ラクスル代表取締役社長CEOの松本恭攝氏
ラクスル代表取締役社長CEOの松本恭攝氏 すべての画像提供 : ラクスル
  • コーポレートITのアナログな業務を自動化
  • 膨大な業務量に悩む情シス担当者を「単純作業から解放」へ

印刷・集客支援プラットフォーム「ラクスル」を皮切りに物流領域の「ハコベル」、広告領域の「ノバセル」と事業を拡張してきたラクスル。同社がこれらに続く第4の事業として、コーポレートIT領域の“不”を解決する新サービスを始める。

9月1日に正式ローンチした「ジョーシス」はITデバイスとSaaSの統合管理プラットフォームだ。従業員の入退社に伴うデバイスの購入・返却やSaaSアカウントの発行・削除、在籍中の権限管理などを効率化することで、情報システム担当者をアナログな業務から解放したいという。

コーポレートITのアナログな業務を自動化

新サービス「ジョーシス」
新サービス「ジョーシス」

同サービスの特徴は社員の入社から退社に至るまでの“人の動き”を軸に考えるとわかりやすい。

まず新メンバーが入社した際、社内の情報システム担当者は業務で用いるPCやSaaSアカウントを用意しなければならない。ジョーシスではサービス上でPCを始めとするデバイスを一括で購入できるほか、SaaSアカウントの発行や権限管理もワンクリックで完結する。

従業員ごとの保有デバイス一覧画面
従業員ごとの保有デバイス一覧画面

実務で使っていく上では会社の環境に合わせたPCのセットアップ(キッティング)も必要になるが、こちらについてもジョーシス側で請け負う。そのためリモート環境で働く社員の場合であっても設定済みのPCが自宅に届き、すぐに仕事に取りかかれる。

“SaaSの統合管理”に限っては8月にマネーフォワードが「マネーフォワード IT管理クラウド」を発表したほか、日本でも複数のスタートアップが参入している領域だ。だが、ジョーシスの場合はデバイスの購入や環境設定についても対応しているのが大きなポイントだろう。

在籍中の従業員については、各自が利用するITデバイスやSaaSの状況を一元管理することが可能。「誰が、どんな権限で、どのSaaSを使っているのか」が自動で更新されていくため、エクセルなどで逐一更新する手間とは無縁だ。

現在は40のSaaSに対応。年内を目処に対応SaaSの数を100種類まで広げていきたいという
現在は40種類のSaaSに対応。年内を目処に対応SaaSの数を100種類まで広げていきたいという

ITデバイス台帳を使えばデバイスごとの利用状況についても把握しやすい。ジョーシスで購入したデバイスであれば、購入後すぐに情報が台帳に自動反映される。

社員が退職した際には1クリックで該当するSaaSアカウントを一括削除できる。削除漏れによる“野良アカウント”は余計なコストを生み出すだけでなく、ハッキングの対象となり情報漏洩の原因にもつながりかねない。セキュリティの観点でも「野良アカウントを残さないための仕組み」が重要だという。

ジョーシスのミッションは「“職場を良くするために働く人” の可能性を解放する」こと。同サービスではSaaS、EC、BPOという3つの要素を組み合わせているが、「顧客の本質的な課題を解決するには“総力戦”で挑む必要があった」とラクスル代表取締役社長CEOの松本恭攝氏は話す。

「顧客の悩みはSaaSの管理をしたい、パソコンを買いたい、ヘルプデスクを外注したいといった(1つの機能に関する)ものではなく、業務全体を効率化することでコスト削減やセキュリティの向上を実現したいというものです。これに応えるために、総力戦で顧客の課題を解決するためのビジネスモデルを採りました」(松本氏)

膨大な業務量に悩む情シス担当者を「単純作業から解放」へ

今回ラクスルがジョーシスを開発した背景には、新型コロナウイルス感染症が大きく関わっているという。

多くの企業と同様にラクスルもコロナによって事業面で大きな打撃を受け、リモートワークへの移行と並行してコストカットにも取り組んできた。

特に変動費に当たる部分のコストを見直し、販促管理費に関しては約50%を削減。マーケティング費用や開発業務委託費用において大幅なコストカットを進める中で、他と比べてほとんど減らせなかったのが「コーポレートITの業務委託費」だったという。

調べてみると、その原因は「フィジカルな業務が多い」ことにあった。上述したようにPCのセットアップやデバイスの故障対応などは現場にいかなければ対応できない。自動化が進んでいなかったが故に、外部に委託せざるをえない状態になっていた。

「コストを下げるというよりも、コーポレートITの業務が非常にアナログで効率化・自動化が進んでいないことが大きな問題だと思いました。コーポレートIT領域の不を解消していくことができれば、新たなビジネスを作っていくことができるのではないか。そのように考えました」(松本氏)

新型コロナウイルス感染症の影響により、企業のコーポレートIT部門の業務負荷は今まで以上に広がっている。リモートワークの普及によって従業員が自宅でデバイスを利用するようになったほか、DXの文脈でSaaSを始めとしたデジタルツールの導入が活発になってきているからだ。

一方で社員数が100〜1000名規模の企業でも情報システム部門の選任者がいない、または1名のみ(1人情シス)の企業も珍しくなく、限られたリソースで膨大な業務に対応しなければならない状況に追い込まれている。

単純な業務量の多さに加えてアナログな作業が多いのも難点で、たとえばラクスルがコーポレートIT部門の担当者600名を対象に行ったアンケートでは「約50%の企業がITデバイスをExcelで管理しているか、そもそも管理できていない」ことや、「約50%の企業がSaaSの契約状況の管理ができておらず、約60%の企業がSaaSへの支払いコストの把握ができていない」といった実態も明らかになった。

こうした状況がコーポレートITの高い離職率などにも繋がり、悪循環が生まれてしまっているというのがラクスルの考え。ジョーシスではアナログな業務の自動化・効率化を通じて「コーポレートITを後押ししていく」ことが目標だ。

同サービスはラクスルのインド拠点を中心に開発を進めており、正式ローンチに先駆けてすでに十数社が活用している状況とのこと。まずは2021年度中に50社への提供を目指していくという。