
登録ユーザーにコンテンツをメールで定期配信する、メディアの新しいかたちであるニュースレター。コンテンツはウェブ上にも公開でき、「有料購読者限定」といった具合に公開範囲を指定できる。配信プラットフォームでは月額課金や購読者管理のためのシステムも整える。
代表的なサービスは米国発の「Substack」だ。ニュースレターで年間数百万円を稼ぐライターを数多く輩出している。
海外では専門家やジャーナリストが専門性の高いコンテンツを配信するニュースレターも誕生。数百万人規模の読者も集めるニュースレターも珍しくなくなった。
日本でも今年に入ってからは「WISS」や「Medy」など、ニュースレターの配信プラットフォームが続々と登場しており、10月18日にはスタートアップのOutNowが「theLetter」を正式ローンチ。同社では2020年7月からベータ版を展開しており、1000人以上の有料購読者を獲得するライターも出てきたという。
ニュースレターは海外ではどのように普及し、どのような成功事例があるのか。OutNow代表取締役の濱本至氏に聞いた。
──米国など海外でいつ頃からニュースレターが普及し始めたのでしょうか。普及に至った背景も教えてください。
ニュースレタープラットフォームはSubstackが2017年に登場する以前から存在していました。例えば、2012年にメールマーケティングソフトウェアの「MailChimp」に買収された「TinyLetter」は2010年のローンチです。
GoogleやAppleのCookieに対するポリシーが厳しくなり、多くの企業は別の手段でファーストパーティーデータを獲得しなければならなくなりました。また、アルゴリズムによるリコメンドやプラットフォームへの依存に反発するような動きもあり、ニュースレターは2012年から2015年のあいだに普及していきました。Stripeのような優秀な決済プラットフォームの普及も、ニュースレターが盛り上がった一因だと考えています。
そして昨年2020年は、2012年から2015年のあいだにローンチした多くの新興ニュースレターメディアの成功事例や買収が続々と発表された1年でした。
例えば、「theSkimm」の読者数は700万人を突破しました。「The Hustle」は2月にCRMプラットフォームを提供するHubSpotに、「Morning Brew」は10月にビジネスメディアBusiness Insiderを運営するInsiderに買収されるかたちで、イグジットを果たしました。
また、Substackより2年早く、2015年に創業したニュースレタープラットフォームの「Revue」は1月、Twitterに買収されました。
──日本にもSubstackでニュースレターを配信するライターはいます。Substackの知名度が高い理由は。
前述のとおり、Substackは意外にも2017年にローンチした後発のニュースレタープラットフォームです。当時は数々の新興ニュースレターメディアが登場し、The New York Timesといった大手メディアもニュースレターに力を入れていた時期でした。「自分もニュースレターを開始したい」と考える個人のユーザーも増加傾向にあったので、良いタイミングでのローンチだったのではないでしょうか。
Substackはライターの働き方を変えました。これまでプロのライターは媒体に記事を掲載することで収入を得ていましたが、Substackを使うことで、媒体に寄稿、もしくは所属するよりもはるかに大きな収入を得ているライターもいます。Substackはそのような成功事例を作れたため、注目プラットフォームになり得たのだと考えています。
今年に入ってからはジャーナリストのSeth Abramson氏が「PROOF」というニュースレターを開始し、すでに8500人以上の有料購読者を獲得しています。
──一方で、すでに海外ではSubstackというニュースレターのプラットフォームから離れるライターもいると聞いています。そのようなライターはどのようなプラットフォームに移行するのでしょうか。
例えば、非営利団体がやっている「Ghost」というニュースレタープラットフォームがあります。GhostではドメインやビジュアルをWordPressのように自由にカスタマイズすることが可能です。
Ghostは購読者数に応じて月額利用料を支払います。購読者数の上限は1万人、月額利用料の上限は199ドル(約2万3000円)となっています。一方、Substackは強力なプラットフォームですが、ライターは10パーセントの手数料を取られてしまいます。
そのため、購読者数が1万人弱規模のニュースレターを配信するライターはGhostに移行するケースもあります。Ghostのようなプラットフォームを選べばSubstackと比較して支出を抑えられるというメリットがあるからです。
──メールマガジンにないニュースレターの特徴は。日本には無料で読めるコンテンツが多い印象がありますが、日本人もニュースレターに課金しますか。
ニュースレターは月額制の“サービス業”だと考えており、課金しなければ読めないコンテンツは、あくまでもサービスのうちの1つの要素だと捉えています。
例えば、有料購読者になれば、限定のコミュニティに参加できたり、毎月開催されるミートアップに参加できる。ベンチャーキャピタル(VC)が配信するニュースレターを購読すれば、ファンドが集めているデータにアクセスできる。
このように別のサービスと併用して展開するのがニュースレターであり、ニュースレター自体はあくまでも顧客リストを集めるためのツールなのだと考えています。
海外のニュースレターは無料でも有料でもクオリティが非常に高い。今まで日本にはお金を払ってまで購読するようなコンテンツが少なかったのだと思います。ですが、この1年で「お金を払うべき質のコンテンツにはお金は払う」のだという感触を得られたため、theLetterを正式にローンチすることにしました。