
ファンドサイズの拡大とあいまって、VC(ベンチャーキャピタル)の守備範囲が広がり始めている。
従来は起業して間もないシード期のスタートアップに投資をしていたVCが、既存投資先への追加投資を含めてシリーズA段階の企業にも投資を行う。反対にミドルステージからレイターステージを主戦場としていたVCが、より若いフェーズのスタートアップも支援するようになる──。そのような動きが国内のVCでも活発になってきた。
日米に拠点を構え、シリーズAラウンドのB2Bスタートアップを中心に投資を行ってきたDNX Venturesもその1社だ。同社ではこれまでメインファンド(約330億円の3号ファンド)の一部をシード投資に当ててきたが、その動きをさらに加速させるべく、日本のシードスタートアップに特化した30億円の新ファンドを組成した。
DNXのマネージングパートナーで日本の代表を務める倉林陽氏によると、今回シード特化ファンドを立ち上げた背景には「(投資家の目線で)シリーズAにおける日本の競争環境が激しくなってきている」ことも影響しているという。
特に同社が積極的に出資をしているB2B SaaSに関しては投資家の注目度が高く、大型の資金を集める企業も増えてきている。シリーズAの段階ではプロダクトの検証が終わり、今後の成長軌道がある程度予測できるケースも多いため、人気の企業には複数の投資家が殺到しやすい。
「『シードからの付き合いがあるので、他社よりもバリュエーション(評価額)は低いけれどDNXに投資をして欲しい』と言われるケースが出てきているように、シードの段階から投資をして信頼関係を作れていることが、(メインの)シリーズAにおいて良い投資をすることにもつながっています」(倉林氏)
DNXでは3号ファンドからのみでも23社へシード投資を実施しており、そのうち7社についてはメインファンドを通じたシリーズAでの投資もすでに実行済み。売上のないシード期の段階から伴走し、成長を支援しながら次のラウンドでも継続的に出資するという流れが生まれ始めているという。

20年9月にはB2Bのシードスタートアップを主な対象としたインキュベーションオフィス「SPROUND(スプラウンド)」を品川に開設。スタートアップ間で成長ノウハウが循環するようなコミュニティ作りにも力を入れてきた中で、新ファンド設立をきっかけにシード投資を本格化していく方針だ。
倉林氏によると同ファンドにはデジタルホールディングス、日本政策投資銀行グループ、そのほか大手システムインテグレーターなどの事業会社がLPとして出資しているとのこと。B2Bのスタートアップを対象に1社あたり5000万円の上限をめどに投資を進めていく予定で、すでに以下の4社を含む6社へ新規投資を実行している。
- エアドア:不動産のオンライン賃貸プラットフォームを開発
- DIGGLE : 予実管理SaaS「DIGGLE」を開発
- Toremoro:デリバリープラットフォームの一元化SaaS「Orderly」を開発
- ヤモリ:不動産オーナー向けSaaS「大家のヤモリ」などを開発

また今回のファンドでは米国のB2B領域では事例が増えている「スタートアップの買収による事業開発(コープ・デブ、Corporate Development)」の支援にも取り組む。
アメリカなどに比べると日本のスタートアップのM&A事例はまだ少ないものの、今後は新興上場企業を筆頭にM&Aの件数も増えていくのではないかというのが倉林氏の見立てだ。
倉林氏が社外取締役を務めるマネーフォワード、つい先日にもBassetのグループ会社化を発表したメルカリ(メルコインを通じてBassetの全株式を取得)などを始め、成長したスタートアップが若いスタートアップをグループに招いて事業拡大を目指す動きもより活発になっていくかもしれない。
なおDNXのシード投資先についても複数のM&A事例がすでに生まれているそうだ。