左から、Luup共同創業者でCTOの岡田直道氏、プロダクトマネージャーの小城久美子氏、代表取締役の岡井大輝氏
左から、Luup共同創業者でCTOの岡田直道氏、プロダクトマネージャーの小城久美子氏、代表取締役の岡井大輝氏
  • 電動キックボードの人気はシェアサイクルを上回る
  • 約20億円の資金調達で開発体制を強化
  • 日本でもESG観点での注目が集まる
  • 利用拡大とともに目立ちはじめた違反行為
  • 「実証実験」のため事業者が取れる対策は限定的

2021年4月下旬に東京で始まったのを皮切りに、日本でも広がりつつある電動キックボードのシェアリングサービス。全国各地でスタートアップらがシェアサービスの提供を始めている。中でも存在感を放つのが、東京都渋谷区や大阪市など都市部で電動キックボードシェアの「LUUP」を展開するLuupだ。

LUUPは2020年5月よりシェアサイクルサービスとして展開してきたが、4月下旬からは新たに電動キックボードもポート(機体の置き場)に設置。以降、約4カ月で30万キロメートルの総走行距離を達成した。1日の利用者数では自転車よりも電動キックボードの利用がはるかに多くなっていることから、Luup代表取締役の岡井大輝氏は「本格的な普及に向けた手応えを感じている」と自信を見せる。だが一方で、一部のユーザーによる相次ぐ交通ルール違反への対応も迫られている。

Luupではさらなる事業拡大のため、約20億円の資金調達を実施した。森トラスト、Open Network Lab・ESG1号“Earthshot”ファンド(デジタルガレージ)、ZFP第1号ファンド(ゼンリン)、大東建託、Spiral Capital、ANRI、ENEOSイノベーションパートナーズ、アダストリアなどが第三者割当増資を引き受けた。

今後の展開や違反行為への対応について、岡井氏、共同創業者でCTOの岡田直道氏、そしてプロダクトマネージャーの小城久美子氏に話を聞いた。

電動キックボードの人気はシェアサイクルを上回る

LUUPの電動キックボードの1回の利用距離は平均1〜2キロメートル程度。累計約30万キロメートルの総走行距離を1回あたりの距離で割ると、約4カ月で15万〜30万回ほど利用されたことになる。

主な利用目的は「ビジネス」と「レジャー」だ。観光目的での利用はほぼなく、ほとんどのユーザーは通勤、またはコロナ禍の下で純粋に移動を楽しむためにLUUPを利用する。週末には2〜3人で移動を楽しむグループも多く存在するという。

「コロナ禍なので、週2〜3回のビジネス利用、また、カップルや友達同士がそれぞれ機体を借りて遊びに出かけるといったニーズが堅調です。後者の利用が目立つため、平日と比較すると週末の方が利用が伸びている状況です」(岡井氏)

当初想定した以上の反響を受けて、LUUPでは機体数を大幅に増やしている。当初東京都の6区(渋谷区、新宿区、品川区、世田谷区、港区、目黒区)では約100台の機体を用意していたが、今ではシェアサイクルと電動キックボードを合わせて1000台以上を設置している。その約半分が電動キックボードだ。

約20億円の資金調達で開発体制を強化

Luupが目指しているのは、電車やバスを下車した後の移動をLUUPが担うことで、人々の生活圏や行動範囲を駅前だけに留めず、駅から離れた場所へも広げていくということだと小城氏は言う。そのためにはより気軽に利用できるサービスにしなければならないが、現状は利用の急増による機体不足や電池切れなどが発生しているという。

小城氏は「移動のハードルを下げるためには、ポートに行った時に充電された機体がしっかりと準備されている状況を徹底していかなければなりません」と述べる。

岡田氏は今回の資金調達を「いつでもどこでも乗れるプロダクトになるための、いわば下準備です」と説明する。Luupでは調達した資金をもとに、ソフトウェア・ハードウェア開発、ならびにデータ分析の体制を強化していく。

「それぞれのポートの人気には偏りがあるため、機体をスタッフが自ら移動させて再配置するという手間が発生しています。例えばデータ分析の精度を上げたり、ダイナミックプライシングを導入したりして、ポートごとの設置台数に偏りが生じないようにしていきたいと考えています」(岡田氏)

また岡田氏は「IoTデバイスを通じたユーザーの走行状態や機体の状態の把握をより徹底していきたい」とも話す。

「バッテリー、アクセルユニット、ホイールのモーターユニットなどの故障検知を、IoTデバイスからデータを取得することでしっかりと行っていきたいです。また、ユーザーの走行データを得ることで、ゆくゆくは禁止エリアや歩道などでは走行できないよう制御が可能な状態にしていきたいと思っています」(岡田氏)

日本でもESG観点での注目が集まる

電動キックボードシェアはもともと、交通渋滞を緩和しCO2排出量を削減する、環境に優しいモビリティという売り文句で注目を集めた。米大手の「BIRD」や「Lime」は交通渋滞が社会問題化している米・サンフランシスコ近郊で立ち上がったサービスだ。

今回、Luupの資金調達にはESG(環境・社会・ガバナンス)分野への投資に特化したEarthshotファンドが参加している。岡井氏は「海外では長らく『CO2排出量の削減』という観点で電動キックボードが評価されてきました。その流れがようやく日本にも訪れたようです」と話す。

「人1人を運ぶ時に自動車よりも電動キックボードの方が20分の1から40分の1ほどCO2の排出量が減ります。1人で短距離を自動車で移動をするというのは、将来的には『(ESG観点で)恥ずかしい行為』となっている可能性はあります。EV(電気自動車)も製造過程を含めると、普通の自動車と同じくらいのCO2を排出してしまうのではないかと議論されています」

「一方、電動キックボードは10キログラムの鉄の塊。約1トンの自動車と比較すると、CO2排出量への影響ははるかに小さいのです。Luupとしても、CO2削減を推進していく存在にならなければならないのだと改めて実感しました」(岡井氏)

利用拡大とともに目立ちはじめた違反行為

便利で気軽、かつ3密を避けられる移動手段として注目を集める電動キックボードだが、安全面には懸念が残る。5月には大阪でひき逃げ事故が発生し、被害者は重傷を負った。

一般的な電動キックボードは現行法上、「原動機付自転車(原付)」として扱われる。ただし、LUUPなど一部のシェアサービスなどは政府との実証実験というかたちで提供されており、機体は特例措置として「小型特殊自動車」扱いとなる。

原付扱いの機体が公道走行するにはウィンカーなど国土交通省が定める保安部品を取り付け、原動機付自転車登録をし、免許証を携帯する必要がある。だが、大阪で事故を起こした容疑者の機体にはウィンカーやナンバープレートは装着されていなかった。加えて、2人乗り状態で歩道を走行していたこと、ぶつかって転倒させたにもかかわらず、そのまま立ち去ったことから、この事故は極めて悪質なものと判断され、容疑者の逮捕に至った。

大阪の事故は個人所有の電動キックボードで起きたものだった。一方、シェアサービスでも、事故こそ起こっていないが交通ルール違反は発生している。

LUUPユーザーが起こしている違反行為は、歩道走行や駐車違反、逆走、信号無視など。ひき逃げのような悪質な違反は報告されていないが、放っておけば事故に発展しかねない。現に5月には、電動キックボードで歩道を走行中のLUUPユーザーが歩行者に接触することがあったと岡井氏は説明する。幸い歩行者に怪我や被害はなく、事故には発展しなかったという。

違反走行は同業者が展開するサービスでも確認されている。例えば、福岡県・福岡市を中心に電動キックボードシェアサービスを展開する「mobby」では7月、ユーザーが機体を第三者へと貸し渡し、その第三者が無免許・酒気帯び運転で逮捕される事態が発生した。

「実証実験」のため事業者が取れる対策は限定的

LUUPを利用するには、免許証をアプリに登録し、警察庁や国土交通省といった関係省庁が作成したアプリ内のテストに全問正解しなければならない。アプリでは利用ごとに毎回、「歩道走行や逆走は違反である」こともユーザーに伝えているほか、違反ユーザーのアカウントを永久凍結するといった対応を取っている。また、交通ルールの周知を目的に試乗会なども開催している。

だが、事業者としてできる対策には、現時点では限度がある。もちろん、事業者もアプリや機体のアップデートにより安全性を高める工夫が必要だ。ただ、ユーザーがより安全に電動キックボードのシェアサービスを利用するためには、まだまだユーザーの“自覚”に頼る部分が大きい。また、法整備や道路のほかの利用者への周知も待たれるところだ。

例えばLUUPユーザー向けのテストの作成は関係省庁が担当しており、その内容は基礎的な交通ルールに限定されている。普通免許取得者であれば簡単に解けてしまう。加えて、Luupは警察のように直接違反ユーザーを取り締まることはできない。

また、LUUPユーザーが従わなければならない交通ルールは、実証実験の途中で変更することはできない。その理由は、現在展開中のシェアサービスは、あくまで「政府主導の実証実験」という立て付けだからだ。

この実証実験では、機体を原付ではなく、小型特殊自動車として扱う。そのため、最高時速は15キロメートル、二段階右折は禁止、ヘルメットの着用は任意となるほか、普通自転車専用通行帯に加えて自転車道、そして一方通行だが自転車は走行可とされている車道も走行可能となる。

この特例措置があることで、個人が所有する(原付扱いの)電動キックボードについても「ヘルメットは任意だ」と誤解をするケースが結果として増えているようだ。また、時速15キロメートルという低速で自動車と同じ小回り右折をすること自体が危険だという批判もある。Luupでは実証実験で得られたデータをもとに、関係省庁に最高速度や二段階右折などに関する見直しを提言していくという。