
- クラウドファンディングで支援を得るための方法
- 病気をきっかけに「支援」することの意味を考えた
- 「READYFOR」の応援は寄付と投資の中間ライン
クラウドファンディングサービス「READYFOR(レディフォー)」を展開するREADYFOR 代表取締役CEOの米良はるか氏との対談後編です。米良氏がクラウドファンディングサービスを社会から理解してもらうための取り組みを通じて、企業がミレニアル世代にコミュニケーションをとる際のポイントを考えます。(編集注:本記事は2019年8月5日にAgenda noteで掲載された記事の転載です。登場人物の肩書きや紹介するサービスの情報は当時の内容となります)>>前編はこちら
クラウドファンディングで支援を得るための方法
徳力 クラウドファンディングは、インターネット上のプラットフォームを介して出資を募るという仕組みです。それが成功するためには、プロジェクト実行者がソーシャルメディアで積み上げてきた信頼や評価も大事になると思います。
少し意地悪な質問ですが、古い価値観の人がそうした仕組みを理解せずに、クラウドファンディングを単純に大勢の人から資金を集めることができるサービスだと理解していた場合、どのように「READYFOR」を説明しているのですか。
米良 いろいろな角度から説明しています。例えば、まだ誰も支援していないプロジェクトに1人目として支援するハードルは高く、1001人目での支援はしやすいです。なぜかというと、支援の数からプロジェクトに支援される価値があり、その人も信頼できる人だということが見えてくるからです。そこで、10人目くらいまでは自分の周囲の人から支援者を集めてはどうでしょう、と提案しています。
徳力 「READYFOR」の場合、例えば、地方在住で普段からソーシャルメディアに接していないユーザーもいますよね。そうした方にも、その説明で理解してもらえますか。
米良 なかには理解していただけない人もいます。
徳力 個人的には、そこに企業のマーケティングにとってのヒントがあると思っているんです。従来のマーケティングは、企業が広告を通して、言わばスピーカー的に一方的に情報を発信して、それを受けとった消費者の一部に商品・サービスを購入してもらおうという流れが中心だったと思います。企業側が強いですよね。
しかし、クラウドファンディングは、どちらかと言うと、プロジェクト実行者側がその想いと共に「助けてください」と訴えて、支援者側から手を差し伸べてもらうコミュニケーションになると思います。そこに意識の違いがあって、大企業が従来の価値観のままクラウドファンディングを利用しても上手くいかないように思います。

米良 そこは応援という文脈が強いことを説明して、「こんな課題があって、その問題解決を一緒にしよう」というコミュニケーションを推奨しています。そうすると、支援した人から「こんなプロジェクトを始めてくれて、本当にありがとう」といったコメントが寄せられるんです。
例えば、コニカミノルタさんは、女性の月経(生理)がはじまる前の数日間(3~10日)から起こる心身の不調を起こす症状「月経前症候群(Premenstrual Syndrome)」の改善に向けたセルフモニタリングツールのクラウドファンディングを実施して、プロジェクトを成立させています。

一方で、「こんなイノベーティブな商品が生まれました!」とユーザーの期待を煽るようなコミュニケーションは、あまり勧めていません。というのも、期待値を下手に上げてしまうと、それを上回るものを提供することが難しく、持続的な支援にならないからです。
徳力 従来、大企業は、「うちの会社の高い技術力から生まれた完ぺきな商品を買ってください」というコミュニケーションに慣れていますよね。そこからすると、ある意味、クラウドファンディングは、弱みをさらしているように見えて、広報部門に怒られてしまいそうです。戸惑う担当者の方も多いのではないでしょうか。
米良 大企業でも新規事業や先進的な取り組みをされている柔軟な方がフロントに立たれる場合が多いので、そこまで戸惑いはないかもしれません。
徳力 そういう人でないと、そもそもプロジェクトをしないということですね。
米良 どちらかと言うと弱みというよりも、企業や商品が目指している世界を発信して、そこに共感してくれる人を味方につけて製品をつくっていくという発想です。
徳力 そこが、すごく面白いですよね。先日、マーケティングカンファレンスの「マーケティングアジェンダ」で元P&Gのジム・ステンゲルさんがブランドパーパスの大事さを講演していました。
ブランドパーパスは、ブランドの存在意義。まさに米良さんが言うように、ブランドとして目指している姿を発信していくことが重要なんですよね。
米良 そうです。まさに大事なのは、パーパスです。企業は、パーパスがあるからチャレンジしているわけです。その結果、参加した人がその企業に愛着を持つようになります。
徳力 どんな製品でも理想を目指して常に変化していくものなのだから、むしろ100%完璧な状態ではないのが当たり前ですよね。それなのに、企業はこれまで「現在の製品が完璧だから、いまこの瞬間に買ってください」と言っていた印象があります。
病気をきっかけに「支援」することの意味を考えた
米良 少し違う話になるかもしれないのですが、現代は「家族」や「会社」といったこれまで絶対的な存在だったコミュニティがなくなっているように思います。特に終身雇用がなくなって突然、あなたのコミュニティは、あなたが決めるもの、という状況になっています。
そのなかで、私たちの世代は「自分が貢献できるところは、どこだろう」と探し求めていますし、上の世代も同じように思い始めています。だからこそ、応援を必要としている人に対するコミュニティも成立しやすくなっています。
徳力 面白い視点ですね。Facebookのようなソーシャルメディアの普及が新しいコミュニティをつくっているのと並行して、日本の場合は、終身雇用の崩壊も作用して、人が新しいコミュニティを求めるようになっている面もあるわけですね。
米良 それは、あると思います。終身雇用の崩壊は、ひとつの事象に過ぎないのですが、インパクトは大きいと思います。これまでは、会社に一度入社すれば、65歳まで面倒をみると言われていたのに、急に自分でキャリアを拓いてください、となったわけですから。
誰もが悩んでいる時代にパーパスを持った人が現れると、自分が協力したら、その人だけでなく自分の道も見えるかもしれないと思う、そんな社会ではないかと思います。
徳力 昔から、そう考えていたのですか。

米良 いえ、私が2年前、30歳のときに癌になって半年ほど会社を休んだときに考えたことです。
徳力 思いがけず時間ができてしまったことで、そういうことをじっくり考えられる時間ができたということでしょうか。
米良 はい。人はクラウドファンディングに何を求めているのだろう、と改めて考えてみると、誰かを応援することで、自分も必要とされているという承認が得られることに意味があるんだと気付きました。
「READYFOR」の応援は寄付と投資の中間ライン
徳力 そうした価値観が分からない人に、こういう世界観を理解してもらうためには、どうすればいいのでしょうか。これはある意味パラレルワールドの構造になっていて、従来の方法でそれなりに上手くいっている人は、その状態に課題があると感じられないですよね。
本当はソーシャルメディアやクラウドファンディングといったネットワークを使えば、もっとプロジェクトがうまく進む可能性があるにもかかわらず。
米良 うーん、何でしょう。回答になっているかは分かりませんが、私たちはチャレンジする人が増えてほしいと思う一方で、パーパスがある人は、そんなに多くいないということも分かっています。
そこで、応援する側の人がもっと増えて、応援するという行為が浸透していけばいいなと思っているんです。日本は寄付が少ないと言われますが、おそらくクラウドファンディングで起きていることは、今まで私たちが寄付だと定義してきたことと少し違うはずです。私は「READYFOR」での応援は、寄付と投資の中間ラインにあるものだと捉えています。
徳力 お金を出す側も救われる面があるということですか。
米良 その通りです。基本的に、すべてのお金の流れには対価性が設定されているはずで、支援した人が得られる、貢献したという感覚やコミュニティに参加しているという感覚が大事だと思います。
徳力 それは、企業にとっていいヒントになりそうです。
米良 今後、企業はスペックや価格での勝負ではなく、付加価値で利益を上げていくモデルを目指すとすると、商品を購入したという体験以上の価値をお客さまに感じてもらう必要があります。そこに、クラウドファンディングが役立つと思っています。
徳力 そうですね。企業に役立つ視点をたくさんもらえました。米良さん、ありがとうございました。