
- ベースフードのコミュニティには1万人以上の会員が参加
- 情報を集約した双方向型の“顧客コミュニティ”がCSを後押し
- 1年でMRRは5倍に、独自の教科書やフレームワークで徹底伴走
- コミュニティはCRMにおける次のビッグトレンド
さまざまなビジネスがサブスクリプションモデルを取り入れたことで、顧客の課題解決や成功を後押ししながら長期的な関係性を築いていく「カスタマーサクセス(CS)」の重要性が増している。
CSの手法はいくつも存在するものの、中でも今にわかに注目を集めているのが顧客コミュニティを活用した“コミュニティタッチ”だ。
シャープやテイクアンドギヴ・ニーズ、インフォマートといった上場企業からベースフードやヘイといった成長中のスタートアップまで幅広い企業がコミュニティを開設し、ユーザーとのコミュニケーションに取り組んでいる。
実は上述した企業のコミュニティには共通点がある。その裏側に「commmune(コミューン)」というサービスが存在することだ。
“企業とユーザーが融け合うカスタマーサクセスプラットフォーム”をうたう同サービスは2018年9月のローンチ。年々事業を拡大しており、4.5億円を調達した1年前と比べてもMRR(月額経常収益)は約5倍の規模になっている。
運営元のコミューンではこの勢いをさらに加速するべく、組織体制の強化やマーケティング活動への投資を進めていく計画。そのための資金としてDNX Ventures、UB Ventures、Z Venture Capital、ジャフコグループから総額で19.3億円の資金を調達した。
ベースフードのコミュニティには1万人以上の会員が参加
完全栄養食ブランド「BASE FOOD」を展開するベースフードでは、2018年9月より既存ユーザーを中心としたオンラインコミュニティ「BASE FOOD Labo」を運営している。

Laboに投稿されるのはスタッフによるオススメのレシピのほか、ユーザー達が自ら実践しているBASE FOODの食べ方など。要は“ユーザー同士で”BASE FOODの楽しみ方を発掘し、その知見を共有し合っているわけだ。
このコミュニティの存在が、LTV(顧客生涯価値)の向上を始め、さまざまな効果を生み出しているという。
コミュニティ内での情報交換が活発になることでBASE FOODを日々の食事で取り入れる機会も増え、それが追加購入や単価の高いプランへのアップグレードなどを後押しする。レシピを通じて食べ方のバリエーションが広がることで“飽き”を防止し、解約率の減少にも貢献。コミュニティメンバーを起点とした新規ユーザーの獲得にもつながった。
またLaboは商品開発においても重要な役割を果たしており、ユーザーからの生のフィードバックから新商品や新フレーバーが生まれることもある。
登録前や登録間もないユーザーに「はじめての方へ」というコンテンツを出したり、イベント参加者に詳細な新製品ヒアリングをしたりといったように、ユーザーの属性に応じてコミュニケーションの内容を調整しているのもポイント。Laboの会員数は2021年7月時点で1万人を超え、強固なコミュニティが形成されつつある。
情報を集約した双方向型の“顧客コミュニティ”がCSを後押し

冒頭でも触れた通り、BASE FOOD Laboはcommmuneを用いて開発されたものだ。キーワードになるのが「顧客コミュニケーションの集約統合」と「双方向コミュニケーション」。従来は分散していた顧客接点をコミュニティに集約し、画一的かつ一方通行になりがちだった情報発信を双方向型に変える。
それによってスケーラブルなかたちで個別最適なコミュニケーションを進めることができ、工数を抑えながらもLTVの向上を目指せるという。
「1社ごとに最適なサポートをするハイタッチなアプローチは価値が高い反面、どうしても工数の負担が大きくなる。一方でテックタッチやロータッチではスケールが見込めるものの、提供価値は限定的です。これまで企業の担当者は顧客への提供価値の大きさとスケーラビリティのどちらか一方を選ばなければならない状態に陥っていました」(コミューン代表取締役CEOの高田優哉氏)
コミュニティタッチが注目を集めるのはこの“両取り”が狙えること。しかもcommmuneでは顧客コミュニケーションの集約統合と双方向コミュニケーションというコミュニティの特性に、「統合データを基にしたアクションの最適化」という特徴が加わる。

BASE FOOD Laboの事例にもあるようにユーザーの属性ごとにコンテンツを出し分けたり、特定のユーザーだけを対象にしたアクションを実行したりすることが可能。CRMやMAツールとも連携した上で、データを用いて顧客体験を設計できる。
commmuneはいわゆる“ノーコード”型のツールであるため、コミュニティの開設や細かい機能設定のためにその都度開発コストが発生することもない。直近では企業が自社コミュニティのモバイルアプリを自社での開発負担なしで作成できる仕組みの提供も始めた。
1年でMRRは5倍に、独自の教科書やフレームワークで徹底伴走
BASE FOODに限らず、commmuneを用いてコミュニティの運用を始めることでカスタマーサクセスを実現し、結果としてLTVの向上や業務効率化につなげた事例は少なくない。
シャープの場合は「ヘルシオ ホットクック」の公式コミュニティ「ホットクック部」を運用。このコミュニティでもユーザーが投稿したレシピや製品の活用術が軸となっており、コアユーザーの知見がライトユーザーや未購入者の意思決定をサポートするかたちで機能している。
BtoBビジネスでもコミュニティは効果的で、ヘイ(STORES)やインフォマートなどがcommmuneを導入済み。顧客の数が増えるほど人力で満遍なくサポートするのも難しくなるが、その際にノウハウや先輩顧客の声を集約したコミュニティが“企業ポータル”として大きな効果を発揮するわけだ。
実際にある大手メーカーではコミュニティ開設後に問い合わせ件数が2割減少したという。


もともと高田氏たちはサプリメントのD2Cブランドから事業をスタートさせている。その際に「企業と顧客との距離や顧客接点に関する悩み」を当事者として経験したことが、commmuneを開発するきっかけになった。
当初は過去の自分たちとも共通点の多いD2Cブランドやスタートアップを中心に月額数万円のサービスとして提供していたものの、その価格帯では顧客に対して十分なサポートをすることはできず、結果的に解約に繋がるケースも少なくなかったという。
コミューンにとって転機となったのが、サービス開始から1年強が経過したタイミングで主要なターゲットとプライシングを変えたこと。commmuneの役割を既存顧客のLTVを向上させるためのサービスであると定め、ミニマムの月額利用料を25万円まで引き上げた(現在は30万円から)ことで流れが変わった。
「結局『ノーコードでいい感じのコミュニティが作れますよ』とツールを提供するだけではうまくいかないんです。多くの企業はコミュニティをいかに運営していくかで悩んでいるからこそ、コミューンに聞きたいことがある。その支援ができなければ、本当の意味で顧客に価値提供ができないことに気付きました」(高田氏)
現在はコミュニティ運営に関する教科書やフレームワークを自作し、導入直後からコミューンのCSメンバーが顧客に伴走するスタイルが定着している。その分だけ単価は上がったものの、提供できる価値が増えたことで顧客数も拡大。commmuneをフル活用するために高単価のプランへと移行する企業も増加した結果、MRRは1年前に比べて約5倍に成長した。
ここ1年ほどでは顧客の層も広がり、「CS部門が新設されたけど何から手をつけるべきか悩んでいる」「今期からコミュニティに力を入れたいが知見がなくて困っている」といった企業から相談を受ける機会も増えているという。
コミュニティはCRMにおける次のビッグトレンド
「コミュニティはCRMのネクストビッグシングだと考えています」──。高田氏はコミュニティの可能性についてそのように話す。
実際に海外でも関連のスタートアップが複数生まれている。2020年12月にVista Equity Partnersに約11億ドルで買収されたと言われているGainsightを始め、7月に著名VCのAndreessen Horowitzなどから約900万ドルを調達したVitallyや2月に1600万ドルを集めたCommsorなどが勢いを加速中だ。
ただ他のBtoBのSaaS領域に比べると「大きなプレーヤーが少なく、未だにアメリカでも自分たちと同じようなフェーズの会社が多い」(高田氏)状況で、チャンスも大きいという。
「実は日本の方がアメリカ以上にニーズが大きくなると考えているんです。BtoCのビジネスにおいては人口が減少し国内の市場が縮小し始めているため、顧客1人あたりのLTVを最大化させなければ必然的に売上も減ってしまう。また生産年齢人口も減少傾向にあるので『人力で何とか対応する』ということがより難しくなっていきます」(高田氏)
CRM領域に目を向けると、さまざまな分野において外資系のグローバル企業が覇権を握り、日本においてもシェアを取っているケースがほとんどだ。コミューンが取り組むカスタマーサクセスやコミュニティの分野においても同じような構図になる可能性は十分にある。
今回の資金調達はそのような環境の中で戦っていくべく、組織体制やマーケティング活動への投資を加速させることが最大の目的だという。
「(海外の動向も踏まえた上で)ゆったりと成長させるのではなく、腹を決めてグローバルでも勝てるプロダクトづくりに挑戦しないといけないと考え、今回の資金調達に踏み切りました。とはいえ、現時点では日本の市場もまだ黎明期と言えるような状態です。まずはマーケットそのものを創っていくことにしっかりと取り組んでいきます」(高田氏)