NMB48の吉田朱里さん Photo by Takato IchikiNMB48の吉田朱里さん Photo by Tetsuya Yamakawa,Miki Anzai
  • 企画から撮影、編集までを自らこなすアイドル
  • 「現役のアイドルであること」こそがYouTuberとしての強み
  • 「努力しないとかわいくなれない」葛藤が動画の契機に
  • 動画が切り開いた自らのブランド
  • “遅咲き”の自分が、誰かの原動力になればうれしい

 年末年始のテレビを彩った数多くのタレントやアイドル。その活動の範囲はすでにYouTubeやInstagramなどのネットにも拡大している。特に最近では、ネットをマスメディアとは異なる新たな表現の場として使ったり、自らが商品をプロデュースしたりと、新しい才能を花開かせている人物も少なくない。

 その1人がNMB48の吉田朱里だ。吉田はこの年末年始もNHK紅白歌合戦や日本レコード大賞などにAKB48の一員として出場するなど、現在のAKB48グループの主要メンバーの1人。またアイドルとしての活動のみならず、YouTuberとしての顔も持つ。メイク術やコスメレビューをはじめ、「好きなことだけを発信している」(吉田)と語る自身のチャンネル「アカリンの女子力動画」には、現在75万人超の登録者がいる。

 加えて、自身のコスメブランドも展開。昨年春に発売したリップ「つやぷるリップ」は発売から3カ月で50万本の売り上げを達成し、トレンド誌などでも2019年の流行プロダクトとして数多く紹介されるほど。昨年11月に発売した新色も人気で、3月にはさらに新色を追加するほか、新商品となるアイシャドウパレット「THE アイパレ」なども発売を控える。

 YouTubeとしてチャンネルの運営・動画制作に関するこだわりや、アイドルでありながらYouTuberとしての活動も広げる自らのキャリアについて語った、昨年9月開催の「J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2019」でのトークセッションの内容を中心に、その考えをひもといていく。

企画から撮影、編集までを自らこなすアイドル

「今の時代、ネットで買い物をする時に写真一枚では分からなくても、動画で紹介することで質感が分かる」

 そう動画の有用性を語る吉田。YouTubeチャンネル開設後、単純換算で約4日に1本というハイペースで動画のアップを続けている。

 まず、動画のテーマ選定については「ドラッグストアやバラエティショップに行って実際に試したいと思ったものを買って『面白い動画ができないかな』と考えたり、メイクさんから新しい情報を聞いたり、『とりあえず動画撮らないと』と自分の家の撮影スペースに座って思いついたことをやったり」と「あまりネタが尽きると思ったことはない」という。YouTubeチャンネルで取り上げる美容という分野が「新しいものがどんどん出るし、トレンドも変わっていく」からという面もあるようだ。

 彼女のYouTubeチャンネルで特筆すべきは、企画・撮影・編集作業全てを吉田自身が行っている点だ。自宅に撮影部屋を設け、機材やソフトも新たなものを積極的に取り入れている。「自分でやってきたからこそ応援してくださったファンの方もたくさんいるし、自分を客観視することもすごくできたので、本当に(自分で)やってよかったなと思います。プロの力を借りてしまうと親近感も湧かないと思います」という。

メイクの過程での素の表情や、自宅であるからこその家族やペットとの会話などもそのまま公開している。その理由について吉田は次のように語る。

「親近感を大事にしたいなと思っています。アイドルというだけで『もともとかわいいんでしょ』と言ってくださるんですけど、全然そんなこともなく(メイクなど)しっかり作り込んでいるので。そういったところを惜しみなく出していきたいんです」(吉田)

吉田のYouTubeチャンネルのスクリーンショット吉田のYouTubeチャンネルのスクリーンショット

 吉田の活動は、テレビやライブだけでは出会えなかった多くのファンを集めているが、一方で新しいビジネスにもつながっている。今では「コラボ動画」と題してコスメブランドや家電メーカーなど、企業とのタイアップ動画も多く展開している。

「(自ら)先に試したり、本当に気になっていた商品だけを選んで、コラボさせていただいています。『これを紹介したいな』と思ってやること、楽しみながらやることを意識しています」

 企業や商品ごとに、撮影部屋の背景を変えるなどの工夫もしている。インテリアのデコレーションが得意な吉田の母親が、動画のイメージに合わせたものにしてくれているそうだ。

「現役のアイドルであること」こそがYouTuberとしての強み

 メイク術をはじめとした美容というジャンルには、数多くのYouTuberがいる。その中で、吉田は自らの武器を「アイドルであること」と語る。今まで現役のアイドルが、自分のメイク術について語ることはほとんどなかった。だからこそ、ユーザーは知りたいのではないだろうかと考えたのだという。

 ミュージックビデオ、歌番組、雑誌など、自らが活躍するメディアについて、その時にしているメイクや着ている洋服を、後から詳しくYouTubeにアップできるのは吉田の強みだ。「好きな女優さんやモデルさんが着られているお洋服やメイクを詳しく知りたいなと思うことが多い」という自分自身の思いもあり、メディア出演時には、その時の情報をなるべくすぐに公開するよう心がけている。

「努力しないとかわいくなれない」葛藤が動画の契機に

 そんな吉田が、オーディションに合格しアイドルとしての道を歩み始めたのが2010年。数年が経った2016年、YouTubeを始めようと思った経緯はどのようなものだったのか。

「アイドルになる前は、近所のおばちゃんに『お人形さんみたいだね』なんて言ってもらえて、町内ではかわいいのかな? なんて思っていたんです。でも、アイドルになってみたら周りの子がかわいすぎて、もっと努力しないとかわいくなれないんだという現実を知りました。人前に立つといろんな声があるじゃないですか。テレビの画面を通すと膨張して見えたり、目が小さく見えたりと、現実は甘くなかったので」

 アイドルとしてデビューしたことで直面した壁。それを乗り越えたいという思いから、メイクを本格的に研究し始めた。また、握手会やライブでも自らメイクを行うことが多く、メイクの研究は必須となっていた。一方、吉田はアイドルとしての“立ち位置”をどう作っていくべきかを悩み続けたという。

「アイドルって、どんどん若いメンバーも入ってきて、自分の立ち位置を確立させるのがすごく難しいんです。頑張らないと、耐えないと、他のメンバーに抜かされていってしまうので。自分ができることってなんだろうと考えた時に、最初は何も見つからなくて……もう私はこのまま卒業しちゃうのかな、でも、どうにかして売れたい、もっと上にいきたいと思っていました」

 そう考えていた吉田は「自分の好きなこと」であるメイクやコスメに関する写真をInstagramにアップ。すると、女性ファンから「もっと写真をアップしてほしい」「動画を出してほしい」といったコメントが寄せられるようになったのだという。研究を続けてきたメイクのノウハウを明かすことで、アイドルとして活躍する道に光が見えてきた瞬間だった。

「今はパソコンで編集しているんですけど、(当時は)スマホのアプリだけで一生懸命編集して、(動画を)Twitterに出してみたら今まで見たことのないリツイートや『いいね!』がついて、ネットニュースにも取り上げていただいて……こうやって自分で動けば何か変わるのかもと思ったんです」

「当時Twitterは30秒しか動画をあげられなかったので、30秒でできることを考えながらも『もっといい方法ないかな』と思っていた時に、美容系 YouTuberさんの存在を知りました。こんなに面白く楽しくメイクを教えられるなんて、やってみたいなと思いました」

 有名美容系YouTuberにもTwitter経由で教えを請い、動画編集について学んでいった。そして自らのYouTubeチャンネルの開設を決意し2015年末に事務所スタッフに相談、承諾を得たのち、2016年2月に初めてのYouTube動画をアップした。

動画が切り開いた自らのブランド

 動画のアップを重ねるにつれ、ファンとのコミュニケーションにも変化が現れてきた。

「(動画に)あげた内容を真似したメイクの女の子が(握手会やライブに)会いにきてくださったり、『彼氏ができたよ』『可愛くなったねって言われたよ』と言ってくださったりするのが一番嬉しいんです」

 ファンと直接触れ合う握手会で、吉田のもとに訪れるのは約6割、多い時には8割が女性ファンだという。さらに最近では男性向けのメイク動画もアップしているが、男性ファンからも「メイクに関心を持った」という声を聞くという。

 自ら動いてきたことで活動の幅も広がった。2018年からは女性ファンによる支持が評価され、雑誌「Ray」(主婦の友社)のモデルに起用。スタイルブックもすでに2冊出版している。2019年には自らのアパレルブランド「Amiuu wink」や冒頭でも触れたコスメブランド「B IDOL」を立ち上げた。

「B IDOL」で展開しているリップは昨年11月にも3色の新色を加えている。「テクスチャーやネーミングも全てプロデュースしている」「リップがコスメの中で一番好きで、今までいろいろ集めてきてそれぞれの良さがあって、私なりのこだわりもあるので、それを全部詰め込んだ自身満々の一本になっています」と、持ち前の研究熱心さを遺憾無く発揮しているようだ。もちろんその新色発表も、自らのYouTubeチャンネル上で行った。

“遅咲き”の自分が、誰かの原動力になればうれしい

 アイドルとしての立ち位置に悩んでいたときから、自ら動き、文字通りに可能性の扉をこじ開けてきた吉田は、自身を「アイドルを9年やってきて、ものすごく時間がかかった“遅咲き”」だと振り返る。だからこそ、自らの活躍が人生で悩んだり迷ったりしている人たちの「自分も頑張ろう!」と思える原動力になればと語る。

「ずっと、女子のカリスマになりたいなって思っています。それは遠い存在じゃなくて、親近感のある存在であることが一番大事だと考えています。私が作ったりプロデュースしたりしたもので、みんながかわいくなってくれたらそれが一番嬉しいんです」

 将来は自らガールズフェスを主催したり(編集注:今春の開催が決定した)、メイクやファッションのためのスペースを持ちたいと語る吉田。その可能性はYouTubeを軸にこれからも広がっていく。

(編集者・ライター 市來孝人)