スナックミー代表取締役の服部慎太郎氏。オフィスにはボックスに詰める前のお菓子が並ぶ Photo by Yuhei Iwamotoスナックミー代表取締役の服部慎太郎氏。倉庫を兼ねたオフィスにはユーザーに送付する前のお菓子が並ぶ Photo by Yuhei Iwamoto
  • ユーザーの好みに合わせて毎月8種類のお菓子を配送
  • 代表はコンサル、DeNAのベンチャー投資担当を経て起業
  • サブスクとデータ活用の「お菓子版ネットフリックス」
  • 新製品もユーザーに提供してA/Bテスト
  • 100万件以上の評価データで満足度を上げる
  • ユーザーの「贅沢な時間」を支えるサービスに
  • 「お菓子といえばカルビー・森永・スナックミー」といわれる存在を目指す

自然素材から作られたお菓子を毎月届けるサブスクリプションサービス「snaq.me(スナックミー)」がユーザー数を伸ばしている。その原動力になっているのは、これまで100万件以上集めた「お菓子の評価データ」だ。サービスを運営するスナックミー代表の服部慎太郎氏に話を聞いた。

ユーザーの好みに合わせて毎月8種類のお菓子を配送

 客が自分で商品を「選べない」、異色のお菓子サービスが人気を集めている。

snaq.me(スナックミー)」は、定期的にお菓子が届くサブスクリプションサービスだ。お菓子のラインアップは、ドライフルーツやクッキーなど約130種類。その中から8種類が送付される。人工添加物を用いず、自然素材で作られたシンプルな味付けが特徴だ。価格は月1回のプランで月額1980円。月2回のプランなら1回あたりの価格は1930円になる。

 こう書くと単なるオーガニック食品のECのように思えるかもしれないが、一味違う。どんなお菓子が届くのかは、毎月届くボックスを開けてみるまでわからないのだ。ユーザーは購入時に「お菓子の好み」や「食べるタイミング」といった質問に答える必要があるのだが、その回答をもとに、毎回異なるお菓子を届けてくれる。お菓子の種類は約130種あり、そこから厳選した8種類のお菓子をボックスに詰めて送付する。気に入ったお菓子があればリクエストもできるが、それが次回届くのか、その次に届くのか、ボックスを開けるまで分からない。

 売上は非公開だが、2015年の創業から安定的に成長を続けているという。特にこの半年間は、ユーザー数が毎月10%ずつ増加している。ユーザーの多くは都内で働く20代半ばから30代前半の女性で、「頑張った自分へのご褒美」といったOLや「子どもと一緒に食べる安全なお菓子」といった母親のニーズをとらえて人気を博しているそうだ。

 筆者もいくつかの商品を食べてみた。人口添加物が入っていないためシンプルな味ではあるが、決して甘みが弱いわけではない。むしろ素材の味が強く感じられる上に少し硬めの食感のものが多く、お菓子を”食べている”という感触を強く味わうことができる。疲れている時やそこまで強い味が欲しくない時など、幅広いタイミングで楽しめる。

 運営元のスナックミーは5月28日、W ventures、Spiral Ventures Japan、SMBCベンチャーキャピタル、LINE Ventures、朝日メディアラボベンチャーズを引受先とした総額約2億円の第三者割当増資も発表しており、事業を拡大しているところだ。

代表はコンサル、DeNAのベンチャー投資担当を経て起業

 スナックミー代表取締役の服部慎太郎氏は、ボストン コンサルティング グループやディー・エヌ・エー(DeNA)のベンチャー投資部門で活躍してきた経歴をもつ。仕事で関わってきた起業家の姿に憧れ、2015年9月、34歳で起業。その時に事業領域として選んだのが、”お菓子”だった。

「特にコンサル時代は働き詰めで、(時間がなくて)机の中にあるお菓子が主食になるような生活を送ってきました。この頃から、週末にはマルシェに行く習慣があったのですが、近場ではなかなかお気に入りのお菓子を購入できない状況でした。それを変えたいという思いがあったこと。そして子どもが生まれてから、お菓子の原材料や成分に気を遣うようになったのが、このサービスを選んだ動機でした」(服部氏)

 当初は自然派のお菓子を自社でセレクトし、組み合わせて販売するかたちで事業をスタートした。しかし、ユーザーが増えるにつれ「もっとこういうお菓子を食べたい」「このお菓子に別の味はないの」といった声が届くようになってきた。

「だったら自社で手がけてしまえば」と、2018年からはオリジナル商品の提供に事業を転換した。現在は社内にシェフを置いてレシピを開発し、OEMで製造。それを社内でパッケージングして提供するモデルになっている。

毎月8種類のお菓子がボックスに詰められて届く毎月8種類のお菓子がボックスに詰められて届く「Snaq.me」 Photo by Y.I.

サブスクとデータ活用の「お菓子版ネットフリックス」

 服部氏がサービス設計時に強く参考にしているというのが、動画サービス「Netflix(ネットフリックス)」だ。全世界で1億5000万人近いユーザーを抱えるこのサービスを特徴づけるのは、月額料金を払えば映画やドラマが見放題になるサブスクリプションモデル。そして、ユーザーの性別や年齢、これまでの視聴履歴から好みの作品をレコメンドしてくれるパーソナライズ機能だ。スナックミーではこれにならい、サブスクリプションモデルの採用に加え、レコメンドエンジンの独自開発もしている。

 冒頭にもあるように、ユーザーは初回注文時に、1分程度で回答できる「おやつ診断」という質問集に回答することになる。「おやつと一緒に飲むのはコーヒーor紅茶?」「お酒は飲む?」「食べられない原料はありますか?」といった質問から、お菓子の好みや食べるタイミングなどを診断。その結果をもとにプログラムがユーザーの好みを判断し、配送するお菓子を決定する。

 ユーザーは届いたお菓子それぞれに対してオンラインで4段階の評価をしたり、LINEのメッセージを通じて感想を送ることができる。Snaq.meはこれらの評価や感想をもとにユーザーのプロファイリング精度を高めて、次回以降はよりユーザーの好みに合ったお菓子を届けるとしている。

新製品もユーザーに提供してA/Bテスト

 またスナックミーでは、ユーザーからの評価をお菓子ごとに集計し、サービス向上に役立てている。その一例が、新製品開発でのA/Bテストだ。一般的なお菓子メーカーでは新製品を社内や専用のレビュアーに試食してもらうことが多いが、スナックミーでは毎月のボックス商品の中に新製品を混ぜて、直接ユーザーから意見をもらっているのだという。

「お届けする8つのお菓子のうち6つほどはユーザーの好みを反映させますが、残りはあえてプロファイリングからは少し外れたお菓子も選んでいます。好きなものばかり選ぶと、同じお菓子ばかりを送ることになりがちです。そこで新しいお菓子との出合いも楽しんでもらえるように考えています」

「たとえば2つのフレーバーのうちどちらを新製品として正式に採用するか迷ったときにも、ユーザーごとにフレーバーを変えたお菓子をボックスに入れて、通常のお菓子と同じように4段階評価や感想を送ってもらっています。従来の試食ではひいき目の回答が集まることがありますが、我々の手法ではユーザーの正直な回答が集まります。ユーザーは『自分に届くボックスの中身をより良くしたい』という思いで回答してくれるからです」(服部氏)

 新製品の開発スピードも早い。多くのお菓子メーカーでは新製品開発に半年から1年を費やすが、スナックミーでは社内のシェフを活用して2週間程度で試作品を完成させ、ユーザーの反応を加味して修正する。開発の早い段階でユーザーの声を直接取り入れることで、スピートとクオリティを両立した製造プロセスを実現した。

 すでにSnaq.me以外の商品展開も始まっている。たとえば、「お菓子をスポーツの合間に食べている」というユーザーの声が一定数あったことから、健康志向の女性向けに、植物由来成分のみで作ったオリジナルのプロテインバーを開発し、「CLR BAR(クリアバー)」という別ブランドとして切り出した

100万件以上の評価データで満足度を上げる

 収集したデータは、取り扱うお菓子の見直しにも活用されている。ラインナップ全体のうち約2割は、毎月新しいラインアップと入れ替えている。

「これまでに集めたお菓子ごとの評価データは、すでに100万件以上。ひとつのお菓子について300件くらいの評価が集まると評価が収束して、今後の扱いが決まります。おつまみ系のお菓子などは『全体での評価は高くないが、一部のユーザーが非常に気に入っている』ということがあります。そういったお菓子はリクエスト専用にするなどして、ユーザーをがっかりさせないように工夫しています。こうした声がユーザーから十分に集まるので、最近は社内での試食会もそれほど重視していないくらいです」(服部氏)

 またスナックミーでは、一部賞味期限の近いお菓子を社内販売しているが、商品を廃棄することはほとんどないという。サブスクリプションのおかげで、事前に出荷量を予測できるからだ。

「かさばりやすく、売価も高くない自然素材のお菓子は、これまでECには向いていないといわれてきました。特にSnaq.meは保存料を使わないため、在庫リスクの解決は重要です。賞味期限の近い商品をユーザーに送ることもできますが、それでは満足度が下がってしまいます」

「そんな課題を解決したのがSnaq.meのモデルです。サブスクリプションで(受注数が見えるので)ムダな在庫を抱えず、データを活用することで商品ラインナップを素早く更新し、ユーザーの満足度を保つことができています」(服部氏)

ユーザーの「贅沢な時間」を支えるサービスに

 スナックミーの成長を後押しするもう一つの要因が、ユーザーコミュニティの構築だ。これまで同社はほとんど広告を打っていない。インスタグラムをメインとしたSNS上の口コミによって、知名度を高めてきたのだという。

 ボックスやお菓子のパッケージに、ついつい写真を撮りたくなるようなおしゃれなデザインを採用。SNSへの投稿を促しているほか、ユーザーのSNS投稿や新しいお菓子のラインナップ、OEM先のメーカー紹介などを掲載したオリジナル冊子を同封。年に数回はオフラインイベントも開催し、ユーザー同士がリアルで交流する機会を提供している。

「お菓子を届けるだけではありません。SNSに綺麗な写真を投稿したりして、贅沢な時間を味わってもらうまでがSnaq.meです。その意味で我々の競合は、スターバックスなどの『贅沢な時間』を提供するサービス全般だと捉えています」(服部氏)

「お菓子といえばカルビー・森永・スナックミー」といわれる存在を目指す

 スナックミーでは、今回の調達資金をエンジニアの採用や倉庫設備の拡大に充てる。日本全国のユーザーによりスムーズに価値を届けるための設備強化が短期的な目標だという。

 一方で、長期的な目標は素材を生かしたお菓子ブランドとしての認知向上だ。前述のプロテインバーのほかにも、ジャーキーに特化したブランド「JQ」などを展開しているが、今後もオリジナル製品の開発に注力していく。

「2018年のお菓子の流通市場は小売ベースで約3.3兆円(編集部注:全日本菓子協会の発表では3兆3909億円)。その中でも5000億円ほどが自然素材、健康を意識したお菓子だといわれています。D2C(Direct to Consumer:メーカーが自社のECサイトを通じて直接ユーザーに商品を販売するモデル)だと1つのブランドでどこまでいけるかは課題なので、(プロテインバーやジャーキーなど)複数のオリジナルブランドで人気を獲得し、それを束ねるブランドとしてのスナックミーを認知してほしいと思っています。目指すのは『お菓子といえばカルビー・森永(製菓)・スナックミー』と呼ばれるところです」(服部氏)

スナックミーの服部氏らとベンチャーキャピタルら服部氏(後列右から2人目)、スナックミーCTOの三好隼人氏(後列右から1人目) 取締役COOの三田村健一(前列)と、同社に投資するベンチャーキャピタリストら Photo by Y.I.