NINTENDO 64のゲームも楽しめる「Nintendo Switch Online + 追加パック」 公式サイトのスクリーンショット
NINTENDO 64のゲームも楽しめる「Nintendo Switch Online + 追加パック」 公式サイトのスクリーンショット
  • 任天堂・ソニーが両社ともにサブスクサービスに注力
  • 「Nintendo Switch Online」は安いが、「+追加パック」は高い
  • 両社のサブスク料金がほぼ同じになったのは偶然ではない
  • 世界で3389万本売れた「あつまれ どうぶつの森」の有料ダウンロードコンテンツ
  • ユーザー層の入れ替わりと共に変わりつつあるレトロゲームの価値観
  • サービス紹介の順番に感じた違和感

任天堂の新たなサブスクリプションサービス(定額制サービス、以下サブスク)「Nintendo Switch Online(ニンテンドースイッチオンライン)+追加パック」が10月26日にスタートした。一部のゲームで不具合があり、SNSではユーザーから批判の声も上がっている。だが、任天堂がサブスクサービスを本格化させたという意味では大きな第一歩となっている。

任天堂・ソニーが両社ともにサブスクサービスに注力

任天堂はこれまで、ニンテンドースイッチ用のサブスク「Nintendo Switch Online(NSO)」を提供してきた。これはソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)がPlayStation 4/5向けに提供している、PlayStation Plus(PS Plus)と同種のサービスで、オンラインマルチプレイや一部の無償ソフトの提供などを含むものだ。

前回の記事でも少し触れたが、ハードウェアメーカーにとってサブスクによる収入はパッケージ版ソフトを制作・販売するよりも利益率が高く、加入者を伸ばすことがゲームメーカーの収益性を高めるポイントの1つになっている。

任天堂では、ニンテンドー3DSまでのハードウェアにおいてはネット経由の協力/対戦サーバ利用料を無料にしており、Nintendo Switchの発売から半年間についてもこのサブスクを無償で提供していた。サブスクでの課金を本格化したのは2018年9月から。有料化をした当初、ユーザーからは非難の声も目立っていたが、ネガティブな意見はすぐに沈静化した。

PS Plusはオンライン協力/対戦ゲームをプレイするための通信サーバ利用料であると同時に、加入者特典として毎月2タイトル(+PlayStation 5専用ソフト1タイトル)のプレイ権が与えられる。プレイ権を得たタイトルは、PS Plus加入中はDL版ソフトが起動可能になる。こうすることで、継続利用を促している。そのほか、セーブデータのサーバ保存などのサービスもある。

一方、NSOは通信サーバ利用料以外のサービスとしては、セーブデータのサーバ保存のほか、ファミコンやスーパーファミコンのソフトが遊び放題になっており、対応タイトルも毎月増加中だ。

PS Plusの価格は30日で850円、90日で2150円、365日で5143円。一方でNSOの価格は30日で306円、90日で805円、365日で2400円となっている。サービスを金額だけで比較すると、365日プランでは2.14倍。30日プランでは2.77倍もの金額差がある。Nintendo Switchの方がユーザー層の平均年齢が若いであろうことは明確なので、この価格差は納得のいくところだ。

ところが、である。任天堂が新たに開始したサブスクは、この「NSO」のサービスを拡充する、追加料金プランだったのだ。

「Nintendo Switch Online」は安いが、「+追加パック」は高い

Nintendo Switchのソフトは『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』や『スプラトゥーン2』『マリオカート8 デラックス』『ポケットモンスター ソード・シールド』など、友人と協力または対戦プレイをしたくなるゲームも多い。ただし、Nintendo Switchは携帯モードにして持ち寄ることでBluetoothを利用した通信プレイができるため、NSOに未加入であっても対面であれば通信プレイは可能だ。

NSOは月額306円。インターネットを介したプレイが必要になるのは昼間に仕事をしているような大人が多く、そうなると1カ月306円程度の出費は気にならない程度のものだ。日割り計算だと10円ほどだし、年払いであれば月額200円。1日当たり6.5円とPlayStation Plusに比べて安価なこともあり、利用金額に文句を言うユーザーは前述のとおり皆無と言っていい(クレジットカードを登録したくないという客層は確実にいるが)。

ところが、今回「+追加パック」の発表をするや否や、料金が高すぎると非難する声が噴出した。例えば世界最大規模の任天堂ファンサイト「Nintendo Life」が実施したユーザーアンケートでは、「少し高すぎる」「ぼったくり(rip-off)」と否定的な回答をしたユーザーが合計8割を超えた。

両社のサブスク料金がほぼ同じになったのは偶然ではない

「+追加パック」の内訳はこうだ。従来のNSOに拡充されるサービスはNINTENDO 64のソフト(10月26日時点では8タイトル。後日配信予定タイトルは9タイトル)とセガ メガドライブのソフト(発表時点では14タイトル)が遊び放題になるというもの。また、11月5日発売の『あつまれ どうぶつの森』向けの有料ダウンロードコンテンツ「ハッピーホームパラダイス」(2500円)を購入しなくても、遊べるようになる。

さきほど掲載したPS PlusとNSOとの料金比較表に、「+追加パック」の金額も加えた表にしてみよう。

なんとNSO+追加パックの料金は、PS Plusとほぼ同額。これは、偶然の一致ではないというのが筆者の考えだ。

世界で3389万本売れた「あつまれ どうぶつの森」の有料ダウンロードコンテンツ

サブスクリプションサービスを設定する時、悩ましいのが料金設定だ。高すぎると利用者数が減ってしまうし、安すぎると利益が下がる。「できるだけ高い金額設定にしたい」と考えるのはビジネスとして当然だ。

そんな時、参考になったのがPS Plusの価格設定だったに違いない。任天堂はライバルのサービスをみて、「社会人であれば年額5000円程度であれば支払える」という確信を得たのだろう。

そして同時に、現状年額2400円で利用できるNSOに対して、「これまでに加えて、NINTENDO 64とメガドライブのタイトルも遊び放題になります」と宣伝しても、ユーザーがすんなり受け入れる価格設定は従来の料金設定のままか、せいぜい年額2400円が2980円になる程度が許容範囲という感覚なはずだ。しかし、任天堂としては料金設定を5000円近くにまで値上げしたい。その時に利用したのが、大ヒットソフト『あつまれ どうぶつの森』だったのだろう。

任天堂の決算発表によると、『あつまれ どうぶつの森』の販売本数は、日本国内だけで950万本(DL版の販売分を含む)。世界合計では3389万本。これだけのメガヒットとなったゲームタイトルの有料ダウンロードコンテンツとなれば、世界で1000万本以上の売上が期待できる。この有料ダウンロードコンテンツは単品2500円でも販売されることも決まっているが、この人気を追加パックの加入者増加のために利用したに違いない。「単品で有料DLC(ダウンロードコンテンツ)を買っても2500円。NSOに追加パックを足しても(最高)で2500円/年」という、この絶妙な価格設定である。

ユーザー層の入れ替わりと共に変わりつつあるレトロゲームの価値観

任天堂のWiiが発売された当時、過去のゲーム機用に作られたゲーム(レトロゲーム)を遊べる「バーチャルコンソール」と呼ばれるエミュレーターソフトがあった。ユーザーはファミコンやスーパーファミコン、NEO・GEO、MSXなどのレトロゲームを1本数百円というリーズナブルな価格で購入し、WiiやWii U、ニンテンドー3DS上で遊ぶことができた。2007年10月10日に開催された「任天堂カンファレス2007.秋」において、バーチャルコンソールの総ダウンロード数(全世界合計)が780万本に達したという発表をしていることから、当時は商売として成功を収めていたことは確かだ。

これと同様のサービスは、PlayStation陣営でも存在した。「ゲームアーカイブス」と呼ばれ、PlayStation 3やPSP、PlayStation VitaでPlayStation 2やPCエンジンのゲームを遊べるようになるというものだ。

しかし、レトロゲームを喜ぶ客層は、「かつて遊んでいたゲーム」「昔に遊びたかったゲーム」を求める大人ゲーマーが中心だ。筆者の仮説では、1980年代後半が人気のピークだったファミコンの場合、当時小学生以上の年齢、つまり最低でもその6年前には生まれていたと仮定すると、1980年生まれ=現在では41歳以上という計算だ。新たに追加されたNINTENDO 64の場合は2000年ごろがピークなので、1995年生まれ=25歳以上でなければ懐かしく感じられない。

そうなるとレトロゲームを好む大人ゲーマーが急増する要素は乏しく、売上は年々低下していくだろう。苦労して権利関係をクリアにし、商品に追加した新タイトルが思ったほど売れないというリスクもある。ならば、サービス提供側としては「サブスクリプションで、これだけのゲームが遊べます」という料金設定のほうが、各タイトルの売上本数予測を立てる必要もなくなるうえ、中長期的に見れば単品販売より大きな売上となる可能性が高い。

かつて「懐かしのゲームタイトルが最新機種でも遊べる」としてユーザーを集めていたレトロゲームビジネスだが、若いユーザーが増え、「過去の名作ゲームが『たくさん』遊べる」という、タイトル依存の低いサービスに姿を変えつつあるというわけだ。

サービス紹介の順番に感じた違和感

任天堂のウェブサイトで「追加パック」について説明しているページを閲覧していると、違和感がある場所があった。それは「追加パック」に含まれる3つのサービスの「並び順」だ。

NINTENDO 64のゲームとメガドライブのレトロゲームを順番に紹介するかと思いきや、その間に『あつまれ どうぶつの森』の有料DLCを紹介しているのである。

筆者が気になった「追加パック」の並び順
筆者が気になった「追加パック」の並び順

これはNSOのトップページでも同じ順番(こちらは縦並び)になっているので、並び順は意図的なものであることがわかる。

「任天堂のサービスを先に紹介したい」のであれば、この並びは『あつまれ どうぶつの森』、NINTENDO 64、メガドライブとしても問題ないはずだ。にも関わらずNINTENDO 64、『あつまれ どうぶつの森』、メガドライブという並びにしたのは、追加パックによってバラエティ豊かなサービスが追加されるイメージを演出したかったのか、はたまた「サービス内容が異なる2種を混在させた新サービス『追加パック』のバリューに、提供側も不安を感じているのではないか」と感じるところもあった。

この並びについては憶測に過ぎないが、圧倒的な販売本数を誇る『あつまれ どうぶつの森』の有料DLCは単体発売も追加パックも合計すれば、有料DLCの利用数は合計で1000万人を超えるだろう。そう考えると任天堂はトータルでの利益は保ちつつ、開発していたNINTENDO 64とメガドライブのバーチャルコンソールも収益化を達成。さらには、金銭的に余裕があるユーザーに対してはサブスクリプションサービスの収入額を2倍以上に伸ばすという、普通に考えていては達成できないビジネス目標をクリアしてしまうだろう。

『あつまれ どうぶつの森』という、超メガヒットタイトルあればこその大胆な戦略には、感嘆せざるを得ない。