NOT A HOTEL NASU「MASTERPIECE 浮遊の家」は牧場の斜面に突き出るプールが特徴的
  • 「住めるホテル」第1弾は宮崎県青島、栃木県那須の2拠点
  • 不動産流通のセカンダリーマーケットづくりに意欲

アプリひとつで住まいとホテルを切り替えることが可能な「住めるホテル」を開発するNOT A HOTELは9月28日、第1弾となるフラッグシップモデルをオンラインで販売開始した。今回販売するのは宮崎県青島の「NOT A HOTEL AOSHIMA」と栃木県那須の「NOT A HOTEL NASU」の2拠点。NOT A HOTEL AOSHIMAについては、同社が宮崎市から定期借地権で借りた土地で不動産信託受益権の準共有持分として販売する。

販売価格は1棟(1室)購入で3億960万円〜8億3760万円。1棟単位だけではなく、年間30日分を1単位として購入できる「シェア買い」も可能となっている。

NOT A HOTEL代表取締役CEOの濱渦伸次氏は「8億円の商品を『すぐ購入』というボタンを付けてカートで売るというのは、すごくチャレンジング。僕らとしても楽しみにしています」と語る。

「住めるホテル」第1弾は宮崎県青島、栃木県那須の2拠点

NOT A HOTELは、アプリ上で自宅とホテルの切り替えや、室内のコントロールができる「ホテルとしても運用可能な住宅」だ。購入したオーナーは、住宅や別荘として部屋を利用するだけでなく、旅行や出張で家を空ける際には、専用アプリですぐにホテルとして運用できる。

ホテルとしてのオペレーションはNOT A HOTELが行うため、オーナーはアプリで不在の日を指定するだけで、簡単にホテル運営が可能。1棟単位の購入だけでなく、最大12人で共同購入できるシェア買いでも、オーナーが利用しない日はホテルとして貸し出して収入を得ることができる。

NOT A HOTEL販売サイトイメージ
NOT A HOTEL販売サイトイメージ

宮崎県青島のNOT A HOTEL AOSHIMAは、国定公園内に位置しておりオーシャンフロントの立地。独立したヴィラタイプの1室と、2階建ての低層コンドミニアム3タイプ・5部屋、計6室が販売される。

NOT A HOTEL AOSHIMAを代表する「MASTERPIECE 青島の家」は1棟1室のみのヴィラタイプ
NOT A HOTEL AOSHIMAを代表する「MASTERPIECE 青島の家」は1棟1室のみのヴィラタイプ

また、栃木県那須のNOT A HOTEL NASUはヴィラタイプ2室を販売。この2室は20頭の馬が暮らす、16万坪の牧場を望む立地にある。

各室の購入申し込みが重複した場合は選考・抽選の組み合わせにより購入者を決定。販売完了後に建設を開始する。竣工は2022年7月、稼働開始は同年8〜9月ごろを予定している。

濱渦氏によれば、問い合わせの半分は法人からで、社員の福利厚生や会社の資産として運用したいというものだそうだ。こうした背景から、NOT A HOTELでは自分で住居として使う、ホテルとして運用するという使い方のほかに、社員や知人へのギフトとして滞在をプレゼントするような機能も実装する。

NOT A HOTELのキー、ルームコントロールのイメージ
NOT A HOTELのキー、ルームコントロールのイメージ

NOT A HOTELでは、オーナーがすべての拠点のNOT A HOTELを相互に利用できる。オーナーは自分の所有する利用可能日数を使い、ほかのNOT A HOTELにも泊まることができる(部屋によっては、差額の支払いが必要)。2022年にはオーナーだけが1日1組限定で利用できる特別な「NOT A HOTEL EXCLUSIVE」を東京・広尾、東京・浅草と、複数のトレーラーで構成された移動する空間の3拠点に設ける予定もある。

不動産流通のセカンダリーマーケットづくりに意欲

濱渦氏は「これまでのホテル事業は設備ができてから稼働して、それから投資を回収していくことになるが、今回は、建物ができた時点で投資が回収できているという点が大きい」と話す。

「ホテル産業のDXというと、ホテルの業務面に目が向きがちですが、僕らはホテルをつくるところのDXをやっているつもりです。(ECシステムという)違う業界から来て感じるのは、設備産業としてのホテル業は今までリスクを取り過ぎていたのではないかということ。つくって10年、20年かかって投資を回収している。今回は、土地の仕入れや設計のリスクはあるけれども、建てるのは売れてからですからキャッシュサイクルが逆転する。そこで、ほかのホテルとも組めると考えています」(濱渦氏)

実際、既存のホテルから空き施設を売りたいという声がかかることも、結構あるのだそうだ。

コロナ禍で有名ホテルも月額制の長期滞在プランを前面に打ち出しているが、濱渦氏はこれを「とにかく稼働させて損益分岐を埋めるという意味で、PL(損益計算書)の調整」という。一方「僕らが提供するのはBS(貸借対照表)の調整」として「ホテル側は丸ごと施設を売却するのではなく、稼働していないところだけを売却することが可能なので、協業も増えるだろう」ともくろんでいる。

NOT A HOTELは8室のフラッグシップモデル販売開始と同時に、プレシリーズAラウンドで総額8.5億円の資金調達実施も発表している。2020年7月にシードラウンドで実施した10億円の資金調達に続く今回の調達では、投資家として、オープンハウス、オリエンタルランドイノベーションズ、GO fund、マーキュリアインベストメント、BREWなどが新たに参加した。

NOT A HOTELは前述したように、オーナーがすべての拠点のNOT A HOTELを相互に利用できるというコンセプト。2021年5月には、NOT A HOTELをはじめとするホテルの運営・マネジメントを担う合弁会社、NOT A HOTEL MANAGEMENTも設立した。資金調達や合弁会社設立を礎に、今後の複数拠点開発、そしてフランチャイズ展開も視野に入れる。

今回販売する8室は、1室あたり3億円台から8億円台までのレンジだ。濱渦氏は「シェア買いで買いやすくはなったが、さらに買いやすく、将来的には1000万円を切るぐらいまでのラインアップをそろえたいと思っています」という。

「1000万円でセカンドハウスが持てる。そういう世界観まで広げたい。今後、デベロッパーと組むことにより、いろいろな展開も考えています。そういう意味では、今回の資金調達でオープンハウスに入っていただいているのは面白いところかもしれません」(濱渦氏)

濱渦氏は、不動産流通のセカンダリーマーケットづくりにも意欲を示している。

「不動産を部屋買いして、その小口化した権利を売買できるマーケットプレイスを数年以内につくっていく予定です」(濱渦氏)

冒頭で触れたとおり、宮崎市青島財産区が保有する国定公園内に立地するNOT A HOTEL AOSHIMAは、同社が宮崎市から35年の定期借地権で借りた土地で、30年使えるホテルの長期使用権を信託化して証券として販売するというスキームを採用している(不動産信託受益権の証券化)。

「これ自体が結構新しくチャレンジングな取り組みですが、近い将来、不動産を証券化して、これを小口のセキュリティトークンとして販売したいというのが最終目標です。ただ、今はまだ登記をしなければいけないとか、不動産をデジタル化する仕組みがない。そこは法整備とセットかなとは思っていますが、今回のようにCGでイメージを公開して、それをトークン化して販売する、というスタイルがうまくいけば、不動産のデジタル化、オンライン販売はより進んでいくと思うんです」(濱渦氏)

NOT A HOTEL NASUの2棟は現物での販売だが「最終的には、いずれのパターンでもセキュリティトークン化して販売することができれば」という濱渦氏。今回の販売サイトも「法整備も含めて時間はかかりそうですが、トークン化がもし可能になったとして、このUIだったら面白いよね、という目線でつくった」と語る。

まずは今回の8室販売を「重要なマイルストーン」として、「総額40億円をしっかり販売する」という濱渦氏。今後3年で30カ所の拠点開発を目標とする。「拠点が30カ所ぐらいになってくれば、NOT A HOTELの『世界中にあなたの家を』という世界観がより具現化できるだろうと思っています」(濱渦氏)