者も少なくない。飲食店、宿泊施設などジャンルごとのレビューサイトや各種SNSを始め口コミの情報源はさまざまだが、特にリアル店舗に関する声が集まる場所として存在感を増しているのがGoogle マップだ。
今や同サービスは巨大な口コミサービスと言えるほど、さまざまな店舗の情報が寄せられている。店舗にとっても「Google マイビジネス」を通じてGoogleの検索結果やGoogle マップに表示される情報を最適化することの重要度は高い。それに伴い、ローカルSEOやMEO(Map Engine Optimization)と呼ばれる集客方法について耳にする機会も増えてきた。
Google マップや各種口コミサイトはうまく活用できれば集客や業務改善につなげられる可能性がある反面、特に複数店舗を抱えるチェーン店などは管理や運営の負担も大きく課題も多い。こうした事業者を支援するべく昨年11月に生まれたのが「口コミコム」だ。
開発元のmovは2015年の創業以来、国内企業向けにインバウンド支援事業を手がけている。デジタルマーケティングを主軸としたコンサルティングやメディア運営を行う中で、特に2018年頃から訪日外国人の集客施策の一環として、トリップアドバイザーやGoogle マップ、Yelpといった「クチコミサイトを活用したい」という声を聞く機会が増えたという。
当初は複数サイトに投稿された口コミを収集し、分析した上で業務改善につなげるまでの一連のプロセスを手動でサポートしていたものの、「これは仕組み化できる」と考えたことが1つの転換点となった。口コミコムはそこから開発や実証実験を踏まえ、昨年正式にサービス化したものだ。

mov代表取締役の渡邊誠氏によると、同サービスの機能は大きくは2つの軸に分けられる。1つは店舗管理の負担を軽減するためのもの。movでは現在Google マップやYahoo! MAPをはじめとした11種類の地図アプリ・口コミサイトを一元管理することができる。
たとえば営業時間を変更した際に各サイトの管理画面を開いて1件1件手動で更新作業を行わずとも、口コミコムでまとめて更新するだけで済むため負担が少ない。
渡邊氏の話ではmovの顧客の約7割が飲食店であり、特にコロナ禍で頻繁に営業時間を変えざるを得ない状況に陥ったことで、この機能の需要が増えたとのこと。現場では「Google マップと食べログで記載されている営業時間が異なることが原因でクレームにつながったケースも実際に発生している」(渡邊氏)そうで、スタッフの負担を抑えながらも複数サイトの情報を統一したいというニーズは大きい。
もう1つの機能群は複数のサイトに投稿された口コミを収集・分析するものだ。
各サイトに投稿された写真や口コミはmov上に収集してモニタリングをしたり、まとめて分析をしたりすることが可能。不適切な写真への削除対応や口コミへの返信はmovの管理画面からスムーズに実施でき、悪意のあるユーザーによって店舗情報が改ざんされた場合に自動で検知する仕組みもある。
また複数サイトに分散している顧客の声を集め、独自の切り口で分析できる点はmovの大きな特徴だ。一例を挙げると口コミをもとに店舗のQSCA(品質、接客、清潔感、雰囲気)を自動でスコアリングする機能を搭載。この指標は具体的に店舗のどのような点をどのように改善すべきか、アクションプランを考える上で大きな武器になる。


渡邊氏によると、顧客の口コミや評価を業務改善に活用する「レピュテーション・マネジメント」は以前からホテル業界を中心に浸透していたが、近年はさまざまな業界でその考え方の重要性が増しているという。
一方で大規模チェーン店など店舗を多く構える企業の場合、本部の担当者が各店舗の状況を直接把握することは簡単ではなかった。その点movであれば各店舗ごとのスコアを見比べることで、成果を出している店舗、改善の余地が大きい店舗を特定したり、傾向を分析したりしたい際にも使いやすい。
口コミコムはサブウェイやピザハットをはじめ複数の大規模チェーン店を顧客に抱えるが、上述したような機能の存在も導入の理由につながっているようだ。
同サービスの利用料金はライトプランが1店舗あたり月額4400円、自社だけでなく競合分析機能なども備えたベーシックプランが1店舗あたり月額7700円。リリースから半年の時点で利用店舗は1万店を超えており、飲食店を筆頭にレジャー施設や美容クリニック、小売店など、顧客の業種も幅広い。
movでは今後さらなる事業拡大を見込んでおり、そのための資金としてCoral CapitalおよびSMBCベンチャーキャピタルから3.3億円の資金調達も実施。7月1日より元弁護士ドットコム取締役の渡邊陽介氏を社外取締役として招くなど、組織体制の強化も進めている。
なお近しい領域ではGoogle マイビジネスや各SNSの店舗アカウントを一括管理できるサービスを運営するカンリーが6月に約4.6億円を調達しているほか、ニューヨーク株式市場に上場しているYextが日本でも事業を展開している。