W ventures代表パートナーの新 和博氏、東 明宏氏
左からW ventures代表パートナーの新 和博氏、東 明宏氏
  • 2号ファンドでも創業初期のBtoCスタートアップを支援
  • 「今だからこそエンタメやスポーツ領域に投資する意義がある」
  • 「海外進出も応援したい」日本のBtoCスタートアップの可能性

独立系ベンチャーキャピタル(VC)による新規ファンドの設立が、このところ盛んだ。8月31日にCoral Capitalが140億円規模の3号ファンド組成を発表。続く9月21日には、インキュベイトファンドが161億円規模のグロース・ファンド設立を公表している。

フォースタートアップスが運営する「STARTUP DB」がまとめた「2021年上半期国内スタートアップ投資動向レポート」によれば、今年上半期(1〜6月)に新規組成を公開したファンドは50弱に上る。組成金額ベースで目立つのは金融系VCや大学系VC、コーポレートVCだが、先述したように独立系VCの存在感も増している。

こうした中、創業早期のスタートアップを中心に、BtoC、BtoBtoC領域で投資を行ってきた独立系VCのW venturesは10月20日、総額50億円の2号ファンド設立を明らかにした。ファンドの主な出資者はミクシィで、運用期間は10年だ(最大2年の延長可能性あり)。

直近では、SBIインベストメントが1000億円規模のファンドを立ち上げているほか、百億円規模のファンドが立ち上がることも少なくない。W venturesの新ファンドは50億円程度の規模だが、大きな特徴がある。それはコンシューマ向けサービス、いわゆる「toC」のスタートアップに注力している点だ。

1号ファンドに引き続き、2号ファンドでもBtoC、BtoBtoC事業、ライフスタイルやエンターテインメント、スポーツ分野を対象にした投資を強化していくという、W ventures。代表パートナーの新和博氏、東明宏氏に、コンシューマー向け事業への投資の理由や意義、新たに立ち上げを予定するインキュベーションプログラムなどについて、話を聞いた。

2号ファンドでも創業初期のBtoCスタートアップを支援

W venturesはこれまでも、コンシューマー向け事業領域で、創業から間もないシード期やアーリーステージの企業に投資を行ってきた。2019年4月に組成した50億円の1号ファンドは、およそ2年半で合計56社への新規投資を実施している。投資先のうち、ハンドメイドマーケットプレースを営むクリーマが2020年11月に東証マザーズへ上場。また、スニーカーフリマアプリを運営するモノカブは2021年7月、競合「スニダン」を運営するSODAが買収し、サービスの統合とグローバル展開を目指している。

1号ファンド投資先の95%がBtoBtoCも含むコンシューマー向け事業者で、9割前後が直接の消費者向けに事業を展開するBtoC企業。2号ファンドでもこれまでの方針を踏襲して、コンシューマー向け、創業早期のスタートアップへ「より強力に投資していく」と東氏は言う。

「スタートアップの世界ではSaaS全盛といった感がありますが、我々としてはコンシューマー向けにサービスを届ける会社を応援したい。それも事業立ち上げから投資して一緒にがんばるというポリシーで、継続してやっていきたいと考えています」(東氏)

彼らがコンシューマー向け事業にこれほど注力する理由は何か。東氏は「端的にtoCサービスが好きだから」と説明する。

W venturesを設立した新氏と東氏はそれぞれ、ミクシィ、グリーの出身。東氏は「toCサービスには、非常に思い入れがある」という。さらに「ファンドが乱立している今、何かしらの強みを提供することが大切」と続ける。

「コンシューマー向け事業に、しかも早いタイミングからサポートするファンドは、なかなかない。これまでの我々のキャリアや思い入れを含めて総合的に考え、そこを支援していこうというのが我々の出発点です。僕らもまだまだこれからですが、1号ファンドで手応えやニーズを感じたので、引き続き(この領域で)がんばります」(東氏)

「ボラティリティ(不安定性)が高いコンシューマーサービスに、まだPMF(プロダクト・マーケット・フィット)しているかどうか、というタイミングで、リード投資家としてしっかり投資、支援するというところが、ほかのファンドと我々とのポジショニングの違いです。ここは2号ファンドでもしっかり打ち出していきたい点です」(新氏)

「今だからこそエンタメやスポーツ領域に投資する意義がある」

toCサービスの中でも、W venturesでは特に「ライフスタイル」「エンターテインメント」「スポーツ」を投資強化領域としてきた。2号ファンドも1号ファンドと同じく、この領域にフォーカスしている。

このうちエンターテインメント領域に関しては、とりわけ「ポテンシャルのある領域だが投資家がつきづらく、『立ち上げが難しい』と思うスタートアップは多い」と東氏は言う。

「(代表パートナーの)2人とも、エンターテインメント領域には関わってきたので、起業をためらうスタートアップに応えられるのではないかと考えています。また、国内で活躍するスタートアップだけでなく、海外に出て行くようなスタートアップも応援したい。エンターテインメントは従来、日本が強みを持つ分野で、グローバルで戦えるポテンシャルの高い会社も多い。これも我々が投資を強化する理由のひとつとなっています」(東氏)

スポーツ領域に注目する理由については、東氏は以下のように説明する。

「オリンピック、パラリンピックで多くの人がスポーツの良さに触れることになったと思いますが、まず、エンターテインメントの延長線上で、コンテンツとして素晴らしい。ところが、米国などと比べると、まだテクノロジーがそれほど入っていない領域でもあります。また、エンターテインメントもそうですが、スポーツもコロナ禍によって大きな変革を迫られている。そういう意味でもポテンシャルがあると考えます」(東氏)

また新氏は、「今だからこそエンターテインメントやスポーツといった領域に投資する意義がある」として次のように述べる。

「両分野ともコロナ禍で大きな打撃を受けている。今このタイミングで勢いのある、調子のよい企業にだけ投資をしようと思うと、スポーツやエンターテインメント以外の分野に目が行ってしまいがちです。しかしエンターテインメントもスポーツも人生観を変える、生きがいを与えるような価値がある。多様化する価値観にしっかり寄り添うという、我々のミッション『よろこびふやそう』にも通じるところがある。我々の価値として、そういう領域をしっかり応援していくと、対外的にもメッセージとして出していきたいのです」(新氏)

W venturesでは2号ファンド組成の発表と同時に、インキュベーションプログラム「SCRAMBLE」を開始することも明らかにしている。このプログラムがフォーカスするのも、デジタルエンターテインメントやスポーツの領域だ。対象となるのはクリエイター。デザイナーや動画制作者に加えてエンジニアなども含めた広義の「作り手」を支援する。12月上旬には2カ月のプログラムを開始する予定だ。

2号ファンドの1社あたりの出資額は、2000万円程度から最大2億円程度までを想定している。プレシードからシリーズAラウンドの企業へのリード投資をメインで考えているということだ。2号ファンドからはすでに2社へ投資を行っている。また、インキュベーションプログラムに採択された企業には、1社につき1000万円を出資する。

「海外進出も応援したい」日本のBtoCスタートアップの可能性

先述したとおり新氏と東氏は、SaaS企業に流れがちなスタートアップ投資をコンシューマー向けサービスにも振り向けたい考えだ。東氏は、スニダンによるモノカブの買収を“象徴的事例”として挙げている。

「モノカブを買収したスニダン(SODA)は海外からの投資額も大きく、こうした流れは日本のコンシューマー系スタートアップでも増えていくと思いますし、増えていって欲しいと思っています。『海外投資家による日本のスタートアップへの投資』というとSaaSのイメージが強いかもしれませんが、エンターテインメント領域でも、海外から出資したいという声がないわけではない。日本でしっかり事業を営む会社も素晴らしいですが、グローバル展開すればさらに事業は大きくなります。グローバル規模にビジネスをやる会社をつくることはレベルは高いですが、実現したら価値は高いので、しっかり応援したいと思います」(東氏)

また、フィンテックなどの領域では「日本のローカルビジネスに投資、買収したい」というアングルになりやすいが、エンターテインメントの領域では、アニメーションスタジオなど、むしろ日本から進出する企業が絶えなかったと東氏は指摘する。

日本のクリエイター勢は今でも優秀で、ポテンシャルがあるという東氏。「これまでも日本企業がいくつも海外へ出て行って、コンテンツをつくっています。歴史的にはできないことではない。新しいオンラインのプラットフォームで人気を集められるようなコンテンツをつくる会社や、コンテンツを生み出す仕組みのようなものは、まだまだチャンスがある」と語る。

一方で東氏は危惧も抱く。

「Netflixがアニメの製作拠点を東京につくるといった話もある。優秀なクリエイターが外資系の巨大資本に持って行かれてはピンチです。我々がというより、日本全体として危機意識を持たなければなりません。ここへ来ていよいよ、お金に国境はなくなっています。例えば韓国では国内市場が小さいため、アメリカなどの海外資本を引っ張ってこようとしている。こうした姿勢は学ぶべきです」(東氏)

東氏は、日本のBtoCスタートアップの可能性について、「メルカリやスマートニュースが米国でがんばっている様子を見ても、着実に(toC企業の)層は厚くなっています。スタートアップのレベルも上がっている」と語る。新氏も「米国や中国企業からお金を引っ張ってくる、あるいは買収されるだけではなく、日本企業としてグローバルに進出していけるような企業も増やしたい」と日本のBtoCスタートアップのポテンシャルに期待を寄せていた。