
- ダンスや口パク動画“だけじゃない”動画が急増
- 30年前の書籍が完売・重版する“TikTok売れ“も
- デジタルコンテンツ全盛、「いかに新しいものと出会うか」
- 作り込まれたものより「熱量の高いもの」が受け入れられる
- 課金機能のほか、採用活動のツールとしても
2021年9月末に世界の月間アクティブユーザー数が10億人を超えた、ショートムービーアプリ「TikTok」。世界中で人気を博す、同アプリが日本に上陸したのは2017年夏のことだ。
当初は中高生を中心とした“若年層”が使うアプリというイメージが強かったが、ユーザー数の拡大とともに年齢層も広がりを見せている。博報堂DYメディアパートナーズと博報堂の共同プロジェクトであるコンテンツビジネスラボが発表した「コンテンツファン消費行動調査」によれば、国内ユーザーの平均年齢は34歳だという。
TikTokの世界的流行を受け、動画共有プラットフォーム「YouTube」は2021年7月に日本を含む世界100カ国以上で、最大60秒のショート動画の撮影や編集、投稿まで行える機能「YouTubeショート」をリリース。長尺の動画で盤石の地位を築いていたYouTubeにとっても、短尺動画の盛り上がりは無視できないものとなっているのだ。
今でこそ老若男女が使うアプリとなったTikTokだが、日本上陸から間もない頃は「若者の間でしかはやっていないもの」だった。その頃から「TikTokに一点集中していた」と語るのが、ホリプロデジタルエンターテインメント(以下、ホリプロデジタル)代表取締役の鈴木秀氏だ。
同社では、TikTokで980万人超え(2021年10月14日時点)のフォロワーを持つ景井ひなをはじめ「デジタル発タレント」を数多く輩出している。
鈴木氏はなぜ、早い段階からTikTokに「全振り」しようと思えたのだろうか。そして日本上陸からの2年間でTikTokにはどのような変化があったのだろうか。日本でいち早くTikTokを活用したビジネスを展開し、TikTokの有識者ともいえるホリプロデジタルの鈴木氏がTikTok Japan マーケティング本部 リードコミュニティ&カテゴリーの白地祐輝氏にこの4年の変化について話を聞いた。
ダンスや口パク動画“だけじゃない”動画が急増
鈴木:大学時代から前職にかけて、ずっと動画事業に携わってきました。その過程で、最も関心を持ったのが短尺動画です。ただ、その頃はYouTubeに代表される「長尺動画」が時代のトレンド。数多くのYouTuberが世の中に生まれていきました。
そうした世の中の流れは感じつつも、自分の興味関心はずっと短尺動画にありました。2018年7月にホリプロデジタルを設立してから1年ほど経ったタイミングで、TikTokに出会って衝撃を受けました。そこで「TikTokへ全振りしよう」と決めたのです。
そのきっかけが、女子高生たちのスマホの使い方でした。当時、通勤中の電車で見かけた女子高生たちのほとんどが「画面を横にするのがめんどうだから」と、YouTubeを縦画面のまま見ていました。その姿を見て、「今後は縦画面がトレンドになる」と確信を得たんです。
日本に上陸してから約2年ほど経ちますが、今やTikTokはYouTubeと肩を並べるほどまでに急成長を遂げています。この様子をTikTokの“中の人”である白地さんはどう見ていたんですか。
白地:当時のTikTokは、“踊ってみた”などのダンス動画やリップシンク(口パク動画)が流行していました。しかし、このときのユーザーはまだ若い世代がメインで、テレビで取り上げられても「若年層の間で人気のアプリ」という扱いでした。
ただ、若年層以外の人にも使ってもらいたい。そこで影響力のある芸能人やインフルエンサーに使ってもらう目的で、芸能事務所の人たちと2018年ごろから会う回数が増えていました。鈴木さんとは、その過程で出会いました。
当時のTikTokは今ほどコンテンツ数がなかったので、他の部署の人と一緒になってユーザーが喜ぶコンテンツをつくっていましたね。
現在では、芸能人やインフルエンサーだけでなく、一般ユーザーから生み出された多様なコンテンツが登場し続けています。そして、人気コンテンツはトレンドになるなど影響力を持つようになっている。ここが、この4年で最も変化したところですね。
30年前の書籍が完売・重版する“TikTok売れ“も
例えば、作家・筒井康隆が1989年に発表した『残像に口紅を』(中央公論新社)を人気TikTokクリエイター・けんご氏が2021年7月にTikTok内で紹介しました。そうしたら、同書はまたたく間にアマゾン日本文学ランキングで1位となり、売り切れが続出。同年8月12日には3万5000部の重版、20日には2万部の重版が決定しています。
鈴木:そして、「若年層に人気のアプリ」から、年齢層が高いユーザーにも使われるアプリになったように感じています。年齢層が上がったのは投稿するユーザー、それとも視聴するユーザーのどちらが先だったんですか。
白地:一概には言えないのですが、歌手の郷ひろみさんがTikTokを始めるなど、年齢層が高いユーザーに受け入れられるコンテンツが増えて「これなら楽しめそうだ」と定着していった流れもありました。現在も多様なコンテンツが増え続けていることで、幅広い年齢層のユーザーがTikTokを使っています。
@hiromigo_official みんなでレッツ ##GOチャレンジ 一緒に遊んでたくさん投稿してくださいね😆✨##これからも俺の時代 ##郷ひろみ ##2億4千万の瞳 ##ジャパン ##ジャケットプレイ ##初投稿です
♬ 「2億4千万の瞳 -エキゾチック・ジャパン」(TikTok ver.) - TikTokMusicトレンド
デジタルコンテンツ全盛、「いかに新しいものと出会うか」
鈴木:僕にとって当初のTikTokは、例えるなら「雑誌の表紙」だったんです。目次がInstagramで、本誌がYouTube。つまりTikTokは“表紙”としてユーザーの目を引きつけ、目次や本誌であるInstagramやYouTubeといったコンテンツへ送り込むような役割を果たしていました。それが今、表紙的だったTikTokが本誌の役割も担おうとしている印象もあります。
白地:大前提として、スマホを持つ人が増え、通信速度も5Gエリアが広がりつつあります。そのため、長尺動画を見ることが苦ではなくなりました。その追い風を受け、YouTubeでは良質なコンテンツが続々と生みだされ、2015年に日本へ上陸したNetflixも右肩上がりで会員数を増やしています。
その結果、今の世の中はデジタルコンテンツであふれています。一方で、無自覚に新しいコンテンツと出会える機会が減りました。YouTubeは基本的に自分がチャンネル登録(フォロー)しているユーザーの投稿が表示されるため、真新しいコンテンツはあまり出てこない。そうした中、TikTokは、フィード設計を「フォロー」でなくユーザーの興味に合わせて「おすすめ(レコメンド)」を紹介するものになっているため、新しいものと出会う体験をユーザーへ与えられると考えています。
鈴木:事務所サイドとしての所感ですが、TikTokでは一時期、ニュースをテーマにしたコンテンツもありましたよね。そういったものが増えていくのを見て、流行よりも「文化づくり」に力を入れようとしていると感じたんです。
流行とは「見るとなにかを与えてもらえる価値」があるもの。一方で文化は「それはTikTokで見よう」と思えるもの。そこをうまく醸成できたことも、TikTokの成長につながったんじゃないかと考えているんですが、いかがでしょうか。

白地:「流行」と「文化づくり」の考え、面白いですね。以前のTikTokの動画は15秒が最長でしたが、現在は3分まで投稿できるようになりました。そして2020年からはライブ機能も導入しています。これらの機能は、ユーザーが長尺動画を見ることに慣れていないとリリースできなかった機能です。
また、TikTokでは好みじゃない動画だと思えばさっとスワイプして次の動画を見られる。「こういう動画ジャンルが好きですよね?」と、機械学習を活用したレコメンドの仕組みは、TikTokの強みの1つです。TikTokを開けばさまざまな発見があるため、1日の平均利用時間は67分ほどあります。2021年5月時点でアメリカでの直近の視聴時間がYouTubeを2時間ほど上回りました。このエンゲージメントの高さも、TikTokの強みになっています。
作り込まれたものより「熱量の高いもの」が受け入れられる
鈴木:TikTokで生み出される動画内容も、他ではあまり見ないものが多いですよね。YouTubeでは、サムネイルやテロップを分析して「いかに視聴者を引きつけるか」のテクニックがあります。でも、TikTokにはそういったテクニック的な要素があまりない。
どちらかというと、楽しんでつくられたコンテンツが評価されています。作り込んでしまったものは見透かされているイメージすらあります。例えば、タクシー会社・三和交通のTikTok動画も、(宣伝色のない内容で)自社のカジュアルな空気感を出すことで125万人以上のフォロワーを集められています。
白地:熱量がこもった動画や「喜んでもらえる」と感じたことを軸に作った動画は評価されやすいですね。オリンピックが開催されていた頃は、国際オリンピック委員会(IOC)が選手村の様子などをTikTok上で公開していました。例えば、パントマイムの動画は非常にシンプルなものでしたが、数日で200万再生(現在は1750万再生)されていました。熱量だけでなく、周囲が気になっていることに回答するような動画も受け入れられています。
@olympics Please understand. 🙏🏻 #Olympics #Sustainability #TokyoOlympics #OlympicSpirit
♬ Dville Santa x Laboratory o - 𝙅𝙪𝙨𝙩𝙞𝙣
鈴木:今、ホリプロデジタルではYouTube上で「デジホラ」という短編ホラードラマをつくっています。おかげさまでフォロワーは2万ほどいて、好感触だと思っているんです。このように、以前までは長尺動画がほとんどだったYouTubeでも、短尺動画が受け入れられつつあります。この動きを、白地さんはどう捉えていますか。
白地:基本的に、さまざまな動画コンテンツがあっていいと思っています。そしてTikTokとしても短尺・縦型動画で、なおかつランダム再生されるなかでの最適なフォーマットを探っているところです。
2021年4月に、東宝さんとコラボして新しい映画祭「TikTok TOHO Film Festival 2021」を開催しました。北村匠海さんや三池崇史監督、映画評論家などを招いて、モバイルで撮影した動画コンテンツをコンテスト形式で表彰するものです。東宝さんも短尺・縦型動画に未来を見出してくれていて、実現しました。そういう意味では、これまで通常だった「映画は2時間」ではなく、モバイルでの楽しみ方も広がるのではないかと考えています。
鈴木:動画のトレンドに関する話題だと、アメリカで起こったミーム(ネット上で話題になった動画などをアレンジしたコンテンツ)もすごかった。弊社の景井ひなもミームに挑戦したことをきっかけに人気に火がつきました。このように、アメリカで流行したものが日本へ輸入される現象もよくあります。そう考えると、TikTokの使い方を先取っているアメリカの事例を日本に取り入れれば話題になりやすい、というような方程式もできそうです。
白地:アメリカでしかはやらないものもあれば、日本ではやるものもあると思っています。「日本人ならどう受け取るだろう」など、その裏側を考えながら作り込めるところがミームの魅力。その点、景井ひなさんはその嗅覚に優れていますよね。
課金機能のほか、採用活動のツールとしても
鈴木:日本上陸から現在にかけて、TikTokにとって「1つの完成形」ができたんじゃないかと感じています。次の3年にかけて、何か見えているものはありますか。
白地:我々のミッションは「Inspire creativity, Enrich life(創造性を刺激し、喜びをもたらすこと)」。さらに新しいものに出会ってもらうために、レコメンドやエンゲージメント向上は引き続き取り組みたいところです。
今後、さらに取り組みたいのは課金の仕組みの導入です。すでにイギリスやインドではEC機能をテストしています。日本でも2021年4月から、ギフティング機能をリリース。具体的な数字は非公開ですが、飲食店ではバイトスタッフを1名雇えるほどのギフティングが得られるようになったと聞いています。TikTok上でさまざまなユーザーと出会い、ファンになってもらう。そこからクリエイターをサポートするような動きが始まっています。
もう1つは、一般企業での導入促進です。アメリカのTikTokでは2021年7月から、「TikTok Resumes」という求人・求職のパイロットプログラムを開始しました。すでにNFLやソニーミューニックが参加しているほか、求職者側もキャプションに「#TikTokResumes」とつけて自己PR動画を投稿しています。同じタイミングで、鈴木さんのホリプロデジタルでも、マイナビとともにさまざまな企業を紹介する「お仕事図鑑」も始まっています。
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♬ original sound - TikTok
企業側でも、新しいユーザーとの出会いをTikTokでトライしてもらうことにはまだまだ可能性がありますね。
鈴木:そうなると、企業側でもどんどん取り入れていく流れが強まりそうですね。
白地:我々としても、ユーザーや企業など、本当に熱意がこもっているものを世の中へ広げていく手段として、いい意味で影響力を持つ存在にしていきたいです。