
今年の1月ごろ、社会現象化するほどの盛り上がりを見せた米国発の音声SNSアプリ「Clubhouse」を覚えているだろうか。
スタートアップ界隈の人たちを中心に利用が進み、その後はタレントや芸能人などが参加。一時はAppStoreの無料アプリランキングのトップに躍り出るほどの人気を見せたが、数カ月のうちに“Clubhouseブーム”は去っていった。

本格上陸から約9カ月──今では日本のAppStoreの無料アプリランキングでは200位圏外、同ソーシャルネットワーキングカテゴリのランキングでも77位まで順位がダウン。「Clubhouseの日本展開は失敗に終わった」と思う人もいるだろうが、彼らは着実に日本のローカライズに取り組んでいたようだ。
運営元のAlpha Explorationは9月30日、Clubhouse上で開催した記者会見で、年内にも日本語版の提供を開始する予定であることを明かした。
急速なスケールに「対応できる状態になかった」
Clubhouseはアプリのアイコンにユーザーの顔写真を使うことで知られている。アイコンの顔写真は不定期で変更される。筆者は1月にClubhouseのアイコンだったBomani X氏、3月にアイコンだったAxel Mansoor氏を3月に取材。ミュージシャンである両氏はClubhouse上で楽曲を演奏しており、両氏とも「外出自粛が原因と思われるが、2020年末から2021年初頭にかけてユーザーが急増した実感がある」と話していた。
Alpha Exploration・CEOのPaul Davison氏も会見で「今年の初頭、我々の意図に反して、世界中で急速にユーザー数が増えたのでとても驚きました。コミュニティが突然大きくなりすぎるとサービスが崩壊してしまいかねないので、少しずつ拡大していこうと考えていた矢先のことでした。ユーザーの爆発的な増加はとても嬉しいことでしたが、当時の我々は正直、急なスケールに対応できるほど組織の体制が整っていませんでした」と話す。
Clubhouseは4月、Andreessen Horowitzをリード投資家としたシリーズCラウンドで、金額は非公開だが資金調達を実施。企業価値にして40億ドル(約4477億円)規模のスタートアップへと成長を遂げた。同社では調達した資金をもとに規模を拡大し、開発を進めてきた。そして体制が整ったため、2021年中に日本語を含む数カ国語での本格的な展開に踏み切った。
Alpha Exploration・国際部門統括責任者のAarthi Ramamurthy氏によると、アプリだけでなく、カスタマーサポートや、利用規約である「コミュニティ・ガイドライン」も日本語化される予定だ。
日本でもマネタイズ機能の実装を年内に目指す
SNS大手のTwitterがClubhouseの競合機能とも言える音声チャットの「Twitter スペース」を5月に正式ローンチするなど、競合サービスや機能が増えている。
ユーザー数の推移や日本におけるユーザー数について会見で質問すると、Davison氏は明言こそしなかったものの、「今年の8月上旬は毎日30万ものルームが開設されていました。その数字は8月末時点で倍以上になっています」と説明。ユーザー1人あたりの滞在時間は世界平均は70分程度だが、日本人ユーザーの滞在時間は特筆して長く、「夏ごろは101分だったのが、今では113分になっています」と語った。
Twitter スペースには「チケット制スペース」という、クリエイターの収益化を支援する機能がある。Clubhouseでは米国で投げ銭機能「Payments」を提供しており、日本でもマネタイズ機能の実装を年内に目指すそうだが、具体的にどのような機能になるのかは決まっていない。Davison氏は「ルーム入場の有料化、月額課金、投げ銭などが選択肢としてあります」と説明する。
Davison氏は会見で「日本は最重要市場」と意気込み、「日本語への対応など、いろいろな事への準備が整ったので、もう一度日本でブームが起きても大丈夫だと思っています」と話した。とはいえ、ブーム真っ只中の重要な時期に日本ユーザーのサポートを怠っていたのも確かだ。
特に前述のコミュニティ・ガイドラインは今も日本語化されておらず、これではどのようなルールに従えば良いのか、すべてのユーザーが理解できるわけではない。筆者は2月に「ガイドラインの日本語化は検討しているか?」、「日本のユーザーに注意して欲しいことはあるか?」という質問を送っているが、回答はまだ返ってきていない。
日本でも「Radiotalk」や「Yay!」、「パラレル」といった和製の音声系アプリがユーザー数を伸ばしている。Clubhouseが再びブームを起こすために必要なのは、単なる日本語化ではなく、丁寧なローカライズではないだろうか。