
米国を中心に海外では近年、メディアに所属もしくは寄稿していたジャーナリストがニュースレターを配信することで独立するケースが増えてきている。
ニュースレターとは、メールで配信する月額制(無料の場合もある)のテキストコンテンツのこと。これまで一般的だったメールマガジンは単に1週間の更新情報をまとめたような内容のものが多かったが、ニュースレターでは新たな独自情報を届けるという点で異なる。
コンテンツはウェブ上にも配信でき、「有料読者限定」といった具合に公開範囲を指定することも可能だ。月額課金のシステムが整っているほか、読者のメールアドレスを管理できるため、ライターはプラットフォームに依存することなく自らを“メディア化”することが可能だ。
米国では2017年にローンチしたニュースレターサービス(もしくはプラットフォーム)「Substack」が人気で、年間数百万円以上を稼ぐライターを数多く輩出している。
米テックメディアThe Vergeの看板記者だったCasey Newton氏は2020年9月、FacebookやGoogleといったプラットフォーマーに特化したニュースレターの「Platformer」をローンチ。
10月には米スタートアップメディアのThe InformationやBloombergで活躍してきたEric Newcomer氏が、「Newcomer」というニュースレターを開始した。「Wall Street Jounrnalよりもはるか先に次の急成長スタートアップを知ろう」といったスローガンを掲げ、スタートアップやベンチャーキャピタル(VC)の関係者を中心に高い支持を受けている。
2021年に入ってからは国産の配信サービスが続々と登場している。6月にはメディア関連事業を展開するINCLUSIVEの子会社であるNewsletter Asiaが「WISS」を、9月にはスタートアップのSpectraが「Medy」をリリース。そして10月18日には同じくスタートアップのOutNowが「theLetter」を正式ローンチした。
日本におけるニュースレターの可能性やtheLetterを展開する理由について、OutNow代表取締役の濱本至氏に話を聞いた。
専門家から知見を直接得られるプラットフォームを目指す
OutNowは2018年8月設立のスタートアップだ。2020年7月にtheLetterのベータ版を公開し、ニュースレターを配信できるライターを数十名程度に絞り展開してきた。
もともと海外のニュースレターをよく読んでいたという濱本氏は、特にコロナ禍での新型コロナウイルス関連のフェイクニュースやセンセーショナルな切り取りをする報道を懸念し、専門性の高い情報を得られるニュースレタープラットフォームの重要性を痛感。theLetterの展開を開始したという。
「パンデミックの最中では誰もが『正しい情報が欲しい』と考えます。医療やワクチンに関する正しい情報も報道されている一方、レアケースが大々的に報じられているケースもあり、“煽り”を感じることもありました」
「自分自身は専門知識を持つ医者や研究者、現場で働く医療従事者、そうした方々から情報を得られるジャーナリストなどから直接情報を得ようとしていました。アルゴリズムによってレコメンドされる情報が並んだり、インフルエンサーが発信する情報が流れてきたりする場所とは異なる、専門知識を持つ方々から直接情報を得られるプラットフォームの必要性を感じ、theLetterを展開しています」(濱本氏)
前述のとおり現在は数十名ほどのライターがニュースレターを配信する、theLetter。裁判傍聴や美容・ファッション関連のニュースレターなどが配信されている。

正式ローンチしたことで誰もがtheLetterを使いニュースレターを配信することが可能となったが、どのようにコンテンツの品質を保っていくのだろうか。
濱本氏は「これからさまざまなコンテンツが生まれてくると思う」と語った上で、従来のタイムラインを見ているだけでコンテンツが飛び込んでくるSNSとの違いをこう説明する。
「読者が意識的に選んだコンテンツのみ届くことがニュースレターの特徴です。クローズドな側面を活かしながら、ライターを配信面で支援していければと思っています」(濱本氏)
強みはSubstackではできない「細かな配信設定」
Substackはライターから10パーセントの手数料を得るが、theLetterのビジネスモデルも同様だ。サービス内容もSubstackと同じく、メールならびにウェブ上でコンテンツを配信できるというもの。日本語化されていない今でもSubstackを利用する日本人ユーザーもいる中、theLetterを使う意味はどこにあるのか。濱本氏は「theLetterにはSubstackにはない機能もある」と説明する。
例えば、Substackの公開範囲設定は「誰もが閲覧可能」もしくは「有料購読者のみ」の二択だが、theLetterではより細かい設定が可能だ。「有料購読者」や「メールアドレスを登録した読者」に限定してコンテンツを配信したり、コンテンツ内の一部内容を特定のターゲットのみに絞って閲覧可能にすることができる。
また、theLetterでは「ウェブ上ではここまで、ニュースレターにはより多くの情報を掲載」といった設定が可能。また「ここまでは無料、それ以上は有料」といった具合に課金ポイントを細かく指定できる。
そして、ライターのノウハウ共有の場である「theLetter 書き手コミュニティ」から得られる知見は、Substackからは得られない大きなメリットだと濱本氏は言う。ライターはコンテンツ制作や集客、収益化に関するヒントをtheLetterや他のライターから得られるほか、他のライターとのコラボレーションのきっかけをつかめる。
濱本氏は今後について、ライターのコミュニティを拡大し、より多くの知見やノウハウを集めることで、「theLetterとして、書き手のコミュニティを育てる“リーダー的な存在”になれれば良いなと考えています」と話す。
ベータローンチから1年と3カ月。今では1000人以上の有料購読者を抱えるライターも出てきた状況だ。濱本氏いわく、「数百人から1000人ほどの読者が集まれば、平均的なビジネスパーソンの収入を超える規模の収入を得られるようになる」という。