
- とにかくヒアリングする徹底的な現場主義
- 小学生で「経営者になる」と決めた
- “努力のベクトル”を定めることが大事
2018年から昨年にかけて開催された主要なスタートアップ向けピッチコンテストで、入賞を総なめしているスタートアップがある。インサイドセールス用AIツール「MiiTel(ミーテル)」を開発するRevComm(レブコム)だ。プロダクトが評価される背景には、ルールに従い徹底的に努力する創業者の會田氏の哲学があった。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)
2018年12月開催の「Infinity Ventures Summit」内で行われた「LaunchPad」で第3位、2019年5月開催の「B Dash Camp」内の「ピッチアリーナ」では優勝、2019年11月開催の「TechCrunch Tokyo」の「スタートアップバトル」でも最優秀賞と、スタートアップの登竜門とされるピッチコンテストで賞を総なめしているのが、RevComm(以下、レブコム)だ。
レブコムは、AIを搭載したクラウド型のIP電話サービス「MiiTel(以下、ミーテル)」を提供している。
ミーテルの特徴は、高精度な音声解析だ。IP電話の通話内容を分析して「どちらの話者がどれくらい話したか」「会話速度」「沈黙回数」「相手の話に被せて発言した回数」「特定のキーワード」などのデータを蓄積、分析する。それにより、たとえば営業の現場であれば上司や担当者が営業トークをセルフチェックしたり、成功確率の高い言い回しをブラッシュアップしたりできるのだ。
これまで感覚で判断するしかなかったトークを定量的に分析できるため、話す内容が決まっているコールセンターのような電話応対だけでなく、法人向けなどトークスクリプトが複雑な電話営業であっても、誰もが効果的な話し方に改善できる。属人的で根性論になりやすい営業力を、テクノロジーで解決するサービスなのだ。
現在、約200社、3000ユーザーに導入されているミーテル。代表取締役の會田武史氏は、起業を決意してから3カ月で、10以上のプロダクトでトライアンドエラーを繰り返した末に、ミーテルの構想にたどり着いた。サービス誕生にいたる道のりや起業の背景について、會田氏に聞いた。
とにかくヒアリングする徹底的な現場主義
――創業までの経緯を教えてください。
2016年11月、当時勤めていた三菱商事でウクライナ駐在中に、起業を決意しました。働きながら起業の準備を行い、翌年7月に登記しました。
起業を決意してから3カ月ほどで、弁護士の打ち合わせ用ツールや心理カウンセラーのヒアリングツールなど、さまざまな分野で10以上のプロダクトを企画しました。

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まず、「課題の大きさ」「課題解決の可能性」「市場規模と今後拡大する可能性」「社会的意義」の4つを高いレベルで満たすものを整理していき仮説を立てます。その後、実際に足を運んで現場の声を拾い、市場調査を実施。ゼロベースから課題を聞き出し、一番現場のペインが強いものを探していきました。
ミーテルとはまるっきり分野が違う化粧品ブランドの美容部員の接客サービスまで考えたんですよ。会社勤めをしながら百貨店に通い、美容部員の女性たちに聞き込みしたりもしました。
――企画したプロダクトの共通点は何ですか。
最終的な目標は、経営課題を解決すること。経営判断に寄与するビッグデータを集め、経営の意思決定ができるAIプラットフォームを作りたいと考えているので、経営判断に結び付く現場の声を吸い上げられるプロダクトを、逆算して考えていきました。
――10以上あるプロダクトアイデアを、どのように絞っていったのですか。
まず、これから来る面白い領域として挙げられる「ブロックチェーン」「量子コンピュータ」「ディープラーニング」の3分野に絞り、それぞれについて勉強しました。
ブロックチェーンは面白い技術ですが、安全性を担保するために採掘者(マイナー)と呼ばれる専任者のチェックが必要不可欠です。個人情報の管理なども考えると、サービス化した時にインセンティブを作ることが難しい。また、量子コンピュータをビジネスに応用するには、10年単位の歳月を要します。今手を出すには早すぎると考えました。その結果、圧倒的に実現可能性が高いディープラーニングを選択しました。
そして、経営のペインのほとんどの問題が、コミュニケーションから生じる。音声はそのユーザーインターフェースになりつつあります。そこで、ディープラーニングと音声によるコミュニケーションを掛け合わせたサービスにしようと思いつきました。
――ディープラーニングと音声を組み合わせて、最終的にはプラットフォームを作ろうと考えているんですね。
そうです。だからこそ、プロダクト開発時も、インサイドセールス担当者の思考や感情を見るために、徹底的にヒアリングしました。50社ほどヒアリングして、各社での課題を洗い出した結果、各社共通の課題が“電話営業のブラックボックス化”にあるとわかったんです。
――“電話営業のブラックボックス化”とは、どういうことですか。
インサイドセールスの結果を報告する際、口頭で報告しようとすると必ずバイアスがかかってしまい、情報が正しく伝わらないんです。極端なことを言えば、担当者Aにとっては手ごたえのあった反応が、担当者Bにとっては全く手ごたえのない反応に感じられることもありますからね。
そうすると、担当者自身しか現状を把握できていない状態に陥ります。上司や他のメンバーからすると、その商談が成功した場合も失敗した場合も理由がわからない。
そこで正確な音声解析ができれば、これまで見えなかった電話営業の実情を客観的に可視化できるようになると考えたんです。
――開発する上で、特に注力したことは何ですか。
まず、徹底的に現場を見ました。いくつも企画を考えて、「こんなプロダクトがあったら、どう感じますか」と現場の担当者に尋ねていく。そこから出てきたリアルな声を、分類してエクセルシートにまとめていきました。非常に地道な作業ですが、おかげでブラックボックス化という課題が見つかりました。
また、見つけた課題を徹底的に解決できるようプロダクトに反映させることにも尽力しました。分析項目やプロダクトの全体構造、デザインまで、じっくり練りました。私はエンジニアではありませんから、実際にサービスを開発することはできません。そのため、できるだけ乖離(かいり)なくイメージや内容が伝わるように、再現性の高いモックアップを作成しました。
――昨年は数々のピッチで入賞を果たし、注目が集まりました。今後の狙いは何ですか。
先述の通り、ミーテルはAIプラットフォーム構想の入り口でしかありません。
さまざまなパソコンにマイクロソフトのWindows OSやインテルのマイクロプロセッサが搭載されているように、ミーテルの音声解析エンジンをセールス分野以外でも展開したいと考えています。
あらゆる分野で応用可能だと思いますが、例えばHRテック。面談・面接ツールにミーテルのエンジンを入れることができるでしょう。音声解析エンジンのプラットフォーマーとして、「ミーテル入ってる」という世界を目指していきたいです。
小学生で「経営者になる」と決めた
――起業を志したきっかけを教えてください。
小学4年生の七夕に、「経営者になる」という夢を短冊に書きました。祖父も父も経営者でしたから、同じ分野で彼らを抜かしたかったんですね。
父がデザインフィルというデザイン会社を経営しており、私が通っていた学校のクラスメイトの多くが父の作った文房具を使っていました。作るところから消費者に届くまでを近くで見ることができたので、幼心にビジネスの感触は理解していたと思います。

――経営者を夢にするのが随分早いですが、會田少年はその後どのように成長したのでしょうか。
「経営者になりたい」という夢をもったのは早かったんですが、どの分野で起業するかをずっと探していました。これがなかなか見つからず苦戦しました。“すべき”ことはすぐわかりますが、“やりたい”ことを見つけるのはとても難しかったです。
――いつやりたいことが見つかったのですか。
結局、見つかりませんでした。
大学2年の時、アリゾナに留学していたんですが、友人がホットドッグのEC販売を始めたんですね。私は「失敗するだろうな」と思いながら横で見ていると、案の定失敗しました。でも、その友人が失敗した直後に、「次何やろうかな」と言ったんです。その時は衝撃を受けました。「やりたいことが見つからない」のを言い訳して、何もせずにいた自分に気付いたんです。
それからは、「面白い人と面白いことやっていればいずれやりたいことは見つかる」と仮説を立てて、“何でもやってみよう”という精神になりました。
――ただ、大学卒業後すぐには起業せず就職しているんですね。
一度オーナーシップを捨てて修行しようと、三菱商事に入社しました。入社6年目で、ウクライナに駐在している際に、ふとこのまま安定を好みぬくぬく生きる自分を想像して怖くなりました。
目の前の仕事をバリバリやることに気持ち良くなって、一歩踏み出せていないことに改めて気付き焦ったんです。そこで、すぐに起業することを決心しました。
“努力のベクトル”を定めることが大事
――学生時代から何度も起業家精神を忘れかけては持ち直し、今があるんですね。
私が遠回りしたのは、“できない”ことに目を伏せて、“やれる”ことを増やしてしまったせいです。それではいつまでも挑戦できないので、とにかく夢中になって飛び込むしかないと、回り道してやっと気付きました。
また、起業は手段でしかありません。つい、成功への近道を探して正解を求めてしまいますが、ウルトラCは存在しない。地道にやっていくしかないのだと思います。
――近道が存在しない中、どのようにモチベーションを維持していますか。
努力のベクトルを定めることが大事だと思います。“すべき”こと、“やりたい”ことという、努力の軸を決めるんです。逆に、何のために努力しているかが明確であれば、太さや長さは必要ないと思っています。
“割引現在価値”という経済用語があります。これは、将来受け取れる価値をもし現在受け取った場合にどの程度の価値をもつかを表す言葉です。今の努力と1年後の努力では、今の努力が圧倒的に割引現在価値が高いのです。
そして今努力した分は、1年後に大きな価値に化ける。だからこそ、今努力すべきなのだと思っています。