Toremoroが開発するデリバリープラットフォームの一元化SaaS「Orderly」
Toremoroが開発するデリバリープラットフォームの一元化SaaS「Orderly」

コロナ禍において日本の飲食市場でもフードデリバリー市場が一気に拡大した。国内外の複数サービスが普及し、飲食店の中にも新たな収益源としてデリバリーに着手する事業者も増えてきている。

一方でデリバリーサービスが広がり始めたがゆえに、新たな課題も生まれつつある。その代表格が「店舗に増え続けるタブレット問題」だ。

通常、飲食店はデリバリーサービス経由の注文をタブレット端末を用いて受け付ける。問題は、対応するサービスと同じ数だけ端末を用意しなければならないこと。たとえばUber Eatsと出前館に対応したいと思えば、別々の端末が必要になる。

売上を拡大したいものの、そのために対応サービスを増やすとなれば必然的にタブレットの数も増え、管理するための負担が増加してしまう。そのような飲食店の悩みの解決策として、2018年6月設立のスタートアップ・Toremoroではデリバリープラットフォームの一元化SaaS「Orderly(オーダリー)」を展開してきた。

Orderlyでは複数のデリバリーサービスの受注・売上を1つのタブレットで管理できる
Orderlyでは複数のデリバリーサービスの受注・売上を1つのタブレットで管理できる

同サービスの特徴は、これまでデリバリーサービスの数だけ必要だったタブレット端末が1台で済むこと。Uber EatsやWolt、エニキャリなど5つのサービスに対応しており、これらのサービスの注文については1台のタブレットで管理することが可能だ。

現時点では対応サービスの数に限りはあるものの、この数が増えるほど飲食店は現場の負担を増やさずに多くのサービスに出店できるようになるため、業務効率化だけでなく販売機会の増加も見込める。

この領域については以前紹介した「CAMEL」を始め、日本でも複数のプレーヤーがサービスを展開し始めている状況だ。Toremoro代表取締役の中野凱仁氏によると、Orderlyでは複数店舗を展開している中堅〜大規模の飲食店をメインターゲットとしており、タブレットの一元管理に限らず「デリバリーオペレーションのDX」を目指していくという。

具体的にはPOSへの二度打ち作業(デリバリーサービスの注文をPOSに手入力で打ち込む)の負担をなくすために複数のPOS事業者との連携を進めているほか、店舗用のアプリケーションに加えて本部向けのダッシュボードも開発。ブランドやデリバリーサービスごとに、各店舗の売上をリアルタイムで把握できるような仕組みを作っている。

Orderlyは月額定額制で、現在は事業規模などに応じて9000円から利用が可能。テスト導入企業も含めて約15社がサービスを導入しており、そのうちの約半数が100店舗以上を抱える事業者だという。

Orderlyが解決を目指すデリバリーマーケットのペイン
Orderlyが解決を目指すデリバリーマーケットのペイン

ゴーストレストランの運営を通じて現場の課題を発見

もともとToremoroは世界中の音が聴ける音楽アプリ「toremoro」を手掛けるチームとしてスタートした。

創業者の中野氏は父親や親族が飲食店を経営していたことや、両親が個人事業主だったこともあって、学生時代から起業を意識していたそう。BitStarやメタップス、タイムバンク(現・Let)を経て会社を立ち上げ、最初のプロダクトとしてtoremoroを作り資金調達も実施したものの、事業がうまくいかずピボットを決意した。

「振り返ると1つ目の事業は起業ありきで考えてしまっていた部分がありました。だから改めて事業案を考えるにあたっては自分のバックグラウンドなども踏まえ、熱意が持てて、なおかつ10年間戦える領域であることを大事にしました」(中野氏)

次の挑戦の場をフードデリバリーに定めてからは、まずは市場を理解する意味も込めて自分たちでゴーストレストラン(デリバリー特化のレストラン)を運営するところから始めた。

実際にクラウドキッチン(ゴーストレストランが入居するシェアキッチン)に入居し、中野氏自身もキッチンに立って、約半年間ほど飲料ブランドの立ち上げに挑戦した。

最終的にゴーストレストラン事業を本業にすることは断念したものの、それを通じて上述したタブレット問題を現場で感じることができたという。

「伸びているキッチンの人たちの課題感を直接知れたことが大きかったです。売上を増やすには(対応する)デリバリー事業者を増やす必要がありますが、そのためにはタブレットも増やさなければなりません。そこで1番負担になるのが、事業者ごとのオペレーションが異なること。ある程度の端末数になると『タブレットをずっと見る人』を雇わなければいけなくなり、余計に人件費がかかってしまうこともあるんです」(中野氏)

この課題を感じている飲食店は他にも存在するのか。中野氏はニーズを検証するべく、まずはサービスのコンセプトを記載したLP(ランディングページ)だけを作ってウェブ広告を出稿してみた。するとわずか1万円ほどの広告費にも関わらず、約40社から問い合わせの連絡が届いたのだという。

それを機にOrderlyの開発を本格的にスタートし、21年の3月から一部の企業に対してベータ版を提供。機能改善を進めつつ、今夏からは有料版の提供も始めた。

今後は対応するデリバリーサービスやPOSレジサービスの数を拡充させつつ、本部向けのダッシュボードの機能開発などに取り組んでいく計画。またエンタープライズの顧客が多いため、サポート体制の強化も進める予定だ。

そのための資金として、 DNX Ventures、DIMENSION、Headline Asia(旧Infinity Ventures )、個人投資家の河合聡一郎氏などから総額1億1000万円の資金調達も実施した。

「日本のデリバリー市場は(先行する)アメリカの2017年頃の状態で、ようやく飲食店がデリバリーサービスを導入し始めた段階」であり、今後市場の成長に伴ってより多くの事業者がデリバリーならではの課題に直面するというのが中野氏の見解だ。

すでに海外では日用品など飲食以外の領域でもオンデマンド配達系のサービスが広がり始めており、いずれは飲食店以外の店舗でも同様の悩みが発生しうる。Toremoroとしてはそのような状況を見据え、中長期的には「オンデマンドコマースのインフラ」として外食産業以外の領域にもサービスを展開していきたいという。