
- 経営統合で、双方の強みを生かした事業展開へ
- 「乗りたいときこそ、使いにくい」を変える
- ライドシェアの規制緩和を進めるべきなのか
日本交通ホールディングス(以下、日本交通)とディー・エヌ・エー(以下 DeNA)がタクシー配車アプリなどのモビリティ事業を4月1日付けで統合することに合意した。日本交通の子会社JapanTaxiは2011年より、全国47都道府県を網羅する日本最大のタクシー配車アプリ「Japan Taxi」を運営、DeNAは2018年よりハードウェアを含めたタクシーの総合的なスマート化を目指し配車アプリ「MOV」を運営している。ここ数年変革が起こりつつあるタクシー市場の二大プレイヤーが今、手を組む狙いとは。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)
タクシー保有台数は約10万車両、配車アプリダウンロード数1000万件以上――4月1日に日本最大のモビリティサービスが誕生する。日本交通とDeNAは2月4日、両社のモビリティ事業の統合に合意したことを発表した。
両社はDeNAが運営する次世代タクシー配車アプリ「MOV」を含むモビリティ事業と、日本交通の子会社である JapanTaxiが運営するタクシーアプリ「JapanTaxi」などの事業を統合することに合意した。統合後は、JapanTaxiの共同筆頭株主は日本交通とDeNAとなり、社名も一新する予定だ。
統合の最大の狙いは「(配車アプリを利用できる)規模を拡大できること」(中島氏)にある。JapanTaxiとMOVの提携台数を合わせると約10万台の車両が、1つのアプリで配車可能になる。
新会社の代表取締役会長には日本交通代表取締役の川鍋一朗氏が、代表取締役社長にはDeNA常務執行役員の中島宏氏がそれぞれ就任する予定だ。株式保有比率は両社ともに38.17%で取締役数も1対1であり、川鍋氏は「対等な形での統合であり、意思決定も徹底的に議論して判断する」と主張する。
経営統合で、双方の強みを生かした事業展開へ
JapanTaxiは、配車アプリとして2011年にサービスを提供開始した。ほかの配車アプリに比べ、47都道府県という幅広いエリアをカバーし、提携台数の多さが強みだ。また、日本の老舗タクシー会社としての知見を駆使して、配車アプリだけでなく、タクシーメーターや広告タブレット、ドライブレコーダーなどタクシー事業に特化したハードウェアの自社開発を行ってきたのも大きな特徴だ。
一方MOVは、2018年に提供開始したサービスだ。ほかの配車アプリに比べて後発ながら、DeNAの持つAIやITへの知見やマーケティング力を生かし、昨年からユーザー数は急伸しているという。

「東京以外の首都圏近郊で、あらゆるマーケティングのPDCAを回しており、成功事例が増えています。特に関西で放送したテレビCMをしていてかなりの手ごたえです」(中島氏)
今回経営統合によって、こうした双方の強みを生かした開発やマーケティングができるようになるため、川鍋氏は「一緒になってやったら、すごくいいコンビになのではないかと感じた」という。また、それぞれかかっていたコストへの二重投資が統合されてなくなる分、事業の拡大に投資することができるようになるため、収益面での効果も期待できる。
「乗りたいときこそ、使いにくい」を変える
今年で109年目を迎える日本のタクシー市場。「過去100年よりも直近の9年の方が産業としての変化が大きい」と川鍋氏は語る。

思い返せば、配車アプリのみならず、広告タブレットの普及やキャッシュレス化など、著しくIoT化が進んだのはこの数年の話だ。2017年からは都内で「初乗り410円」が始まりタクシー乗車のハードルは格段に下がった。また、昨年10月からは事前確定運賃制も導入されている。しかし、「まだ足りていない」と川鍋氏は話す。
「通勤時に相乗りできるサービスや、ヘビーユーザーに対する優遇措置、運転手と乗客の相互評価、ユニバーサルデザインの工夫など、まだまだ日本のタクシー業界には改善点が山積みです。どうすればもっと早くタクシーが進化するか考える中で、MOVがまっすぐタクシー業界へ向き合う姿勢はたいへん参考になった。MaaS(Mobility as a Service)のラストワンマイルをタクシーが担っていくと思っているので、『やっぱり日本のモビリティが世界一だ』と言ってもらうために(MOVと)一緒にやろうと決断するまでにそんなに時間はかかりませんでした」(川鍋氏)
海外ではUberが登場してから、スマートフォンやアプリ決済の普及が急速に進み、価値を提供している。日本では月間およそ1億回のタクシー輸送が行われているが、そのうち配車アプリでの輸送は2%に過ぎない。
「もはや日本は、“配車アプリ後進国”だといっても過言ではないと、私も川鍋さんも危機感を感じていました。あらゆる原因で、『今乗りたい!』という時こそ、使いにくくなっているんです」と中島氏は話す。
タクシーは乗務員の高齢化が進み、車両台数も年々減少している。さらに、乗務員の1日の労働時間に対する乗客の乗車時間の割合は約20~30%と、非効率なままになっている現状がある。
さらに、日本のタクシー事業者は車両保有台数200台以下の中小企業が圧倒的に多く、その割合は99%に達する。さらにその99%の中小企業が、日本にあるタクシー車両の86%を占有している状況だ。これは、全18万8440車両のうち、16万1579車両にも及ぶ(全国ハイヤー・タクシー年鑑2018)。これではなかなか、利便性を求めようにも課題解決に投資ができない。
ライドシェアの規制緩和を進めるべきなのか
日本のタクシー市場を考える上で切り離せないのが「ライドシェア(相乗り)」の規制だ。ライドシェアとは、一般のドライバーが自家用車を使用して有償で乗客を乗せるというもの。日本の法律では、このライドシェアは認められていないため、Uberのようなライドシェアサービスは参入することができない。

このライドシェア規制に関して、中島氏は「(規制緩和を進めてうまく行くのなら進めたいが)まったくそうではないと考えている」と言う。
「海外では、ライドシェアによっていろいろな問題が起こって再規制される動きがあります。いまさら周回遅れでライドシェアの規制緩和をしても、今度は2周遅れで再規制しなければならなくなる」(中島氏)
ライドシェア規制を緩和せず、配車アプリ後進国の日本で新たな一手を打つ策として、“日本らしい”サービス作りが鍵になる。
「日本は、電車やバスなど他の交通サービスも質が高く、安心安全のレベルもすでに世界トップクラス。さらにタクシー業界としても、会社として乗務員を雇用して丁寧に築いてきた109年間の土台がある。消費者同士をつなぐイメージの強い海外とは、事業構造自体が違うんです。乗客・事業者・乗務員の三方良しの関係にしていきたい」(中島氏)

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川鍋氏も「働き手にとっても、しっかりした場であるべきだと思います。プロのタクシー車両が走っていることで、それがデータの集積地となり、今後ものすごく価値を生むと思っている。プロの車が24時間365日走っている網羅性の価値は今後高まっていくのではないでしょうか」と意気込む。
両社は今後新会社を設立し、タクシー産業やユーザーペインの解決のみならず、交通事故や渋滞などの交通課題や、高齢化や気候変動などの社会問題にも取り組んでいく姿勢だ。
今回の経営統合のテーマは「ワンチーム」。日本交通とDeNAが手を組み、タクシー市場の成長はさらに加速するのか。