「病院経営のDX」を目指すメダップのメンバー
「病院経営のDX」を目指すメダップのメンバー 全ての画像提供 : メダップ

「病院の経営やマネジメントにおいても、勘や経験だけに頼るのではなく、デジタルツールを活用することでデータドリブンな意思決定ができるようになれば、もっと効率的な経営や高度な経営ができる余地があると考えています」

「病院経営のDX」の実現を目指すメダップで代表取締役を務める柳内健氏はそう話す。同社が現在第一弾のプロダクトとして運営している「foro CRM」は、言わば“中規模・大規模病院向けのSalesforce”だ。

柳内氏によると、大規模な病院を経営するには地域のクリニックや医療機関の存在が欠かせない。入院患者のうちの約6割は地域の医療機関からの紹介経由であり、病院にとっては患者はもちろんのこと、そうした医療機関が重要な“顧客”になっているという。

この顧客との関係性構築をデータを用いて支援するのがforo CRMの役割だ。同サービスでは従来散らばっていたデータを一箇所に統合することで、それを基にさまざまな分析やアクションができる。

foro CRMは大病院向けのCRMツールだ

foro CRMには町の医療機関ごとの診療科目や医師の数などの「公開データ」があらかじめ準備されており、ここに紹介患者のデータや各医療機関とのコミュニケーションのログといった「院内データ」をためていく。

データを集めることで、各医療機関との関係性や対策を簡単に可視化できるのが特徴だ。ダッシュボード上では前年同期比と比べて各医療機関からの紹介患者数がどのように変化しているのかを調べられるほか、連携先マップを用いれば近隣の医療機関との関係性を、数字を基に把握することもできる。

単にデータを閲覧するだけでなく、意思決定を直接アシストする機能やマーケティング施策を実行するための機能も搭載。たとえば一定期間紹介がない医療機関や前年に比べて紹介件数が減っている医療機関を割り出して自動で通知してくれる仕組みがあり、メール機能を使えば作成から送付、開封率の分析までがforo CRM上で完結する。

foro CRMの画面イメージ
foro CRMの画面イメージ
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ビジネスの現場ではSalesforceを始めとするCRMツールの活用が広がっているが、病院経営においては十分に活用されていないのが現状だ。重要な顧客である地域の医療機関に対しても、自社の状況を積極的に発信するマーケティング活動や営業活動、すでに接点のある相手との関係を深めるためのCS(カスタマーサクセス)活動などが不足している場合が多いと柳内氏は話す。

そもそも従来は必要なデータが複数の場所に散らばってしまっていたり、アナログな状態で管理されていたりしたことで、効果的にデータを活用する難易度が高かった。

foro CRMの場合は電子カルテなど既存システムと連携してデータを1カ所に集め、そこに日々の訪問記録やコミュニケーションの記録を残していけば強固な顧客データベースができあがる。

実際に顧客へのアプローチを変えてみた結果、紹介数にどのような影響を与えたのか──。1つ1つのアクションに対してもデータを基に検証・改善できるようになる点などが顧客からは好評だという。

foro CRM導入後のわかりやすい変化としては、紹介数の増加や質の向上(自院の特徴や状況が正しく伝わった結果、それに合った患者が紹介される)が挙げられるが、時間がかかっていた業務の効率化や現場の意識改革につながった事例などもあるそうだ。

もともと柳内氏は前職でベンチャーキャピタルに務めており、電子カルテ関連のスタートアップにも2社出資をした経験がある。その際に病院のデジタル活用に関する課題を聞いていたことに加え、BtoBのSaaSプロダクトへの出資経験があったことや親族が医療機関で働いていたことなども合わさって、2017年8月に「病院経営のDX」をテーマにメダップを立ち上げた。

プロダクトの開発にあたっては、導入先の1つでもある済生会熊本病院と約2年かけて頻繁にヒアリングを重ねながら検証を進めてきた。現在はその他にも数百床を有する複数の病院で導入されており、今後はさらに事業を加速していく計画。そのための資金として、DNX Ventures、ALL STAR SA AS FUND、モバイル・インターネットキャピタルを引受先とした第三者割当増資により総額6億円の資金調達も実施した。

調達した資金により人材採用を強化し、プロダクト開発やマーケティング活動に力を入れていく方針。中長期的にはウェブ予約やBIツールのような仕組み、医師や看護師のタレントマネジメントシステムなどの機能拡張も検討しており、「病院経営を丸ごとDXするためのサービス」への進化を目指すという。