Nuthawut Somsuk
Photo:Nuthawut Somsuk/gettyimages

数年前と比べて、スタートアップの資金調達環境はどのような変化が生じているのか。フォースタートアップスが運営するスタートアップの情報プラットフォーム「STARTUP DB(スタートアップデータベース)」が発表した『2021年上半期国内スタートアップ投資レポート』のデータからは、2021年上半期(1〜7月)、合計調達金額や調達実施企業数はコロナ禍の影響もあり前年同期比で減少したものの、1件あたりの調達額は上昇傾向にあるトレンドが見えてきた。

2021年上半期に資金調達を実施した企業数は841社で、2020年上半期の1012社から約17パーセント減少。その一方で2021年上半期の合計調達金額は約3835億円で、2020年上半期の約3888億円と比較しても約1.3パーセントの微減にとどまっている。なおフォースタートアップによると、このレポートで指すところの調達額はデットとエクイティの合計金額となる。

合計資金調達額・調達企業数の推移

なお、調達金額の中央値・平均値は直近3年間は上昇傾向にある。2019年上半期では約9000万円だった中央値は2021年上半期には約1億5000万円、平均値は約3億7380万円から約5億7999万円まで増加した。中央値に対して平均値が大幅に増加しているということは、一部のスタートアップが大型の調達を行ったということだ。この背景にあるのは、上場・未上場企業の両方に投資する「クロスオーバー投資家」など、海外の機関投資家による、ごく一部の優れたスタートアップへの巨額出資だ。

中央値・平均値

海外投資家の存在は2018年ごろから目立ち始めた。同年にはクラウド会計SaaSのfreeeと名刺管理のSansanがT. Rowe Priceから、2019年には、データマーケティングプラットフォーム「b→dash(ビーダッシュ)」を開発し提供するデータX(当時の社名はフロムスクラッチ)がKKRから、PaidyがPayPal Venturesからの資金調達を実施している。

2020年にはECプラットフォームのヘイがBain Capitalから、建築SaaSのアンドパッドがSequoia Capital Chinaからの出資を受けた。

そして2021年には、9月までの時点で、SmartHR、製造業の受発注プラットフォームを提供するキャディや、塾・予備校向けのソリューションを開発するatama plusなどが、海外投資家からの資金調達を発表している。

海外投資家から資金調達した主なスタートアップ

アンドパッド取締役CFOの荻野泰弘氏やatama plus代表取締役CEOの稲田大輔氏は、海外投資家を含む大型資金調達を実現した背景について「展開する事業領域におけるトッププレーヤーだからこそ、海外投資家からの資金調達を成し得た」と説明する。

今後も海外投資家の投資は続く傾向にありそうだ。8月にはシードVCのCoral Capitalが総額140億円規模となる3号ファンドの組成を発表。同ファンドにはPayPal創業者のピーター・ティール氏が率いる米VCのFounders Fundなどが出資するが、創業パートナー兼CEOのジェームズ・ライニー氏は「良い案件が出てくればFounders Fundに繋げていくといった動きもできればと思っています」と話した。

また、現在は海外スタートアップへの投資を行っている、ソフトバンクグループの総額約14兆円のSoftBank Vision Fund(SVF)も、日本での投資活動を開始するのではないかと噂されている。

SVFはすでにビジネスSNSの「LinkedIn」上では日本での投資担当者も募集している。またある起業家は9月に実施した取材で「パートナーではないが、SVF(の関係者)に会う予定だ」と口にした。その起業家は大手企業もスタートアップも参入する領域で事業を展開するが、アンドパッドやatama plus同様「競合は追いつけない状況にある」と強気に語る。

海外投資家やSVFのような巨大ファンドのまなざしは、各領域のトッププレーヤーたちにのみ向けられる。もちろん、資金調達はマストではないが、調達額の大型化は、トッププレーヤーを追従する競合スタートアップに、より苦しい戦いを強いることを意味している。