クラス代表取締役社長の久保裕丈氏 すべての画像提供:クラス
クラス代表取締役社長の久保裕丈氏

家具を「買う」のではなく「借りる」という選択肢が広まりつつある。生活雑貨ブランドの無印良品は2021年1月より家具の月額制サブスクリプションサービスを開始。オフィス用品の通販サイト・アスクルも同月より、オフィスチェアのレンタルサービスを提供している。

今でこそ無印良品を筆頭とした大手ブランドも参入する家具のサブスクリプションサービスだが、もともとはスタートアップが盛り上げてきた市場だ。2018年には「airRoom」、「subsclife」といったサービスが立ち上がった。このような家具のサブスクリプションサービスに先駆けてスタートしたのが、同年8月にローンチした「CLAS」だ。

ローンチから3年。今では家具だけでなく家電もラインナップに並び、掲載商品数は当初の約8倍である約800点にまで増加している。だが、CLASを提供するクラスではさらなる拡大を目指す。

そのための資金として、同社は約21億円を調達した。第三者割当増資の引受先は、ベンチャーキャピタル(VC)のグロービス・キャピタル・パートナーズと大手物流不動産・日本GLPのグループ企業のモノフルなどだ。

クラス代表取締役社長の久保裕丈氏は「『所有せずに利用したいもの』の一大マーケットプレイスになることが我々の狙いです」と語る。久保氏は経営コンサルティング会社・ATカーニー出身の連続起業家だ。Amazonプライム・ビデオが配信する恋愛リアリティ番組『バチェラー・ジャパン』に出演したことで、“初代バチェラー”としても知られる。

メリットは「ライフステージの変化への適応」

CLASは月額440円(税込)から利用できる、家具のサブスクリプションサービス。ソファやベッド、チェアといった家具のほか、洗濯機、冷蔵庫、電子レンジといった家電を取り扱う。必要な期間だけ必要な商品を借りられるのが特徴だ。

個人向けと法人向けの両軸で事業を展開しており、個人向けは、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、京都府、兵庫県で展開し、法人向けは全国対応となっている。

個人が家具を買わずにレンタルするメリットについて、久保氏は「ライフステージの変化に合わせられること」と説明する。

「自分はもともと企業に勤めていましたが、辞めて起業し、買収も経験しました。その後はフリーランスのようなかたちで働くこともありました。30歳前後の人たちのライフステージの変化は非常に早い。仕事でのキャリアだけでなく、プライベートも結婚などで世帯構成も変わります。そうした時に必要とする家具は変わってきます。ですが、モノを所有していると、自由な意思決定が難しくなってしまう。それぞれのタイミングで一番いい生活を送ってほしいと思い、CLASを提供しています」(久保氏)

法人にとってのメリットも同様に、企業の成長に合わせて家具の数や種類を調整できることだと久保氏は話す。CLASを利用する法人顧客の多くは中小規模の企業だ。急速な成長に伴うオフィス移転を想定し、家具を買わずにレンタルするスタートアップは多いという。

前述のとおり、無印良品など大手ブランドのほか、複数のスタートアップも家具のサブスクサービスを展開する。競合サービスにない強みについて聞くと、久保氏は「商品が必要なくなった際にすぐに手放せるUX(顧客体験)がウリです」と述べる。

「競合サービスでは利用期間を決めてから利用を開始するケースがほとんどですが、我々はそのようなことは求めていません。今は『どの家具がどれくらいの期間必要か』など、分からない時代だと思っているからです」(久保氏)

また、例えば競合のAirRoomは大塚家具、subsclifeはコクヨといった具合に知名度の高いメーカーの家具を取り扱う中、顧客のニーズに合わせた自社開発の家具を揃え、D2C展開する点もCLASの強みだと久保氏は話す。

CLASでは多くの家具を自社でデザイン・製造しD2C展開する
CLASでは多くの家具を自社でデザイン・製造しD2C展開する

商品数を2年間で10倍に

昨年からは巣ごもり需要が拡大し、テレワーク用のデスクなど、自宅での作業環境を整えることを目的に個人による利用が急増した。法人でも同様に、防音ブースやテレカンファレンス用機器といった商品の需要が高まった。結果として、売り上げは昨年同月比で約3倍の成長を遂げ、MRR(月次経常収益)は約1億円に達したという。

クラスは調達した資金をもとに、2年後までに商品数を現在の10倍にまで拡大させる。その上で欠かせなかったのが、物流施設を持つ日本GLPグループとの連携だ。現在も合計で1000坪ほどの倉庫スペースを借りている状況だが、「拡大に向けてより広大なスペースが必要となる」(久保氏)ため、日本GLPが所有する施設を追加利用することを検討。また、日本GLPのグループ企業・モノフルと連携し、倉庫スタッフの依頼や管理を支援する「適材ナビ」を活用するなどして、CLASの“物流屋”としての側面を強化していくことも視野にある。

「商品数は増やそうと思えばいつでも増やせました。100社ほどのメーカーとの取引があるため、数万点の商品を揃えることは難しくありませんが、サブスクリプションサービスとしての完成度を高めるため、プロセス、オペレーション、システムを作り込んできました。急拡大をしても問題がない状態になったため、大型の資金調達を実施し、商品数と顧客数を一気に増やしていく方向に舵を切りました」(久保氏)