
- SNSやインターネットの世界は好き、でもあまり発信はしていなかった
- 会社のためだけでなく、セルフブランディングとしてのSNS発信
- オーディエンスを意識して発信する
- 初心者のSNS活用法は情報入手とコメントづけから
- 以前は文章を書くのが苦手だった
スタートアップ創業者やテック企業の経営者は、SNSなどを使った情報発信をビジネスにどのように生かしているのか。
コンテンツ発信プラットフォームを提供するnoteでマーケティングプロデューサーを務める徳力基彦氏が、スタートアップの代表や先鋭的な企業で活躍するビジネスパーソンにインタビュー。SNSとの出会いや、ビジネスでのSNS活用術などについて聞く。
第2回のゲストは、リンクトイン・ジャパン代表の村上臣(しん)氏。「LinkedIn(リンクトイン)」は米国シリコンバレー発、世界200カ国で7億5600万人が登録するビジネス特化型SNSだ。日本でも200万人超が登録し、情報交換などに利用している。
学生時代にベンチャー企業「電脳隊」を設立し、その後もモバイルやインターネット業界でずっと活躍する村上氏だが、SNSを本格的にビジネスで使うようになったのはわずか3年前という。その村上氏がSNSを活用し始めたきっかけやSNSとのつき合い方、ビジネス利用のコツなどについて語る。
SNSやインターネットの世界は好き、でもあまり発信はしていなかった
──村上さんはネット黎明(れいめい)期から起業家として活躍されてきました。でも、SNSをヘビーに使っていたイメージがないのですが......。
鋭いですね(笑)。どのサービスも、登録はかなり早い段階でしていますが、ソーシャルでバンバン発言するタイプではなかったです。
──では、SNSプラットフォームのリンクトイン・ジャパン(以下、リンクトイン)代表になることを決めたのは、SNSへのこだわりというよりは、「LinkedIn」という仕組みが面白いと思ったからですか。
理由は2つあります。1つは、リンクトインのビジョン「世界で働くすべての人に対して経済的な機会をつくり出す」が、圧倒的に正しいなと思ったことです。ちょうど働き方改革もあり、ビジネスのマクロの現状から考えて、日本で「これからくるだろう」とすごくときめいたんですよね。
2つ目は、すごく個人的な理由です。僕はユーザーとしてSNSやインターネットが好きなんですが、SNSのサービスをつくることには強いコンプレックスを持っていたんですよ。
というのも、昔(ヤフー在籍時代)、「LINE」に対抗するメッセンジャーアプリとして、日本に「カカオトーク」を導入しようと大々的にやっていたことがありまして。結果、LINEに惨敗してしまったんです。僕の中ではすごいしこりが残っていて。経営者としてSNSで成功したいっていう個人的な思いがありました。

会社のためだけでなく、セルフブランディングとしてのSNS発信
──SNSに本気で向きあいはじめたのはカカオトークに関わっていた2012年ころからなんですね。では、ご自身がビジネスでSNSを盛んに活用するようになったのは、いつ頃からでしょうか。特に力を入れているプラットフォームがあったら教えてください。

SNSでの発信を真面目に考え出したのは、リンクトインに入った2017年ころからです。ちょうど「日経COMEMO」や「NewsPicks」から定期的な記事執筆のオファーをいただいたタイミングでもありまして。自分で記事を書くなら、それを広めたいなと、Twitterで発信することにしました。
記事は個人として書いていますが、内容は「雇用・働き方・キャリア」についてが多いですし、自社にも良い影響があると思っています。それにセルフブランディング上もいいだろうと、発信を頑張りはじめました。
いまはLinkedInとTwitterを並行して、重点的に使っています。
オーディエンスを意識して発信する
──発信する際に、特に注意していることはありますか。
ビジネスでSNSを活用するようになってからは特に、場の空気感とオーディエンスを強く意識するようになりました。Facebookでは、僕が書いたことを読むのは、昔からつきあいがある人や一度会ったことがある人がほとんど。だから、多少ふざけた投稿をしても問題になることはほとんどありません。
でも、Twitterはパブリック。それに、リーチが広がりやすく、自分が想定しているよりもバスったりすることがあるメディアです。短い文章でへんな誤解をされないように、複数の自分の目で見て、突っ込まれないか、誰かを傷つけないかなどかなり考えてから投稿します。ただ、無味乾燥なツイートだと読者にあまり届かなくなるので、このバランスはやりながら見るしかないと思っています。
──ビジネスでSNSを活用するばあい、個人のブランドだけじゃなく企業ブランドにも傷をつけてしまうリスクがあります。村上さんは、パブリック性と個性の出し方のバランスをどのようにとっていますか。
僕もまだまだ試行錯誤している段階です。僕の会社は、個人の活動を応援してくれているので比較的やりやすい方ではあると思うんですが。とはいえ当然、僕個人の見解と会社の見解が微妙にズレている場合もあるわけです。そういうときは、意見したいんだけれどあえて言わないようにしたり、ある記事をツイッターで見て引用コメントをしたいんだけれども、一瞬引いて大丈夫かなって考えたり。その辺は気をつけてます。
例えるなら「イベントで登壇した後のネットワーキングパーティ」の感覚で取り組んでいますね。自分の個性を生かしつつ、ネットワーキングパーティーでちょっとおふざけコメントも含めてファンを増やすという感じ。SNS上でも、僕の言ってることをより聞いてもらえるような場づくりをしたいと思っています。

初心者のSNS活用法は情報入手とコメントづけから
──新たにビジネスでSNSを始める人にはどのようなアドバイスをしますか。
Twitterのようにパブリックなプラットフォームで発言するといきなり叩かれてしょんぼりすることになるかもしれません。なので、LinkedInのように利用の目的がはっきりしたクローズドのプラットフォームで、温かいコミュニティがあるものから始めるのがいいと思います。
LinkedInでは、プロフィールをしっかり書くことが最も大切です。どんな仕事をしていて何に関心があるのかわかると、アルゴリズムがそれに合わせた記事を送ったり、いろんな人とつなげるようなおすすめをしたりします。LinkedIn編集部をフォローして、最初は情報収集から始めるとよいでしょう。その中から気になる発信をしている方をどんどんフォローして、記事への感想やコメントを残すことからやってみてはいかがでしょうか。書くことに少し慣れてきたら、NewsPicksのクロスコメントや、自分のアカウントで発信することにトライしてみましょう。
発信し出すといろんな人がいろんな反応を見せるようになるので、そこからようやく自分らしい投稿をしたり、どうやって自分の目的に応じてほかのプラットフォームを使い分けたりしていくかを考える段階に入るかなと思います。
──村上さんにとって、noteはどんな位置付けですか。
自分の文章が、かたまりとしてストックできる場所だと思っています。TwitterやLinkedInなどのSNSは、それをどうやって流通させるか、どうやって読者に届けるかを実践する場。出版社と本屋みたいな位置付けですね。
それと、noteは読書の場でもあります。僕は普段からnoteでいろんな人の記事を読んでいますよ。note編集部のおすすめもそうですし、「何か面白いことを言っている人はいないかな?」とハッシュタグで気になるテーマをザーッと検索します。良いインプットの場になっていますね。
以前は文章を書くのが苦手だった
──いま「電脳コラムニスト」として記事を書かれていますが、電脳隊を起業したころからコラムを書かれていたんでしょうか。
いえ、表に出すようなものはほとんど書いたことがなかったですね。まとまった文章を書くのは苦手でした。でもせっかくコラム執筆のオファーをいただいたので、チャレンジして自分のスキルをひとつアップさせようと考えたんです。
コンフォートゾーンを1人で抜け出すのはめちゃめちゃつらいじゃないですか。だから、もし助けてくれる人が現れたんなら、乗っかった方が得だと思うんですよね。
──苦手意識はどう克服したんですか。
オファーされたときに担当の方から「村上さんはいつも面白いことを言っているので、それを書いてみませんか」って言われたんですよ。なので、何かのニュースについてちょっと面白い切り口で、友達とか会社の人と雑談したことを文字に起こすような感覚で書くようにしています。ひたすら書いて、反応を見て。PDCAの繰り返しですね。
──LinkedInのようなクローズドのSNSでまずは記事の感想を書くことから、SNS発信の練習をする。慣れてきたら、自分の目的にあったプラットフォームを選んで、もう少し長い文章をコツコツと書きためていく。それをたとえばnoteにストックしていくことで、コラムニストとしてのオファーにもつながりやすくなるかもしれないですね。
いまやSNSでたくさんのコラムを書いている村上さんが、じつは3年前まではほとんどSNSで発信したことがなかったというのは驚きでした。これからSNSをはじめようと考えている方たちにも、励みになったのではないでしょうか。

ゲスト:村上 臣(むらかみ しん)氏(リンクトイン・ジャパン 日本代表)
大学在学中にモバイルサイト開発ベンチャー・電脳隊を設立。2000年にヤフー所属となり、「Yahoo!モバイル」や「ワイモバイル」の開発などに携わった。同社の執行役員・CMO(チーフモバイルオフィサー)を経て、2017年より現職。近著に『転職2.0 日本人のキャリアの新・ルール』がある。
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