
- 写真を撮るだけで簡単査定、買取後もアイテムを使い続けることが可能
- カギは独自の画像査定技術と不正利用対策
- 個人が保有するさまざまな動産を流動化できるサービスへ
テクノロジーを活用することで、“質屋”のビジネスをアップデートできないか──。言わば「質屋のDX」に挑戦するスタートアップがある。2020年創業のガレージバンクだ。
創業者は三井住友銀行出身の山本義仁氏(代表取締役CEO)と、家業である質屋の経営に携わってきた磯田岳洋氏(COO)。2人は大学時代の同級生で、社会人になってからも質屋ビジネスの可能性や展望についてよく話しあっていたという。
そんな山本氏と磯田氏が新たな金融サービスとして開発したのが「CASHARi(カシャリ)」。簡単な操作で自分の保有しているアイテム(動産)の価値がすぐにわかり、資金化できるアプリだ。
CASHARiではガイドに沿ってデジタルガジェットやブランド品といったアイテムの写真を撮影するだけで、その画像を基に査定が行われ、金額が表示される。査定金額に納得した場合にはアプリから利用手続きを済ませれば、口座振り込みやセブン銀行ATM受取などを通じて買取代金を受け取れる仕組みだ。
写真を撮るだけで簡単査定、買取後もアイテムを使い続けることが可能

ポイントは一連の手続きがオンライン上で完結すること(ATMで現金を引き出す場合にはその工程を除き)と、アイテムを手放す必要がないこと。
特に後者については「セールスアンドリースバック」というモデルを応用しており、これが一般的な質屋ビジネスとの違いであると同時に、数年ほど前「CASH」を皮切りに広がった“即時買取”型のサービスとの違いでもある。
いわゆる即時買取のサービスでは、アプリで査定したアイテムを実際に買い取って保管し、セカンドマーケット向けに販売するなどしていた。
これに対してセールスアンドリースバックは「Aさんが持っているモノを買い取り、それを再びAさんに貸し出す手法」だとイメージすればわかりやすい。CASHARiに当てはめると現金化したアイテムの所有権は運営側に移転するものの、ユーザーは3カ月にわたって利用料(リース料)を支払い続けることでアイテムを手元に置きながら使うことができる。
利用期間終了後には残存価格を支払ってアイテムを買い戻せるほか、再契約を行い利用期間を延長することも可能。もしくはアイテムをカシャリに送って手放してしまってもいい。
従来セールスアンドリースバックは不動産や自動車などを対象に使われていたスキームだが、それを個人の少額動産向けにアレンジしたのがCASHARiの発想だ。
2020年11月のオープンベータ版ローンチから徐々にユーザー数を増やし、現在は1.1万人を超える。40〜50代が6割以上を占めるとも言われる既存の質屋とは異なり、ユーザー層の8割近くが20〜30代の若い世代だ。
査定されたアイテムはスマホを中心としたデジタルガジェットが圧倒的に多く、全体の8割ほど。累計の査定件数も約9000件まで広がった。
たとえば現金が必要なものの「借金には抵抗がある」という理由や、「(思い入れがあるため)アイテムを手放さずに現金を手に入れたい」という理由などからCASHARiが使われているそう。同じユーザーが、同じアイテムで再度リースバックをすることもあるという。
カギは独自の画像査定技術と不正利用対策
事業のキモになるのが「独自の画像査定技術」と「不正利用対策」だ。通常の質屋であれば実物を確認しながら査定できるが、CASHARiの場合は撮影された写真を頼りにオンライン上で査定を進める必要がある。
査定に関しては、これまでそのほとんどを手動で行ってきた。磯田氏の質屋の現場経験とノウハウをフル活用しながら“3枚の画像”を基に真贋鑑定ができる体制を整備。並行して、機械学習技術を活用した自動化を見据えながら着々とデータを蓄積してきた。

山本氏によるとiPhoneについては自動査定の目処も立ち始めている段階で、今後完全な自動化を目指していく方針。PCやブランド品などのアイテムにおいても同様の取り組みを進めていく計画だ。
また不正利用のリスクも大きいサービスのため、事業として成立させる上では不正対策も欠かせない。一例をあげるとCASHARiではeKYCやSMS認証などを用いて金融機関と同水準での本人確認を実施しているほか、GPSによる撮影地の確認の仕組みなどを取り入れている。

山本氏の話では、中には自宅以外の場所で撮影されたと考えられるデータも一定数存在するそう。典型的なのが「家電量販店でガジェットを撮影して登録した」ケースで、登録された自宅住所とスマホのGPS情報などを照らし合わせながら、不正利用を排除しているという。
個人が保有するさまざまな動産を流動化できるサービスへ

山本氏は新卒でメガバンクに入社。その後は建設系スタートアップの助太刀で個人事業主向けのファクタリング事業やプリペイドカード事業などにも携わってきた。
お金を調達するために自分の信用情報を用いて“借金”を選択し、債務に追われながら苦しい状態に陥っていく人も見てきたからこそ、質屋のビジネスのように「目の前のモノの価値を単純に取り出せるサービス」には社会的な価値があると考えていたという。
一方の磯田氏も、質屋ビジネスの価値を感じつつも、従来の仕組みをアップデートする必要性を感じていた。既存の質屋のメイン顧客は高年齢層であり、主に扱うのはそういった年齢層の人たちが所有する貴金属や宝石といったもの。若い世代にも使ってもらえるようなサービスを目指し、2人で事業案を詰めてきた。
今後ガレージバンクではCASHARiのさらなる機能拡充を進めていく計画。真贋鑑定の自動化に向けた取り組みに加え、「個人の動産すべてを流動化できるような状態」に向けてアイテムのラインナップも広げていく予定だ。
そのための資金として、2021年10月には既存投資家のW venturesのほか、マネックスベンチャーズや個人投資家の山崎令二郎氏を引受先とした第三者割当増資により、1億円の資金調達も実施した。