
- SNS漫画は2011年以降に登場
- 1投稿あたりの報酬が「たったの3000円」だったPR漫画
- 年に1000万円以上を稼ぐSNS漫画家も輩出
- かつてはディズニー映画で“ステマ疑惑”の炎上も
- キャラクター制作のクオンと経営統合し「ウェブトゥーン」など展開へ
Twitterを中心に広がる「SNS漫画」。イラストレーターやアマチュア漫画家などが、ゆるく独特な絵のタッチ、自由な表現で発信する漫画の投稿は、商業誌とは異なる世界観を生みだしてSNSをにぎわせている。
イラストレーターで漫画家のきくちゆうき氏が2019年から2020年にかけてTwitterに投稿した「100日後に死ぬワニ」もSNS漫画の代表作の1つだ。この作品は最終話を投稿した直後に商業展開が開始されたため、“ビジネスのにおい”を感じた読者が反発して炎上したが、アニメーション映画も制作されるほどの話題作であったことは確かだ。
「100日後に死ぬワニ」 pic.twitter.com/RUblRfVWTs
— きくちゆうき (@yuukikikuchi) December 12, 2019
SNS漫画は多くの広告にも起用されている。最近では、菓子メーカーのカンロが、イラストレーターでSNS漫画家のナガノ氏をTwitterでのPRに起用して話題になった。ナガノ氏は『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ(ちいかわ)』などのIP(著作物)を生み出した人物。ナガノ氏はカンロのPR漫画に加えて、商品パッケージも手がけている。ちなみにこのコラボレーションは、ナガノ氏が以前、カンロの商品を題材としたSNS漫画を書いたことがきっかけで実現したそうだ。
金のミルクキャンディ pic.twitter.com/z6ToRDQaBe
— ナガノ (@ngntrtr) August 18, 2020
ナガノ氏などを筆頭に人気のSNS漫画家は数多く生まれている。そんなSNS漫画家のマネージメント事業を手がけるのがwwwaap(ワープ)だ。代表取締役の中川元太氏は「ファン獲得を狙う企業からの需要は高い」と話す。実際、PR漫画は数千回以上リツイートされることも珍しくない。
もちろん、SNS漫画が最初からビジネスとして成り立っていたわけではない。そうした中、wwwaapはSNS漫画の黎明期から漫画家と企業を結び、SNS漫画を“稼げる”ビジネスに育ててきた存在だ。
wwwaapはSNS漫画から生まれた“和製IP”を活用し、韓国発の縦スクロール漫画「ウェブトゥーン」や「NFT(Non Fungible Token:非代替性トークン)」といった領域でも展開をもくろむ。最近では海外展開も見据え、日本だけでなく中国やベトナム、タイなどアジアでもキャラクター事業を展開するスタートアップ・クオンとの経営統合を10月に発表したばかりだ。
SNS漫画は2011年以降に登場
SNS漫画がいつ頃登場したのかは定かではないが、2011年8月にTwitterで画像が投稿できるようになって以降、徐々に漫画を投稿するクリエーターが増えてきた。以下は2012年に投稿されたSNS漫画の一例だ。
沈んでて心配なフォロワーさんがいて、でも自分は事情もなにも知らないから遠目から心配してもだもだするしかできなくてどうにもならない時 pic.twitter.com/phU0CpSB
— ngtb (@ngtb_wrj) September 10, 2012
2013年ごろからは「オモコロ」などのウェブメディアで漫画を連載していた漫画家たちがSNSにも作品の投稿を開始。著名な漫画家による投稿に感化され、アマチュアを含む、より多くの漫画家たちによるSNS投稿が盛んになった。ちなみに中川氏いわく、Twitterに投稿された初のPR漫画はKDDIが漫画家・鴻池剛氏がに依頼した作品である可能性が高いという。
【au新サービスPR企画】
— 鴻池 剛 (@TsuyoshiWood) December 21, 2014
無事auからお仕事が来て、支給された携帯で新サービス「au VoLTE」についてPR漫画を描きました。
よろしくお願いします!http://t.co/7FkMBS6OEF pic.twitter.com/1VqEOPhcb0
1投稿あたりの報酬が「たったの3000円」だったPR漫画
wwwaapは2016年7月の設立だ。UUUMのようなインフルエンサー支援企業がYouTuberをマネジメントするように、wwwaapはSNSで活躍する漫画家をマネジメントし、SNS漫画を活用した広告事業とライセンス事業を展開する。
中川氏は新卒でネットマーケティング事業やメディアコンテンツ事業を手がけるセプテーニ・ホールディングスに入社。札幌で営業所長を経験したのちに、子会社のコミックスマートが運営する漫画アプリ「GANMA!(ガンマ)」の立ち上げに関わる。その後はフリーランスとして活動。その際に、多くのSNS漫画家がPR漫画で“稼げていない”現実に直面した。
「数十万人のフォロワーを抱えるSNS漫画家によるPR漫画は、数千人がリツイートしているのにも関わらず、1投稿あたりの報酬はたったの3000円でした。(低い金額の根拠は)新人漫画家による4コマ漫画への報酬の相場が3000円だったことに起因しています。そして多くの漫画家は、広告業界の状況や、例えばインスタグラマーがどれほど稼いでいるか(編集部注:インスタグラマーの報酬は一般的に、1つの広告案件につき1フォロワーあたり1円程度とも言われている)を知りませんでした」(中川氏)

広告業界ともつながりがあった中川氏。漫画広告のニーズを業界関係者らにヒアリングしたところ、「漫画を広告の選択肢として考えていなかった」、「誰に依頼すればいいのか分からなかった」などと言われたという。だが、彼らは同時に漫画とマーケティングの相性が良いこと自体は理解していた。かつて『進研ゼミ』などの通信教材に掲載されていたPR漫画を共通体験として持つ彼らは、幼少期から“漫画の力“に気付いていたからだという。
そこで中川氏は漫画業界と広告業界の仲介役を買って出た。つながりのあるクリエーターをリストアップし、広告代理店に持ち込んだところ、大手飲料メーカーの広告案件が確定した。4人のクリエーターがPR漫画を作成し、合計で4000回ほどリツイートされたという。
「クリエーターには1人あたり数十万円を支払うことができました。彼らはこれまで3000円で仕事を受けていたので、『こんなにもらって大丈夫ですか』と驚きながらも、嬉しそうでした。クライアントも効果を喜んでくれたので、『これは三方良しの事業だ』と感じ、wwwaapを設立しました」(中川氏)
年に1000万円以上を稼ぐSNS漫画家も輩出
wwwaapは現在、ぎゅうにゅう氏や佐木郁(さき・かおる)氏といった、20万人以上のフォロワーを抱えるSNS漫画家と契約。家族や“黒歴史”を作品の題材とするSNS漫画家で実業家のやしろあずき氏は執行役員を務めた。
すでにwwwaapからの報酬だけで年に1000万円以上を稼ぐクリエーターも現れた。またSNS漫画家の収益源は広告案件だけではない。キャラクターの人気が出れば、書籍やLINEスタンプ、グッズ、連載、イラストなど幅広い収入源を確保できる魅力がある。
かつてはディズニー映画で“ステマ疑惑”の炎上も
では広告主がSNS漫画を活用するメリットはどういった点なのか。中川氏は「SNSユーザーに“嫌がられない”ことにある」と話す。
「(SNS漫画に対して)『この商品は好きじゃない』という投稿は見られますが、ヘイト感の強いコメントは多くありません。ちゃんと面白く作られているからだと思います」
「漫画は静止画やイラストと比較して情報を詰め込みやすいため、宣伝をしつつも“面白さ”を提供できる。読み物としての満足度を作れるという点が魅力です」(中川氏)
【猿の惑星×サラリーマン山崎シゲル】part1
— サラリーマン山崎シゲル (@hikaru_illust) October 3, 2017
10/13(金)公開の「猿の惑星:聖戦記」とコラボしました!予告編もチェック!#猿の惑星 #PRhttps://t.co/N3Y3ZemCk3 pic.twitter.com/AVlGf4pbxg
とは言え、SNSのPR漫画がいくら“嫌がられない“といっても、炎上することもある。2019年にはwwwaapでも広告案件の仲介を引き受けていたSNS漫画家がディズニー作品『アナと雪の女王2』のPR漫画を投稿。その際、投稿に“PR”の表記がなされていなかったため「ステルスマーケティングだ」と炎上した。漫画家が謝罪し、ディズニーがコメントを出すに至る騒動になった。
中川氏はこの騒動へのwwwaapの関与について、「守秘義務がある」として明言しなかったが、SNS漫画が課題を抱えていたのは確かだ。
フォロワーが1万人以上のSNS漫画家を250人以上も抱える規模にまで成長したwwwaap。同社では毎月社内でコンテンツ分析会を実施しているほか、メディア対策専門の弁護士による勉強会をSNS漫画家や広告代理店向けに展開。PR漫画が健全に運用されるための環境づくりに努めていると説明する。
キャラクター制作のクオンと経営統合し「ウェブトゥーン」など展開へ
冒頭でも触れたとおり、wwwaapは2021年10月、スタートアップ・クオンとの経営統合を発表した。クオンは2011年の設立で、「うさぎゅーん」や「ベタックマ」といった、自社キャラクターを軸に事業を展開する。LINEだけでなく、Facebookのメッセンジャーや韓国のカカオトークといったプラットフォームにも自社キャラクターのスタンプを提供するなど、日本のスタートアップとしては珍しく、海外プラットフォームでの展開を実現している。

統合後の新会社の名称は「Minto(ミント)」。2022年1月にも設立する予定だ。クオン代表取締役の水野和寛氏が新会社の代表取締役に就任し、中川氏はwwwaap共同代表の高橋伸幸氏と共に取締役を務めることとなる。
Mintoではアジアでも事業を展開するクオンのネットワークを生かし、アニメや漫画といった和製IPの世界的な拡大を目指す。冒頭でも述べたが、彼らの視野にはウェブトゥーンの制作や、NFT領域でのビジネス展開がある。
「wwwaapでは『作りたい人の未来を作る』というミッションをもとに、クリエーターが生きていけるための世界の実現を目指してきました。その目標を達成するための1つの手段が広告でのマネタイズでした」
「今後は広告を海外でも展開することでより多くの収益を上げられると思っています。ウェブトゥーンもグローバルに展開するための手段です。また、クリエーターにテクノロジーという武器も与えたいとも考えています。そのため、NFTを活用したクリエーターのためのプラットフォームも作っていきます」(中川氏)
「ウェブ漫画の現在地」特集で紹介してきたスタートアップや出版社、そして本記事で紹介したMintoはいずれも『国産IPでの世界展開』を目指している。
『ONE PIECE』や『NARUTO -ナルト-』など、これまでも日本の漫画やアニメといったコンテンツは世界でも愛されてきた。だが最近では、ウェブトゥーンが原作の『梨泰院クラス』や、『イカゲーム』といった韓国産コンテンツがドラマ化されるなど、勢いづいている。
日本のプレーヤーたちも、今後国産IPで海外に挑む上では、新たなアプローチへの挑戦が重要だ。ウェブトゥーンやSNS漫画など、漫画の表現の幅は広がってきた。今後、世界的なヒットを記録する日本作品は、どのようなフォーマットで展開されていくのだろうか。