
- 一元管理で「SaaS増えすぎて管理が大変」を解決へ
- SaaSの統合ツールは国内外で注目
個人向けの家計簿サービス「マネーフォワード ME」やクラウド会計を軸としたバックオフィス効率化SaaS「マネーフォワード クラウド」など、フィンテック領域を中心に複数のサービスを手掛けるマネーフォワード。同社が新たに“社内で増え続けるSaaS”を効率的に管理するためのサービスを始める。
新サービスの名称は「マネーフォワード IT管理クラウド」。グループ会社であるマネーフォワードiを通じて運営する。
まずは導入中のSaaSを一元管理できる機能などをベータ版として提供。2021年中を予定している正式版のローンチに向けて、対応するSaaSの拡充や機能追加を進めていく計画だ。
一元管理で「SaaS増えすぎて管理が大変」を解決へ

「SaaSの家計簿のようなイメージです」──。マネーフォワードiで代表取締役社長を務める今井義人氏は新サービスの世界観をそのように説明する。
たとえば家計簿サービスのマネーフォワード MEではアグリゲーション技術を用いて銀行やクレジットカードなど2600以上のサービスと連携し、1カ所に情報を集約することでお金の流れを見えやすくした。
マネーフォワード IT管理クラウドがやろうとしているのは、まさにその“SaaS版”と言えるだろう。同社の要諦とも言えるアグリゲーション技術を転用することで、導入しているさまざまなSaaSの利用状況を1つのサービス上で可視化する。
ベータ版では導入しているSaaSごとのID発行状況や従業員ごとのID発行・利用状況の一覧が見れるほか、退職者のIDを自動で検出する仕組みも導入。これらの機能により「どのメンバーが、どのような権限で各SaaSを利用しているか」を簡単に把握できるほか、「数カ月使われていないアカウントやすでに利用者が退職しているのに契約が続いているアカウント」にもいち早く気付ける。


「ヒアリングをしてみても『SaaSを数多く導入している』という企業が増えてきている状況です。(SaaSの普及にともなって)導入するサービスもどんどん増え、管理が難しくなってきている。特定の部門だけで使われているケースもあるので、よくよく調べてみると情報システム部門の担当者が知らなかったということもあります」(今井氏)
社員数や導入SaaS数が増えてくると入社退社時のID発行・削除の業務負荷が重たくなるだけでなく、不要なアカウントに対して無駄なコストを支払ってしまうような事態にもなりかねない。
マネーフォワードも自社で200以上のSaaSを活用しており、当事者としてもSaaS管理の課題を感じるようになってきたのが事業立ち上げのきっかけになった。特にマネーフォワードiで取締役を務める村上勝俊氏は社内のインフラ整備やツールの導入などを担当していたため大きな課題感を持っており、本事業の企画立案に至ったそうだ。

マネーフォワード IT管理クラウドでは現時点で海外のSaaSを中心に国内のものも含めて67個のサービスを管理することが可能。今後も連携を進めながら、まずは100以上のサービスへの対応を目指していくという。
また並行して機能拡充にも取り組む計画で、社内で未検出な状態の「シャドーIT(経営管理部門や情シスが把握しきれていないSaaS)」を検出する仕組みのほか、入退社時のID発行や削除を自動化する機能、導入しているSaaSごとのコストを可視化する機能なども順次実装していく方針だ。
SaaSの統合ツールは国内外で注目
SaaSの普及に伴い、社内で増え続けるSaaSの管理を手助けするサービスのニーズが高まっている。
日本以上にSaaSの利用が進む米国などでは「SaaS Management Platforms」に分類されるサービスが数十個存在し、各サービスを比較するレポートなども発行されているような状況だ。
日本国内でもイエソドやLBVといったスタートアップに加え、メタップスなどもこの領域でサービスを始めているようにプレーヤーが徐々に増えてきている。直近にも同様のサービスを発表予定の国内企業もあるようだ。
今井氏によると当初「日本で展開するには少しタイミングが早いかもしれない」という考えもあったが、プロダクト開発前にコンセプトベースで数十社にヒアリングを重ねて見たところ、特に社員数が20〜30人以上の規模で複数のSaaSを導入している企業に関しては明確な課題とニーズがあることがわかったという。
サービス開発にあたっては、マネーフォワード社内に加えて複数の企業にテスト版を導入して機能の検証を進めてきた。最低限の基盤が整ったため今回のタイミングでベータ版として提供するに至ったかたちだ。


まずは国内から展開を始めるが、ゆくゆくはグローバルにも進出する計画。それも見越して開発チームは4カ国のメンバーで構成されており、約10名のうちの半数以上が外国籍のメンバーだという。
「マネーフォワードはもともと家計簿アプリからスタートした会社であり、さまざまな銀行口座やクレジットカードサービスとの連携によって付加価値を出してきました。“データを持ってくる”ということは得意で、今回もそれをSaaS領域に転用するようなイメージのサービスです」
「そういう意味では、実はとてもマネーフォワードらしいサービスだと思っていますし、自分たちがやるしかないという思いで開発しています。これまでは経理や人事などバックオフィスの方たちに向けたサービスが多かったため、(情シスや経営管理部門向けのプロダクトは)会社としては新たな試みにはなりますが、しっかりと課題解決に繋がるものを作っていきたいです」(今井氏)