「SOELU」のスクリーンショット「SOELU」のサイトのスクリーンショット
  • 5時から24時まで開講、1日約130本のレッスンをオンラインで
  • ジム通いが難しいワーキングマザー、妊婦の利用が増加
  • 自宅レッスン継続のカギ、ライブによる「強制力」
  • アプリの自社開発や、保証制度で高い継続率をキープ
  • 20~40代、低価格フィットネスの覇権を狙う

高性能なデジタルデバイスとインターネットの普及によって、場所の制約を受けることなくさまざまなサービスを利用できるようになった。スタジオに通うのが当たり前だったヨガやフィットネスも例外ではない。オンラインでのライブレッスンを軸とした“通わないヨガスタジオ”を運営するSOELUは働く女性を中心にユーザーを増やし、累計の受講回数は10万回を突破している。その成長を支える仕組みについて聞いた。(ライター 大崎真澄)

5時から24時まで開講、1日約130本のレッスンをオンラインで

 ジムやスタジオに通わなければ、効果的な運動を継続することは難しい――。そんなイメージは過去のものになりつつある。

 自宅をヨガスタジオに変えるオンラインフィットネスサービス「SOELU(ソエル)」は、働きながら家事や育児をするワーキングマザーを中心に女性から支持を集め、1年間で有料会員数を4倍に増やした。

 特徴は参加ハードルの低さとプログラムの数だ。用意するのはスマホやPCなどインターネットに繋がったデバイスと運動用のウェア・タオルだけ。サイト上で自分が参加したいレッスンを予約しておき、開始5分前にサイトへアクセスすれば準備完了だ。

 SOELUではビデオ会議のような仕組みを通じて、画面越しにインストラクターから細かいレクチャーを受けられる。1レッスンには最大で15名が参加するが、他の参加者には自分の様子が表示されない。画面上にはあくまで自分とインストラクターの姿だけが映るので、マンツーマンレッスンに近い感覚だ。

 現在はヨガやピラティス、美脚トレーニングなどのプログラムを30~60分間のライブレッスン形式で提供している。250人以上のインストラクターが所属し、1日当たりのレッスン数は約130本。開講時間が長いのもウリの1つで、早朝5時から深夜24時まで受講できる。

「一般的なスタジオでは1日のレッスン数は10本ほどなので、SOELUでは13店舗分のプログラムを1つのオンラインプラットフォーム上で提供しているようなイメージです。たとえば21時からレッスンを受けたいと思った場合にも8~9種類の中から好きなものを選べます」(サービスを運営するSOELU代表取締役CEOの蒋詩豪氏)。

ジム通いが難しいワーキングマザー、妊婦の利用が増加

 料金は毎月30分のレッスンを2回受講できるスタータープランが月額1980円、レッスン5回までのベーシックプランが月額3980円(12カ月契約の場合の価格)、レッスン受け放題(1日2回まで)のプレミアムプランが月額6980円(同上)。ベーシックプランとプレミアムプランは、体験レッスンから24時間以内に入会すると月額1000円引きとなる。

 昨年11月から一部のレッスンを男女共用にしたものの、現時点ではユーザーのほとんどが女性だ。30~40代が多く、特に仕事と子育てを両立しているワーキングマザーが中心だという。

 自宅で手軽にレッスンを受講できることに加え、通常のスタジオが閉まっている早朝や深夜の空き時間を有効活用できる点が人気の理由だ。ワーキングマザーのように「時短需要が強い上に、時間的にもジムやスタジオに通うのが難しい」というユーザーから支持を集めているほか、同様の理由から妊婦向けのマタニティヨガの利用が増えている。

iOS向けアプリでの受講イメージ 提供:SOELUiOS向けアプリでの受講イメージ 提供:SOELU

自宅レッスン継続のカギ、ライブによる「強制力」

 オンライン上でヨガやトレーニングの方法を学べるサービスと考えれば、SOELU以外にも選択肢はある。すでに複数の競合サービスがあるだけでなく、YouTubeで検索すればヨガやピラティスの方法を解説した無料動画がいくつも見つかる。

 これに対して、SOELUがサービス開始当初からこだわってきたのは「ライブレッスン」、つまりリアルタイムでの指導だ。そこには「単に自宅で運動ができるだけではなく、ずっと継続できる体験を実現したい」という強い思いがある。

「自宅で運動を続けられる体験を追い求めて動画サービスやYouTubeを試してみたけれど、結局継続できずに諦めたという人はたくさんいます。自分たちはSOELUを提供する上でユーザーにアクティブに継続してもらえる仕組みを第一に考え、ひたすら科学してきた。その結果として、特に課題が大きかったワーキングマザーやマタニティーの人たちに価値を感じてもらえることができています」(蒋氏)

 自宅で運動を継続してもらうには、一定の「強制力」が必要だというのが蒋氏の考えだ。ライブレッスンは予め時間が決まっている上に、先生に見られるので緊張感もある。自由に時間を選べて、自分1人で進める録画配信に比べて強制力が大きい。

 一方で少人数のライブレッスンならではの難しさもある。録画配信とは違ってレッスンごとに参加人数の上限が決まっているため、サービスを拡大していく上では毎日複数のレッスンを安定して用意できる仕組みが不可欠だ。またユーザーがどんな場所からアクセスしても、最低限の画質や音声環境を担保できなければならない。

アプリの自社開発や、保証制度で高い継続率をキープ

 SOELUでは現在までに個人投資家やANRI、KVP、iSGSインベストメントワークスなどのベンチャーキャピタルから累計で5億円以上を調達しているが、その資金を基に基盤作りに力を入れてきた。250人以上のインストラクターとタッグを組みレッスンの数を拡充するとともに、キモとなるライブ配信システムも他社のビデオ通話ツールから内製に切り替えるなど、サービスの品質を追求してきた。

 その上で「より継続しやすくなるため」のユニークな工夫も取り入れている。赤ちゃんが泣いてしまってレッスンが続けられなくなったら再度チケットを保証してくれる制度や、出産前などに最大6カ月間休会できる仕組みは代表例だ。

 これらの仕組みがワーキングマザーやマタニティを中心としたユーザーを惹きつけ、延べレッスン受講数は10万回を突破。ユーザーの1年後継続率も90%を超える。

 新たな取り組みとしては、2月下旬をめどにライブビューイングのようなかたちで、人数制限なくレッスンを閲覧できる機能を搭載する。上限人数を超えて参加するユーザーはあくまでライブを視聴するだけで、個別のフィードバックはもらえないが「お気に入りの先生であればライブビューイング形式であっても参加したい」というユーザーも多いそうだ。

20~40代、低価格フィットネスの覇権を狙う

 一口にフィットネスサービスと言っても、ユーザー層や価格帯などに応じてその領域は細かく分かれるが、SOELUがまず狙っていくのは「20代~40代の女性向け×低価格」の領域だ。

 たとえば中高年の主婦向けフィットネスでは2000店舗を構え80万人以上の会員数を抱える米国発のカーブスが圧倒的な存在感を放ち、男性ビジネスマン向けには、無人ジムスタイルを取り入れたエニタイムフィットネスやジョイフィットなどが勢力を広げている。

 このような、価格破壊とユーザー体験の差別化によって新しいカテゴリーを作った事例を、20代~40代の女性の市場でいかに作っていけるかが当面の課題だ。SOELUではライブレッスンを軸とした“オンラインスタジオ”というアプローチで対象領域での覇権を狙う。

「今までは比較的高単価なホットヨガスタジオや女性向けのジムなどがよく利用されていましたが、なかなか5年10年と長期に渡って継続するものではありません。特に30代を超えてくると『ファッションとしてのフィットネス』から美容や体調維持といった『ビューティー・ヘルスケアのためのフィットネス』へと、フィットネス施設を使う女性の心理がシフトしていきます」

「(ビューティー・ヘルスケアのためのフィットネスにおいては)エンタメ性はそこまで高くなくても、手頃な価格帯で自宅にいながら利用でき、なおかつ継続できることが重要。既存のユーザーさんからもその点に価値を感じてもらえています。まずはこの市場をしっかりと取りにいくべくサービスをアップデートしていく予定です」(蒋氏)

 中長期的には現在提供するライブレッスンの仕組みを男性やシニア層にも広げていくほか、新しい切り口としてオンライン上での「パーソナルダイエット」や半無人のライブスタジオなどに取り組む計画もある。

 手頃な価格帯とユーザー体験の差別化によって、フィットネス領域に新しいインパクトを与える、SOELUの挑戦は始まったばかりだ。