Resilireのメンバー。中央が代表取締役社長の津田裕大氏
Resilireのメンバー。中央が代表取締役社長の津田裕大氏 すべての画像提供 : Resilire
  • 手が回らないサプライヤー管理、クラウド上で効果的に
  • 被災を機に防災テックで起業、1件の問い合わせで事業が急転

近年の気候変動に伴う自然災害や新型コロナウイルス感染症の影響により、企業における「サプライチェーンリスクマネジメント(SCRM)」の重要性が高まってきている。

原材料の調達先や生産拠点が一部の地域に偏りすぎていると、現地が予期せぬトラブルに見舞われた際に深刻なダメージを負ってしまうリスクがある。実際に中国でコロナの感染拡大が進んだ結果、同国に依存していたサプライチェーンが途絶えてしまい、計画の大幅な変更や下方修正を余儀なくされた企業も少なくない。

これはコロナに限った話ではなく、地震や水災害などの自然災害も同様だ。先行きが予測できない時代だからこそ、サプライチェーンのリスク管理や事業継続マネジメント(BCM)に対して今まで以上に目を向ける企業が増えている。

一方でサプライヤーの数が数千、数万と増加していくほど管理の難易度は上がる。結果として災害が発生した際に状況把握やリスク対応が遅れ、損害を被ってしまう企業も少なくないのが現状だ。

このような課題の解決策としてスタートアップのResilire(レジリア)では2021年5月よりサプライチェーンリスク管理プラットフォーム「Resilire」を運営してきた。

同サービスの特徴はサプライチェーン全体を一元管理した上で、災害が起こった際には影響のあるサプライヤーが自動でリストアップされること。「膨大な数のサプライヤーごとに被災状況を把握するのが難しい」という悩みを解消し、災害時に迅速な対応ができるようにサポートする。

現在は小林製薬など複数社に有料で提供している状況で、Resilireではこれから顧客拡大とともに機能拡張を進めていく計画。その資金としてArchetype Ventures、DNX Ventures、DEEPCORE、STRIVE、みずほキャピタル、グロービスファンドを引受先とした第三者割当増資により1.5億円の資金調達を実施した。

手が回らないサプライヤー管理、クラウド上で効果的に

Resilireの画面イメージ

Resilireでできることは大きく2つある。1つはそもそもこれまで十分に管理できていなかったサプライヤーをクラウド上で可視化できること。もう1つが災害時に各サプライヤーの状況を把握し、素早い対応につなげられることだ。

同サービスでは直接接点のある委託先だけでなく、その先にいる原料調達先も含めて取引に関わるサプライヤーを“ツリー形式”で管理していく。災害時には異常が起きているサプライヤーの色が変わるため、ツリーを見ればすぐに状況がわかる。

Resilireではツリー形式で取引先が一覧できる。災害が発生した際には被害状況に応じて色が変わるので、現地で何が起こっているかも把握しやすい
Resilireではツリー形式で取引先が一覧できる。災害が発生した際には被害状況に応じて色が変わるので、現地で何が起こっているかも把握しやすい

ポイントは、導入企業だけでなく“取引先企業も巻き込んで使う”ように設計されていること。サプライヤーに対してもあらかじめアカウントを発行しておけば、被災した可能性のある拠点やサプライヤーに一斉にメールを送れる。

サプライヤーから簡易的な回答を受け取ることで「実際に被災した拠点はどこか、それによって影響を受ける製品や関係企業はどこになるか」を自動的に可視化できるのが大きな特徴だ。

また気象庁などから災害情報を取得し、自動でマップ上に可視化する機能も搭載。何らかの影響を受ける可能性のある拠点やサプライヤーについてはそのままリスト化することも可能だ。現時点では国内の地震および水災害に対応しており、来月中を目処に停電や土砂情報も取得できるようになる見込みだという。

Resilireのマップ機能
Resilireのマップ機能

Resilire代表取締役社長の津田裕大氏によると、大手製造企業は数百〜数千のサプライヤーや社内拠点の情報をExcelなどで管理することが多い。ただ数が増えるに伴って管理が行き届かなくなり、災害時に後手に回ることにもつながってしまっていた。

Resilireの利用料金は月額で30万円から。ものすごく安価なSaaSというわけではないものの、企業規模が大きくなればサプライチェーンが途絶えてしまった時の損害も大きいため、現在はエンタープライズ企業を中心に導入が進んでいる。

すでに小林製薬や大手自動車メーカーなど十数社がトライアル導入を実施しており、有料で正式導入に至っている顧客も数社存在しているという。

被災を機に防災テックで起業、1件の問い合わせで事業が急転

Resilireは2018年9月の創業。津田氏は学生時代から自分で会社を立ち上げ、受託開発事業などを手がけていたが、2018年に防災に軸を絞る形でResilireとして再スタートを切った。

大きなきっかけとなったのが同年に発生した大阪府北部地震と西日本豪雨だ。津田氏自身も大阪にいたため、深刻な被害ではないものの実際に災害を経験した。

これを機に、今後さらに災害が増える可能性もある中で「災害を予防するようなイノベーションが必要になるのではないか」と考えるようになったという。

「もともと(Resilireを)起業する1年ほど前、ある災害系のNPO法人の会長とお会いした際に『津田くんのようなIT技術を持っている人が社会課題の解決に挑戦してほしい』という言葉をかけられたんです。それ以来、何に自分のスキルを使うかを考えていた中で災害を経験したことで、自分が人生をかけて解決したいと思える課題に出会えたと感じました」(津田氏)

最初は防災をテーマにしたウェブメディアやボランティアを受け入れるための管理システムを運営していたが、ある程度使われたもののビジネスとして成り立たせるのは難しかった。

そこで方向性を変え、企業が書面ではなくクラウド上でBCMを行えるようなソフトウェアを開発したものの、ヒアリングに行った企業からは「お金を払って使いたいとは思わない」とフィードバックを受けたという。

方向性を模索していた時、たまたま当時のサービスのプレスリリースを見た小林製薬の担当者から「サプライチェーンのリスク管理に困っているので、リスク管理の用途で使えないか」と問い合わせを受けたことが転機となった。

その担当者から具体的な課題や既存の業務フローなどを聞きながらプロダクトを磨き、作り込んでいったものが現在のResilireだ。

現在はサプライチェーンのリスク管理に軸をおいたプロダクトへと転換している
現在はサプライチェーンのリスク管理に軸をおいたプロダクトへと転換している

グローバルで見ると7月に1億ドルを調達してユニコーン企業となった米・Interosを筆頭に、SCRM領域で事業を拡大するプレイヤーがいくつも台頭し始めている。

Resilireとしても今回調達した資金を用いて組織体制を強化し、さらなる機能拡充や事業拡大に向けた取り組みを進めていく計画だという。