
ページの閲覧やスクロール、クリックといったウェブサイト上でのユーザーの行動を基に、最適なタイミングでポップアップなどを駆使しながら“声かけ”をすることで優れた顧客体験を実現する「ウェブ接客」。この領域における主要なプレーヤーの1つ、Sprocket(スプロケット)が事業を拡大している。
同社が展開するウェブ接客サービス「Sprocket」はEC事業者や金融機関などを筆頭に250社以上が導入。顧客の平均CV(コンバージョン)改善率は148.66%と高い数値を誇る。
今後Sprocketでは組織体制を拡充しながら、コンバージョンを最適化するCRO(Conversion Rate Optimization)プラットフォームとして機能拡張を進めていく計画。そのための資金として以下の投資家より総額で7.6億円を調達した。
なお今回のラウンドは同社にとってシリーズCに当たり、累計の調達額は13.6億円になるという。
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Sprocketは2014年4月の創業。代表取締役を務める深田浩嗣氏が2000年に立ち上げた受託開発企業のゆめみから、新設分割されるかたちで始まったスタートアップだ。
もともとはSprocketを立ち上げる前の2010年頃、深田氏自身がゲームの要素をビジネスに応用することで人の行動を変える「ゲーミフィケーション」の考え方に行き着いたことが、1つの転換点となった。
翌年にはこの概念も踏まえつつ、ウェブ上でのコミュニケーションを通じてユーザーの行動を変容し、CVの改善につなげていく取り組みの一貫としてウェブ接客事業の検証を開始。2014年にSprocketを設立し、本格的にウェブ接客サービスに取り組み始めた。
現在のSprocketには数年間にわたってサービスを提供してきた中で得られた知見を基に、ウェブ接客に必要となる基本的な仕組みが取りそろえられている。
シナリオを複数のステップに細かく分けられる「複数ステップ」機能や「動画接客」機能のほか、ABテストやヒートマップのような効果測定機能も実装。並行して外部ツールとの連携も積極的に進めており、たとえばECサイトの会員データと連携することで年齢や住所を使ってセグメントを分けることもできる。


深田氏が事業の検証を始めた2011年とは異なり、現在はウェブ接客の仕組みを持つ他社サービスが「KARTE」や「Flipdesk」を筆頭に複数存在する状況だ。それでもSprocketが事業を拡大できた背景には、プロダクトと同じくらい力を入れてきたというカスタマーサクセス(CS)体制と、それによって生まれた“かゆいところに手が届く”機能にある。
そもそも深田氏の頭の中には「ツールだけで価値が出せるわけではない」という考えが当初からあった。だからこそ、Sprocketでは単にツールの使い方をレクチャーするだけでなく、顧客と一緒にエンドユーザーがつまづいているポイントを探り、打開策を考えるところまでを伴走してきた。
今では顧客からの要望があればCROの内製化もサポートするし、反対に運用のリソースがなくて困っている顧客に対しては“運用代行”を行うこともある。
「この業界の歴が長いからこそ、『高いツールを導入したものの、使いこなせずに解約した』企業の事例をいくつも目の当たりにしてきました。自分たちがベンダーの立場になったら、(ツールを提供するだけでなく)ちゃんと成果にをつなげるところまでを責任を持ってやっていかないと、結局同じようなことになってしまう。その危機感があったため、CSにはものすごく力を入れてきました」(深田氏)
ツールと人によるサポートをセットで提供し、CVR(コンバージョン率)やCPA(顧客獲得単価)といった、顧客が求める成果に対してまでコミットするというのがSprocketの基本的な考え方。その結果として冒頭でも触れた通り、顧客の平均CV改善率は148.66%と高い数字を記録しており、これがわかりやすい価値にもなっているという。
「まずは自分たち自身が自社ツールを使ってABテストを年間に何万回とやり込んでいます。それだけやっていると、エンドユーザーがサイトのどこで行き詰まっているのか、何をすればうまくいくのかがある程度見えてくるんです」(深田氏)
自社サイトにハンバーガーメニュー(「≡」のアイコンを押すと商品一覧など、サイトのナビゲーションメニューが表示されるデザインのこと)を取り入れているある企業では、アイコンを一度もクリックしたことがない人に対して「このアイコンをクリックすると商品一覧が見れますよ」というガイドを表示するように変えたところ、購入完了率が25%改善された。
この話を他の企業の担当者にすると「そんなことわざわざ説明しなくても分かっているのでは」と驚かれるそう。実はこうした担当者にとって“当たり前”だったり、“意外”にも思える施策が成果に結びつくことは珍しくなく、そのような現場のナレッジをCSの担当者が顧客に提供しているのだという。
また手厚い支援を行うことは顧客の満足度向上に繋がるだけでなく、”R&D”のような効果も果たしている。言わば顧客に伴走する過程でSprocketのメンバーが自社ツールを頻繁に使い混んでいるため、「顧客の目線で、あると嬉しい機能」などにいち早く気がつけるわけだ。
実際にSprocket上で提供されている機能も、最初は社内ツールのような位置付けで実験的に開発されたものも少なくない。それがやがて正式な機能としてプロダクトに組み込まれ、顧客にも提供されていく。そのようなアイデアのタネはいくつもたまっているようで、今後それらが順々にプロダクトに落とし込まれていくことになりそうだ。