Repro代表取締役社長の平田祐介氏 Photo by Yuhei IwamotoRepro代表取締役社長の平田祐介氏 Photo by Yuhei Iwamoto
  • 合計約30億円の調達で、海外を見据えた体制強化
  • 顧客はIT企業からレガシー企業へと拡大
  • 重要性を増す既存顧客の“囲い込み”
  • アジア圏での事業拡大、1年内めどにインド法人設立へ

アプリやウェブサイトの分析・マーケティングサービスを提供するスタートアップ・Reproが合計約30億円という大型の資金調達を実施した。世界66カ国、7300以上のサービスに導入されるツールを提供するRepro・平田社長は、「今後、新規顧客の獲得以上に、既存顧客の囲い込みが重要になる」と主張する。変化するマーケティングの環境や、資金の使途について聞いた。(ダイヤモンド編集部副編集長 岩本有平)

合計約30億円の調達で、海外を見据えた体制強化

 今後のマーケティングは、新規顧客の獲得以上に、既存顧客とのエンゲージメント(関係性)こそが重要になる――スマートフォンアプリの分析ツールから事業を開始したスタートアップ・Repro代表取締役の平田祐介氏はこう語る。同社は2月13日、YJキャピタル、SBIインベストメント、NTTドコモ・ベンチャーズ、KDDI、DGベンチャーズ、DG Daiwa Ventures、ジャフコを引受先とした第三者割当増資と、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、商工組合中央金庫からの借り入れを合わせて約30億円の資金調達を実施したことを明らかにした。同社の累計調達額は約35億円。調達した資金をもとに、開発体制やマーケティング施策を強化していく。

 Reproは2014年4月設立のスタートアップ企業だ。2015年にスマートフォンアプリのユーザー動向を分析するツール「Repro」を発表。2016年には、分析したデータを元に、最適なタイミングでプッシュ通知やメッセージ送信などを行うマーケティング機能の提供を開始した。2018年にはアプリだけではなく、ウェブサイト向けにも分析・マーケティング機能の提供を始めた。2019年にはシンガポールに初となる海外拠点を立ち上げ、東南アジアでの事業展開も進めている。これまで、世界66カ国、7300以上のサービスがReproを導入しており、月間5000万デバイスのデータが同社に集まっている。国内でも集英社のマンガアプリ「少年ジャンプ+」をはじめとして数多くのアプリ、サービスでの利用事例がある。

 Reproは未上場のため、業績を開示していないが、直近は右肩上がりでの成長を続けており、「直前の2期は黒字化し、すでに月に数千万円の黒字を出せる状態。ただし現在は(資金を調達して)リスクを取り、赤字で事業を拡大するフェーズに入った」(平田氏)と説明する。

顧客はIT企業からレガシー企業へと拡大

 自社の成長の理由について平田氏は「DX(デジタルトランスフォーメーション)」というキーワードで分析する。

「最初にReproを提供した際、クライアントとなった“アプリ提供者”は、自らアプリを開発している企業でした。ですが僕らは今、アプリだけでなくウェブサイトのデータまでを取得できるようになりました。アプリを作っている企業はITのリテラシーが高いので、ユーザーとのコミュニケーションをコード、デジタル化したいという思いを持っています。ですがウェブサイトの運営者は(アプリ開発企業だけではなく、メーカーなどの非IT企業を含むので)それよりもITリテラシーが低い企業も多い。

 そうなると、自前でDMPをやるんだと言ってデータを蓄積しても、プロジェクトが頓挫するケースも多い。ですがデータを顧客とのコミュニケーションに使い、ひいては売り上げの拡大に繋げたいとは考えてます。そういったときにReproを見つけて、利用して頂くというケースが増えています。競合の製品をリプレイスするようなニーズもありますが、(レガシー企業を中心に)まだまだマーケット自体が広がっていると思います」(平田氏)

 平田氏はReproが実現するのは(1)企業のデータ活用、(2)(ITリテラシーが決して高くない)企業のマーケターによる運用――の2点だと説明する。このため、製品の開発に加えて、プロフェッショナルサービス(導入、設計から運用までの支援サービス)の提供にも力を入れ、「導入しても現場が使えない」ということにならないよう努めているという。プロフェッショナルサービスは事業面での貢献度も高く、すでに売り上げの15%を占めるまでになっている。

重要性を増す既存顧客の“囲い込み”

 Reproは今回、資金調達の発表と合わせて、これまで「マーケティングプラットフォーム」とうたってきた自社製品・のブランディングを「カスタマーエンゲージメント(CE)プラットフォーム」に変更した。その背景にあるのは、冒頭にあるとおりだが、企業が新規の顧客の獲得以上に、既存顧客を囲い込むことが重要になるという同社の考えだ。

 平田氏は、サブスクリプション(定額課金)、OMO(Online Merges with Offline)、IoTという、IT業界を中心に広がる3つのビジネストレンドを挙げてその意図を説明する。

「サブスクリプションでは、いかに顧客が解約をせず利用し続けるかが大事になります。OMO、つまりネットでも実店舗でもモノが買える時代であれば、自分たちのところでモノを買ってもらうためのマインドシェアを取らないといけません。またこれまでの家電などは、故障したらメーカーにクレームの電話がかかってくるようなことがありましたが、IoT製品ならば故障の予兆を検知して、スマホに通知を送るようなこともできます」(平田氏)

 いずれも、顧客と継続的な関係を作れなければビジネスが成功しない時代。いかにチャーンレート(解約率)を下げ、ファンを作るかが重要になるというのだ。

「マーケティングをパーチェスマーケティング(新規獲得)とエンゲージメントマーケティング(既存客の囲い込み)で分けて考えれば、今はまだパーチェスマーケティングの市場が圧倒的に大きい状況です。ですが今後はエンゲージメントマーケティングの需要は大きくなっていくと考えています。国ごとに環境は違いますが、今年の(東京)オリンピック以降、一気に変化するのではないでしょうか。人口が減少すると新規顧客の獲得単価が高くなる。そうなれば、既存顧客の囲い込みにお金を充てるべきだ、となります。我々はそこで、広告以外のマーケティングの市場を取っていきたいと考えています。そのためのリブランディングです」

「デジタルによって、顧客の体験は拡大しています。例えばメルマガ。企業は顧客と仲良くしたいからこそメルマガを送るわけですが、それがたくさん来ると、企業にいい印象は持てなくなり、結果企業と顧客の距離が広がってしまう可能性もあります。それをうまく(適切なタイミング、手段で顧客に連絡)するために、大量のデータの分析が必要になります。90年代から言われている『One to Oneマーケティング』がテクノロジーで実現できるようになってきたんです。Reproはデータを使い、メールやLINE、メッセンジャーなどあらゆるチャネルを利用して、最適なメッセージを届けることで、顧客とのエンゲージメントを築いていきます」(平田氏)

アジア圏での事業拡大、1年内めどにインド法人設立へ

 Reproは今回の資金調達で、グローバル展開を見据えた開発体制の強化を進めるとしている。昨年シンガポール法人を設立し、東南アジアでの営業を開始したが、今後1年をめどにインドにも法人を設立する予定だ。

「東南アジアの市場はすでに競合が多い。米国系の企業、インド系の企業ともに参入している状況です。特に強いのはインド系の競合です。今後は早期にプロフェッショナルサービスも含めた展開を進めます。またインドについては、市場がまだ見えないが、BtoBのマーケットはかなり大きいと思っています。海外事業については、IPOが見えた段階で、売り上げが全体の10%程度になるまで育てられればいい」(平田氏)

 同社はマーケット環境次第としつつも、数年以内の上場を目標にしている。平田氏は創業からを振り返り、取材の最後にこう語った。

「もともとはM&Aを目標にしてはじめた会社なので10年会社をやるイメージもなかったんです。売り上げは伸びていたけれども、『勝負』をしていませんでした。だからIPOを目指すと決めたときにはポジティブですが、悩みはありました。ただ海外に行くほどに、数少ない成長産業であるITで外貨を獲得しないといけないと考えています。2020年以降、新しく生まれる世代のためにも。そして『あのReproでもやれたんだから』と挑戦する人が増えればいいと思っています」