
3DCGを活用することで未竣工物件の室内空間を自由に歩き回れる“VR内覧”を通じて、新築マンションの購入検討をサポートする「ROOV」の活用が広がっている。
コロナ禍の緊急事態宣言によってマンションギャラリーへの集客が制限されたことにより、従来主流となっていた大量集客と複数回の対面商談を中心とした販売手法の見直しが急務となった。そこでオンライン接客を後押しするROOVのニーズが高まったかたちだ。
運営元のスタイルポートによると同社のサービスは大手デベロッパーを中心に累計で約70社、270のプロジェクトで導入。緊急事態宣言前の事業年度上半期(2019年10月~2020年3月)と直近の事業年度下半期(2021年4月~9月)を比べるとプロジェクト数は2.5倍に増え、売上も4.6倍に拡大しているという。
今後同社ではROOVの機能拡張に加えて、新築マンションだけでなく戸建て住宅やリフォーム案件への対応も進めていく計画。エンジニアやビジネス人材の採用強化に向けて、以下の投資家などから新たに4.2億円の資金調達も実施した。
- 日本郵政キャピタル
- ゼンリンフューチャーパートナーズ
- Sony Innovation Fund
- 三菱UFJキャピタル
- マーキュリアインベストメント
- みずほキャピタル
ROOVの特徴はユーザーが自宅から手軽にオンライン内覧ができること。ハイスペックなデバイスや専用のアプリケーションなどは必要なく、URLをクリックすれば手持ちのPCやスマートフォンを使ってブラウザ上で3DCGの室内空間を歩き回れる。
ROOV内では360°写真などと異なり、部屋の中を行き来することで実際の内覧に近い体験が可能。部屋の間取りや寸法を確かめられるだけでなく、家具を設置したり色を変えたりといったように豊富なシミュレーション機能も搭載している。

VR内覧の仕組み自体は以前から存在していたが、モデルルームの接客ブースにスペックの高いPCやVRデバイスを置き、そこで使ってもらうことも多かった。ROOVの場合は現地で営業担当者が説明をする際はもちろん、ユーザーに自宅で検討してもらう際にも使える。スタイルポート代表取締役の間所暁彦氏によると、8割ほどのユーザーは家に帰ったあとで再びROOVを使って細かくリサーチをするそうだ。
導入企業はROOVにすべてのプレゼン資料を集約することで、対面でもオンラインでも同じように接客することができる。「どの情報をどのくらい閲覧したのか」といった顧客の行動を解析する仕組みも備わっているため、ニーズに合った提案をしやすい。

「今までのVR内覧は(物件の情報を)良く見せるという文脈が大きく、いかに画質を向上させるかなどに軸が置かれがちでした。一方で私たちはどちらかと言えば業務支援という文脈の方が強い。空間の情報をオンラインで相手に伝えるのが難しかった中で、VR内覧を中心にそのコミュニケーションを支援しています」
「もちろんモデルルームでも商談はするけれど、ROOVを使うことで顧客は自宅でも物件の情報を細かく調べることができ、企業は顧客が何に興味を持っているのかを知ることができる。つまり商談をモデルルームの外にも延長できるんです」(間所氏)
当初は在京の大手デベロッパーの首都圏でのプロジェクトで活用されることが多かったが、直近では北海道から九州まで地方のデベロッパーでの導入も進んでいる。ROOVが活用されるプロジェクトは常時入れ替わるものの、約8割のプロジェクトは既存ユーザーのリピート案件か、同じデベロッパー内での別部門での利用なのだという。

スタイルポートは分譲マンションの開発や不動産投資ファンドの組成などに携わってきた不動産業界出身の間所氏と、リクルートやエムスリーなどで事業開発を経験してきた中條宰氏が2017年に立ち上げたスタートアップだ。
3DCGデータを標準的なデバイスのブラウザ上でもサクサク動かせる独自エンジンの開発に早くから力を入れ、顧客の声も参考に機能のアップデートを続けてきた。今後は多機能化とともに、戸建て住宅やリフォームなど新たな領域での事業展開も進めていく。