
- 「Googleカレンダー」ですらシェア1割だった、Z世代のカレンダー事情
- クローズドな場所での“共有”は当たり前だからこそ求められるサービス
- 米国ではソフトバンクが支援する評価額11億ドルのカレンダーアプリも登場
中学1年生でスマートフォンを手にして「LINE」を使いはじめ、高校生の頃には「SnapChat」や「Vine(Twitterが買収した6秒動画の共有サービス。現在はサービス終了)」で動画を共有し、大学生の頃には「Instagram」で写真やメッセージを送るだけでなく、「Zenly(友人と位置情報を共有する米国発のSNS)」で今いる場所を共有して、仲間と遊ぶ──そんなZ世代による、Z世代向けのソーシャルカレンダーアプリ「Skele(スケル)」が7月27日にiOS版を正式にローンチした。
スケルは友人や家族、恋人など、親しいとのスケジュールの「共有」を前提としたiOS向けのカレンダーアプリだ。通常のカレンダーアプリ同様に自分のスケジュールを登録するだけでなく、スケル上にいる友人である「フレンド」のカレンダー、スポーツの試合スケジュールやアーティストの公演・メディア出演スケジュールといった、有志が公開するイベントカレンダー「推しカレ」を表示することができる。情報はカレンダー形式だけでなく、時系列で友人らのアクションを表示する「タイムライン」でも閲覧可能だ。
フレンドのカレンダーはスケル内でユーザーIDを検索して承認申請を行い、承認されて初めて共有されるため、リアルでの知人や友人との利用を想定している。一方、推しカレはユーザーであれば誰でも自由に作成でき、既存の推しカレについては、フォローするだけでカレンダーを閲覧できる。
またフレンドの予定を確認した上で、一緒に遊んだり行動したりする予定を立てる「予定リクエスト」の機能を備える。iOSのカレンダーに登録済みの予定をコピーすることも可能だ。

「Googleカレンダー」ですらシェア1割だった、Z世代のカレンダー事情
サービスを開発するpowは2019年9月の設立。代表取締役の柳澤蓮氏は現在23歳、取締役CTOの坂下怜緒氏2人が青山学院大学在学中に起業した。7月27日にはシードラウンドとして、ベンチャーキャピタル(VC)のANOBAKA、イーストベンチャーズのほか、グッドパッチ代表取締役社長兼CEOの土屋尚史氏、ファンコミュニケーションズの代表取締役社長の柳澤安慶氏、その他1人の個人投資家から総額5100万円の資金を調達したことを発表している。
IT業界を中心に、ビジネスシーンでは「Googleカレンダー」が主流となりつつあり、一方でコンシューマ向けではカレンダーアプリ「TimeTree」が今年5月に登録ユーザー3000万人を突破するなど、「強者」が明確になりつつあるようにも見えるカレンダーサービス業界。最近では「Calendly」や国産の「Spir」などのビジネス向けの予定調整サービスもプレーヤーがひしめきあう状況だが、柳澤氏らが狙うのは、Z世代を中心とした若者たちだ。
「実はサービスを立ち上げる前、18歳から25歳にアンケートを取ったところ、Googleカレンダーを使っていると回答したのはわずか10%でした。ほかの人も『Lifebear』や『シンプルカレンダー』といった回答が10%いるかいないかという状況でした」(柳澤氏)
クローズドな場所での“共有”は当たり前だからこそ求められるサービス
若い人にとってのデファクトスタンダードになっている存在がない。そしてスマートフォンの黎明期からプロダクトとして大きな変化がない領域。そう考えてpowはカレンダーというプロダクトを選んだ。
「僕ら世代は、プライバシーや価値観がこれまでの世代と変化しています。動画共有は当たり前、大学生は位置情報も情報を共有しています。ですからSNSで実名公開をすることも当たり前になっています」
「その一方で、Twitterやインスタは鍵アカ(鍵アカウント。承認者以外に非公開にしたアカウントのこと)にして、自らソーシャルグラフを制限した上で、パーソナルな情報を共有しています。これからはどんどん(グラフを制限した)ソーシャルに情報を公開するようになっていくと思っています」
「今、ソーシャル化されていないものは何か、と考えたのがカレンダーでした。そして、そのソーシャル化されたカレンダーでターゲットにするのは、リアルでの知り合いによる、クローズドなコミュニティです。既存のSNSはソーシャルグラフが広がりすぎてしまって、(発信した内容がどう波及するか分からない、何が炎上するか分からないという意味で)自分では管理できなくなってしまっています。例えばフォロワーをリアルな知人10人だけに限定するとか、すごくパーソナルな場所でのコミュニケーションが求められています」(柳澤氏)
米国ではソフトバンクが支援する評価額11億ドルのカレンダーアプリも登場
この領域で先行するのは、米国のソーシャルカレンダーアプリ「IRL」だ。IRLも十代を中心に若者に人気のカレンダーアプリで、友人とのスケジュール共有やイベント情報の共有ができるほか、メッセージ機能などが人気となっている。MAU(月間アクティブユーザー)は2000万人超、1日あたりのメッセージ送信数は1億件にも上る。6月には、ソフトバンクをリードインベスターとしたシリーズCラウンドで1億7000万ドルを調達。バリュエーション(評価額)は11億ドルに達したと報じられた。
柳澤氏はIRLについて、柳澤氏はIRLについて、コロナ禍の中でメッセンジャー機能が大きな成長を促したと分析。一方でスケルについては、まずはカレンダーとしての利便性を提供し、そこからソーシャルな機能を開発している状況だと説明する。今後はAndroid版アプリの開発のほか、ソーシャル機能の強化、スポーツやアーティストなどの公式の推しカレの提供などでの特定属性の“ファン”の取り込みなどをねらう。
将来的には広告や推しカレを通じたイベントのチケット購入、サブスクでの機能提供なども検討するが、当面はプロダクトの開発に注力するとしている。