
グローバルではShopify、日本ではBASEやSTORESなどのサービスが広がることでさまざまな事業者や個人が簡単にEコマースに挑戦し、消費者に商品を販売できるようになった。一方でB2Bコマースの領域、つまり卸売に関してはまだまだハードルが高い。
2020年9月にベータ版のローンチを迎えた「orosy」はそのような現状を変える、卸売・卸仕入れのプラットフォームだ。
同サービスを展開するスペースエンジン代表取締役の野口寛士氏によると、orosyの構造は「B2B向けのAmazon」をイメージするとわかりやすい。卸売に取り組みたいサプライヤーがorosy上に自社の商品を掲載し、バイヤーはその情報を見て気に入った商品をオンライン上で仕入れる。
ユーザー登録や出品などは全て無料で、取引が成立した際にサプライヤーが販売額の10%を手数料として支払うビジネスモデル。現在orosy上には雑貨や美容、ファッションなど幅広い領域の商品1万点以上が並ぶ。

サプライヤーに関しては大量生産していないメーカーや独立系のブランドなど、独自の製品を扱っているユーザーが多い。D2Cブランドを手掛けるスタートアップが増えてきているほか、主にOEMメーカーとして他社製品の製造部分を担っていた老舗企業が自社製品に力を入れる際にorosyを使うケースもあるという。
また冒頭で触れたShopifyやBASE、STORESのほか、カラーミーショップなどのEコマース構築サービスと連携をしており、サプライヤーの約60%はいずれかと併用している。各ECサービスを使って消費者向けに事業を広げてきたブランドが、新たな打ち手として卸売に着手する際にorosyを活用するわけだ。
ページの開設自体は無料のため、サプライヤーの視点では月額0円からB2Bの窓口を作れる点が好評なのだそう。実際に消費者向けECサイトのフッターなどに「Wholesale」「卸販売はこちら」といった形でorosyへのテキストリンクを貼り、同サービスを“自社の卸販売用ページ”として活用しているブランドもある。

一方で現在500社を超えるバイヤーについては、ユニークな商品を仕入れたい実店舗やEC事業者がメインユーザーだ。
野口氏によると「独自のラインナップで、他では見たことがないものがたくさん並んでいる点を評価してもらえている」とのこと。バイヤー企業の担当者は既存の問屋経由だけでなく、Instagramや雑誌などを使って目ぼしい商品を探し、直接仕入れることも珍しくない。ただその際の交渉が課題になっていたという。
「他の店舗とかぶりたくない、オリジナルの商品を仕入れたいというニーズはとても強いです。ただ(直接コンタクトを取る場合)その際の交渉が大変でした。与信の問題をどうクリアするか、ロット数をどうするかなどの点がネックになり難航してしまうことも多い」(野口氏)
orosyの場合は口座開設、与信審査、契約書など双方にとって煩わしい作業が一切ない。加えてバイヤーの決済手段として最大60日の後払い(最大300万円)に対応しているほか、6月からはサプライヤー向けの売上金早期出金サービス(3%の手数料を追加で支払うことで出荷翌日に売上金を入金する)の提供もスタート。こうした取引を円滑にする仕組みもユーザー増に貢献しているようだ。
またorosyを使う前からやりとりのある「既存取引先との受発注」に同サービスを用いると、通常10%の手数料が0%になるプログラムも展開。既存顧客との取引でも後払いや早期出金などの恩恵を受けられるようになるため「サプライヤーが既存取引先のバイヤーを自発的にorosyに連れてきてくれる」ことにつながっているという。
今後はバイヤーが初めて購入するブランドの商品については60日以内であれば返品が可能になる機能や、自社に合った商品を見つけやすくなるリコメンドの仕組みなどを提供する方針。スペースエンジンは事業拡大の資金として複数の投資家を引受先とした第三者割当増資により総額1.8億円の資金調達も実施した。
・SIG Japan Fund
・Gaurav Gupta氏(Light Street Capitalパートナー)
・STRIVE
・G-STARTUP
・Coral Capital(既存投資家)
・ANOBAKA(既存投資家)
・Plug and Play Japan(既存投資家)
B2Bコマースの領域ではorosyがベンチマークとしている米国発のFaireが近年急激な成長を遂げており、6月に評価額70億ドルで2億6000万ドルの資金調達を実施したばかり。ShopifyもHandshake(2019年に買収)を通じてこの市場で事業を広げている。
日本においても以前からスーパーデリバリーやNETSEA(ネッシー)といったサービスが存在するが、「どちらかというと問屋のDXという色が強く、独立系やクラフト系のブランドが多く集まっている自分たちとは方向性が異なると考えています」というのが野口氏の見解。Faireやorosyと近しいプレイヤーとしてはスタートアップのhomulaが卸売・仕入れのマーケットプレイスを運営しており、5月末に累計1億円の資金調達を発表している。