
- アミューズメント施設では1年半で1万人がプレイ
- Facebookが認めた「世界に類を見ない対戦ゲーム」
- VRゲームは「黎明期」を越えた
- 今後はストリーマー(動画配信者)との連携も視野
Facebookが5月に発売した新型VRヘッドセット「Oculus Quest」。これまでのヘッドセットはPCと接続して使用するものがほとんどだったが、この新端末は本体だけでVRを体験できる“オールインワンタイプ”の設計になっている。新端末向けに日本で初めてゲームを提供するgumi子会社・よむネコ代表取締役社長の新清士氏と、取締役会長の國光宏尚氏にVRゲームを取り巻く環境について聞いた。(ダイヤモンド編集部 副編集長 岩本有平)
アミューズメント施設では1年半で1万人がプレイ
よむネコの創業は2013年4月。代表を務める新氏は、ゲームジャーナリストやデジタルハリウッド大学大学院准教授として活躍してきた人物。VRに関する取材をする中で自らゲームを開発すべく起業を決意。2016年12月にVR空間上で体験できる脱出ゲーム「エニグマスフィア~透明球の謎~」をリリース。ゲーム配信プラットフォームで販売する一方で、大阪・梅田にあったアミューズメント施設「梅田ジョイポリス」(2018年5月に閉館)では、1回800円で体験できるアトラクションとして展開。1年半で、のべ1万人がプレイしたという。
「VRゲームの会社を作った最終的な目標は、(小説・アニメの)『ソードアート・オンライン』のような世界観を持ったVR・MMO RPG(多人数が同時参加できるロールプレイングゲーム)を作りたいと思ったから。建物の都合もあってジョイポリスでの営業は終了したが、アミューズメント施設での提供を通して、VRでは複数人で同時にゲームを楽しむ『マルチプレイ』が盛り上がるということが分かった」(新氏)
Facebookが認めた「世界に類を見ない対戦ゲーム」
2017年3月にはgumiのグループ会社となったよむネコ。エニグマスフィアの次のタイトルとして、プレーヤーがコンピューターと剣で戦う“剣戟ゲーム”を開発していた。そこにマルチプレイ機能を盛り込んだのが、今回リリースした「ソード・オブ・ガルガンチュア」だ。対応するVRヘッドセットはOculus Rift、Oculus RiftS、Oculus Quest、HTC VIVE、Windows Mixed Reality。ゲーム販売プラットフォームのSteamおよびOculus Storeで販売する。価格は1990円。
新氏によると、「剣で戦う」というゲームは、欧米を中心に人気を集める「銃で戦う」ゲームよりも処理が難しいのだという。銃の場合、コントローラー操作で引き金を引くというアクションをすれば、基本的には弾が直線に飛んでいく。プレーヤーは弾を撃つか、敵の弾を避けるかという処理だけをすればいい。
だが剣の場合、コントローラーを実際に振って敵に斬りかかる、敵の振り下ろした剣をよけるということに加えて、敵の剣を自分の剣で跳ね返す、といった処理が必要になる。そのため、当初は海外のサーバを介するマルチプレイではゲームの処理が間に合わなくなってしまった。マルチプレイをゲームの「キモ」だと考えていたこともあり、解決法を模索して当初予定よりも半年ほど販売が遅れた。
「Oculus(Facebook)の中の人間にも、『剣で対戦するマルチプレイゲームを作っているメーカーは(開発難度から)世界でもほとんどいない』と言われていた。最終的には二十数名のエンジニアで開発を進めた。VRゲーム専門の開発チームとしては、世界でもかなりの規模になっているのではないか」(新氏)
「VRの本質は何よりも『没入感』。いままで『観る』だったゲームの世界に入っていける体験の価値は大きい。このゲームではリアルな剣戟とマルチプレイ、巨大な敵との対決の3つの要素が没入感を生んでいる。逆に捨てたのは長時間プレイするということ。(剣を振るために)実際にコントローラーを強く振るので、一晩中プレイするというのは無理だろう」(國光氏)
VRゲームは「黎明期」を越えた
ではその大きなチームを支え続けるほどに、VRゲームのマーケット規模は大きいのだろうか。
「Oculus GoやPlayStation VR、HTC VIVEなどをあわせた端末台数は2018年末で500万台ほど。Steamで昨年売り上げトップになったゲーム『Beat Saber』が100万本を突破して、総売上は2000万ドル(約22億円)くらい。それ以外にも、売上4億~5億円規模のタイトルが20本ほど出ている状況。これにOculus Questの台数がどれくらい乗ってくるかがカギになる。だが、『VRでも面白いゲームさえ出せばお客さんがついてくる』という状況は見えてきた。この数年『VRゲームはまだ黎明期』と言っていたが、その時期は越えたのではないか」(國光氏)
コンシュマーゲームを見れば、Nintendo Switchの累計販売台数が3224万台、人気タイトルの「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」の販売本数が1381万本(いずれも任天堂の2019年3月期決算より)となっており、各社のVR端末の合計よりもまだまだ大きい。だが國光氏は、価格設定からもFaceookがVR普及に勝負をかけている、と分析する。
「Oculus Questは日本では4万9800円(64ギガバイト版)だが、米国では399ドル(約4万3000円)。これまでの家庭用ゲーム機は500ドル以下でないと売れなかったが、ここまで価格を下げてきている。Facebookはハードが売れるたびに赤字になるかもしれないが、腹をくくって普及させようという意気込みを感じる。ザッカーバーグ(Facebook CEOのマーク・ザッカーバーグ氏)は『VR端末を10億人に普及させる』と言っているが、ハードが売れ続ければ市場はここから急拡大するゲームプラットフォームとしての1つのマイルストーンは1000万台。これは年内には超えるのではないか。これを超えるとミリオン(100万本)超えのタイトルが出てくる」(國光氏)
今後はストリーマー(動画配信者)との連携も視野
よむネコでは今後、四半期から半年をめどに、ソード・オブ・ガルガンチュアの追加要素やアバターなどを販売していく予定だ。「ユーザーから要望の高い機能を足していく。これまでにも『二刀流の機能を入れてほしい』といったニーズが出ている。ユーザーには長く遊んでほしいと思っている」(新氏)
そのほか、「ストリーマー」と呼ばれるゲーム動画の配信者とも連携して、ゲームの認知を図る施策も検討しているという。
「海外ではストリーマーが投げ銭を得ることは1つのビジネスになっている。たとえばストリーマーとレベニューシェアできるビジネスを考えたり、ストリーマー同士でソード・オブ・ガルガンチュアのハイスコア競争をしてもらったりして、“ゲームの外側”に向けた展開を考えていく。これまで2度ベータ版を公開しているが、すでにハイスコア競争の熱中度合いはすごいものになっている」(新氏)