メンテモでは街の⾃動⾞整備・ 鈑⾦⼯場をネット予約できるサービスを開発している
メンテモでは街の⾃動⾞整備・ 鈑⾦⼯場をネット予約できるサービスを開発している すべての画像提供 : メンテモ
  • アメリカの大学を中退し18歳で起業
  • 試行錯誤を続ける中で見つけた「自動車アフターマーケット」の可能性
  • マーケットプレイスで双方の課題解決、資金調達でさらなる事業拡大へ

質の高い自動車整備工場を、スマホから簡単に検索・予約できる──8月2日にローンチを迎えた「メンテモ」は、自動車アフターマーケットの課題解決を目指して開発されたサービスだ。

サービスのキャッチフレーズは「探せる、見つかる 愛車の主治医」。ビジネスの構造はシンプルなマーケットプレイスで、自動車の修理を依頼したいユーザーと整備工場や板金工場を直接つなぐ。実際に作業依頼が発生した際に事業者から手数料を受け取るビジネスモデルだが、当面は無料で提供する方針だ。

ユーザーから見て“入りにくい”イメージのあった工場の情報をオンライン上に整え、事前にその特徴を把握してから予約できる環境を構築。従来は電話予約が主流だったところをネットで完結するように変えた。また一定の作業品質が担保されるように、独自基準の審査に通過した工場のみを掲載している。

サービス開発元のメンテモで代表取締役を務める若⽉佑樹氏氏は1998年生まれの22歳。18歳で起業して以降、コンシューマー向けのアプリをいくつも立ち上げてきた人物だ。

その若月氏が自動車アフターマーケット領域で新たなサービスを作った背景には、自身が車好きであることに加え、同氏の祖父が自動車鈑金業を営んでいることも大きく影響しているという。

アメリカの大学を中退し18歳で起業

メンテモ代表取締役の若⽉佑樹氏
メンテモ代表取締役の若⽉佑樹氏

「アメリカの大学に行く前から、いずれは日本に帰ってきて自分たちでスタートアップをやりたいなと考えていました」

若月氏が起業を明確に意識するようになったきっかけは、高校卒業後に東京のスタートアップでインターンをしたことだ。

もともと山梨県の高校在学中から物販やイベントの運営など小規模なビジネスに挑戦する中で、その一環としてウェブ開発の受託などにも取り組んでおりITの知識があった。卒業後はアメリカの大学に進む予定だったため、ギャップイヤーの期間を活用して都内のスタートアップで働いたことを機に、起業を考えるようになったという。

結局はアメリカの大学を数日で退学し、帰国後すぐに友人と3人で会社を創業。当初はグルメサービスを作るも上手くいかず、VR関連の受託事業をやりながら食いつないでいた時期もあったが、ベンチャーキャピタルから出資を受けたことで再び自社サービスに挑戦することを決めた。

2018年に生まれたチャットアプリの「NYAGO(ニャゴ)」は、チャットを始める側だけが匿名で送信でき、なおかつ毎朝6時にはチャットの内容が消えるという新しい切り口がウケて、ローンチ1週間でインストール数が1万件を突破。スタートアップ界隈を中心にちょっとした話題を呼んだ。

ただ想定を上回る反響に対して開発が追いつかず、1週間でサービスを停止。その後も大々的にサービスを再開することはないまま、NYAGOは幕を閉じる。

かつて開発していたNYAGO
かつて開発していたNYAGO

試行錯誤を続ける中で見つけた「自動車アフターマーケット」の可能性

NYAGO以降も若月氏らはいくつものC向けサービスを「作っては壊す」という経験を繰り返した。

やがて共同創業者と別々の道を進むことを決めた後も、1人で試行錯誤する日々が続く。その結果として、最終的に行き着いたのが現在開発に取り組むメンテモのアイデアだった。

「まず自分自身が車を買ってみて、ディーラーに持っていくのが面倒だと思ったのが1つの理由です。そしてもう1つの理由が祖父が板金屋を営んでいたこと。(祖父の板金工場は)下請けで『今月は仕事があまりない』『付き合いで車を買わないといけない』といった話を以前から聞いていて、大変だなと感じていました。最初は双方が直接やりとりできるようになれば、それぞれの課題を一気に解決できるかもしれないというありがちな考えからスタートしました」(若月氏)

祖父の工場が山梨にあっただけでなく「そもそも対象となるユーザー自体も地方の方が多いのではと考えた」ことから、若月氏は山梨県に営業所を開設。もう1人のメンバーを誘い、事業者の開拓やヒアリングを進めた。

自身が大の車好きで思い入れが大きいこともあり、次の挑戦に自動車領域を選んだ
自身が大の車好きで思い入れが大きいこともあり、次の挑戦に自動車領域を選んだ

とはいえ、現地に大勢の知り合いがいるわけではない。最初はFacebookなどを使って手当たり次第にコンタクトを取ったが、当然ながらそのほとんどは“スルー”された。ただ、その中で唯一返信をくれた事業者が丁寧に業界の構造や悩みなどをレクチャーしてくれたことで、重要なインサイトを発見できたという。

「その事業者さんが話していたのが『たとえば寿司の場合、回転寿司店やカウンターの寿司屋など店ごとの特徴がお客さん側もある程度わかるが、板金や整備工場の場合はそれがほとんどわからない』ということ。事業者によって特徴やクオリティに大きな差があるのに、その違いが一般のユーザーからはわかりづらい状況になってしまっている点に課題を感じました」(若月氏)

前提として整備工場や板金工場をオンライン上で探せるサービス自体は以前から複数存在しているが、事業者に話を聞くと必ずしもみんなが登録しているわけではない。その理由は他の事業者と横並びで掲載され、価格面などの違いだけで比較されてしまう可能性があるからだ。

そこでメンテモでは個性があり、品質の高い工場だけを集めた審査制のマーケットプレイスというアプローチを採った。

一方でユーザーサイドの声も聞いてみたところ、整備工場や板金工場に対しては技術や料金の面で良いイメージを持っている人が多い反面、「圧倒的に入りづらい」ことが最大のハードルになっていることもわかった。

「板金工場や整備工場は社名の入った看板しかかかっておらず、外から見てもよくわからず、入りづらいところも少なくありません。(ユーザーの視点で)情報の不透明性が高いので、それを解消する必要があると考えました」(若月氏)

マーケットプレイスで双方の課題解決、資金調達でさらなる事業拡大へ

メンテモの画面イメージ。スマホで工場の検索、予約が完結する
メンテモの画面イメージ。スマホで工場の検索、予約が完結する

このようなヒアリングとそれに伴う軌道修正を何度か重ねた後、メンテモでは2021年の3月から山梨県に絞ってベータ版のような形でサービスの提供を始めた。

冒頭で触れた通り仕組み自体はシンプルだが、「完全審査制で間違いのない事業者しか出てこないことを重視しました。また業界では当たり前でなかった電話のやりとりなしで予約できる仕組みを導入しています」と若月氏は説明する。

現時点ではまだ実装できていないものの、今後は各事業者の特徴やこだわりが伝わるようなサービスへとアップデートしていく計画。レビューなども溜まっていけば、ユーザーにとって“自分にあった事業者”をスムーズに探せる場所になりうる。

そうなれば「本当に良い仕事をしている事業者が報われることにもつながる」というのが若月氏の考えだ。

3月から試験的にサービスを運用する中で、まだまだ規模は限定的であるものの「車を大切にしているような人しか頼まないようなニッチなカテゴリにおけるオーガニック流入が発生していたり、2回以上サービスを使うようなユーザーも生まれてきている」ことから、ある程度の手応えも掴めているそう。

メンテモでは2020年から2021年にかけてジェネシア・ベンチャーズ、みんなのマーケットなどを引受先とした資金調達も実施済みで、この資金も用いながらサービスの強化を進めるほか、ゆくゆくはサービスの有料展開(現在は無料で提供)や対象エリアの拡大も見据えている。

自動車アフターマーケット領域の課題解決という観点では、アプローチは異なるものの6月に自動車の整備・修理出張サービス「セイビー」を手掛けるSeibiiが約8.4億円を調達。まだまだスタートアップが開拓できる余地が大きく、今後盛り上がっていくマーケットと言えそうだ。

「自分たちがやりたいのは、少しでも車を長く乗り続けられるような環境を作っていくこと。今回のサービスはその1つ目であり、今後も車を大事にしていくようなアプローチで、いくつかの事業に挑戦していきたいと思っています」(若月氏)