年次カンファレンス「Connect 2021」で明かされた、Facebookが目指す「メタバース」の未来像
年次カンファレンス「Connect 2021」で明かされた、Facebookが目指す「メタバース」の未来像
  • Facebookの上位概念としてのMeta
  • 実は手堅い内容のMetaの定義するメタバース
  • どこまでが「実現可能」なのかわかりにくい未来映像
  • メタバースで数百万人の新しい雇用を生み出す

10月29日、Facebookが年次カンファレンス「Connect 2021」をオンラインで開催した。これまでのConnectの基調講演では、VRやAR技術を中心に今後の製品展開の予定などが語られてきたが、今年はその構成が大きく違っていた。

マーク・ザッカーバーグCEOがFacebookが目指す「メタバース」の未来像を80分近くも語るという内容だったからだ。一方で事前に噂されており、期待を集めていた新VRデバイスの発表もなかった。基調講演ではVRデバイス「Oculus Quest 2」で近く実現される技術内容を盛り込みながら、将来的に実現される未来の技術について長い時間を割き、映像でイメージを解説する構成になっていた。

Facebookの上位概念としてのMeta

ザッカーバーグ氏は講演の最後のパートで、メタバースの未来像について語る意図を明らかにした。社名を「Facebook」から「Meta」へと変え、全面的にメタバース企業を目指すと発表。社名変更のパートだけで、11分以上もの時間を費やし、社名変更の意図を説明した。

「私たちの会社は『Facebook』という単一のプロダクトに縛られ、当社が現在手がけていること、未来に手がけようとしていること、その全てを包括するのが難しくなってきました。私は今後メタバース企業としてのイメージを確立したいと思っています」

「今後、当社の事業は大きく分けて2本の柱で構成されることになります。一連のアプリと未来を見据えたプラットフォームの2本柱です。この変革の一環として当社の新しい事業内容を包括し、私たちが何者で何を目指しているのか的確に反映する新たな企業ブランドを採用するべきときが来ました」(ザッカーバーグ氏)

マーク・ザッカーバーグCEO
マーク・ザッカーバーグCEO

メタバースの接頭語として、あまりにもよく知られている「メタ」を社名に選んだことに相当な大胆さと、並々ならない気合が感じられた。

Facebookというサービス名称は残り続けるものの、その上位概念がMetaとなる。これまでVRデバイスのブランド名だったOculusは、来年にはMetaに置き換わる。Oculus Quest 2という製品名が来年には「Meta Quest 2」といった名称に変更されることも合わせて発表された。

実は手堅い内容のMetaの定義するメタバース

ザッカーバーグ氏がこだわるメタバースとは何か。今年、メタバースという単語はIT業界を中心にバズワード化しており、参入を表明する企業も次々に現れている。ただ、各社によってメタバースの定義が異なるという状況で、業界内で共通する定義は存在していない。

あえて広い意味での定義を考えるならば、2Dが中心だった既存のSNSから、3Dを中心とした次世代のSNSという程度の意味だろう。多様に広がった定義の中で、どこのサービスが生き残るのかというのは、まだ明確ではない。

ザッカーバーグ氏が定義するメタバースもまた普遍的な回答ではない。あくまで、Metaの考えるメタバースだ。講演の中では、8つの基本的な概念として定義していた。

Metaの定義するメタバースの基本的な概念

  • 実在感
  • アバター
  • ホームスペース
  • テレポート
  • 相互運用性
  • プライバシーと安全性
  • バーチャルグッズ
  • 自然なインターフェース

実はこれまでのOculusが行ってきた技術的な拡張から考えると、かなり手堅い内容でもある。例えば、「実在感」はVRやARの技術革新の重要な要素として、ザッカーバーグ氏が繰り返し強調している。

「アバター」は、VR内でのミーティングスペースである「Horizon Workrooms」に自分の分身を登場させるコア機能としてリリース済みだ。これが将来的には更に写真から撮ったような精巧なアバターを表示したり、ゲームに出てくるようなキャラクターを表示させてカードゲームやコンサートに参加したりという未来像を見せていた。

「テレポート」は任意のVR世界にブラウザ上のリンクをたどっていくぐらい気軽に別の世界に切り替えられる機能のことを指す。「相互運用性」はアプリケーションを超えて共通するアバターやアイテムといったものを利用することを可能にするプロトコルなどの必要性のことだ。すでに、Oculusはアバターについては、どのゲームでも使用できるような開発環境をゲームメーカーに提供し始めている。

「プライバシーと安全性」はMetaがFacebookとして批判を受けてきた課題をメタバースでは、サービス展開に合わせて、きちんと確保するという宣言だ。

「バーチャルグッズ」はメタバース内でのデジタルなコマースを実現すること。現在でもアバター課金などが実現されているゲームも登場しているが、将来的にはNFTといったものを絡めて、唯一無二の商品を流通させる考えがあるようだ。

「自然なインターフェース」は最終的にはコントローラーなどなしに手の動きやジェスチャーだけで、デバイスをつけていることを忘れているかのような感覚で操作ができるというものだ。

専用のコントローラーを使わずとも、センサーで手の動きを感知し、操作できるようにする──Oculusはここ数年でその開発に力を入れており、すでに「ハンドジェスチャー」という機能として追加されつつある。

Metaが定義したメタバースの中になかったものをあえて上げると、例えば大規模オンラインゲームのような広大なVR世界を提供するといったものは含まれていない。MetaはユーザーがVR世界を構築し、自由に集まって遊べる「Horizon Worlds」を発表しているが、正式リリースは遅延し続けている。まだまだ開発に苦戦しているようで、サービス全体の中核となるには時間がかかりそうだ。

そもそも、Quest 2の性能の限界もあり、表現できる領域には限界がある。本当に自由な創造性が発揮できるようになるためには、将来的なハードの世代交代が必須ではあるだろう。

どこまでが「実現可能」なのかわかりにくい未来映像

これらの多くのものは、開発中の技術も含め過去に発表してきている技術の延長線上にあるものだった。今回の講演は、それぞれの機能を未来の物語仕立てにして紹介していたため、メッセージはわかりやすかったものの、現在の技術で可能なことと、未来でなければ実現できないこととが混在して紹介されているためわかりにくい部分もあった。

ほとんどの映像で、登場人物は、メタバースにアクセスしているが、VRデバイスやARグラスといったハードウェアをつけずに素顔のまま登場する。

「デバイスを最終的に付けていることを気にすることもなくなり、ホログラフになる」とザッカーバーグ氏は述べた。Metaはデバイスをつけている事自体を意識しない環境が最終目標になっているとはいえ、現実には実現がかなり難しい印象を受けた。そのため、どこまでが本当に実現可能とみているのかが正直わかりにくかった。

もちろん、提示したビジョンを達成するためには、まだまだ技術的に不確かな部分が数多くあることはザッカーバーグ氏も述べてはいた。とはいえ、解決策のない未来像の提示に違和感があったのは事実だ。

メタバースで数百万人の新しい雇用を生み出す

一方で、興味深かったのが、メタバースを生み出すことで雇用を作り出すということを強調していた点だ。

「私たちの希望はみなさんと取り組むことで、今後10年以内にメタバース人口が10億人に達し、そのデジタルコマースが数千億ドル規模となり、数百万人のクリエイターや開発者の雇用を支えることです」(ザッカーバーグ氏)

VRやARの使用者を10億人にまで到達させるというのはザッカーバーグ氏が長期ビジョンとして、すでに過去に何度か述べていたことだったが、「メタバース人口」という形で再定義された。そして、その実現のためにオープンなプラットフォームを開発し、クリエイターや開発者の参加と協力を呼びかけた。

そのため、特定の製品であるFacebookでは収まりがつかなくなってきたブランドをメタバース中心へと変更するための「Meta」への名称変更であるという説明になっていた。

基調講演を通して聞いた感想は、ザッカーバーグ氏の講演は、もはや単なる巨大IT企業のCEOという枠を超え、政治家の所信表明演説のように感じられた。いち企業の発信情報としては、なかなか聞けないメッセージのように感じられた。

今後、重要になってくるのはMetaのプラットフォームにどれだけの企業が参加するのか。そして、多数のユーザーが魅力を感じて利用し始め、本当に経済圏が生まれるかどうかだろう。

Quest 2に向けた技術開発によってVR分野では他社に比べて大幅な優位性を築いているものの、他の巨大IT企業との競争が激しくなっていることは間違いない。

ただ、巨大IT企業だったFaceBookが社名をMetaに変えてまで、メタバースに突き進むという姿勢は、次の世代のコミュニケーションツールを誰が生み出すかという競争に大きな影響をもたらすことだろう。

そして、リアルとバーチャルの区別などもはや意味がなく、むしろ、リアルとバーチャルの経済圏が区別できないほどの混合が始まる段階に入りつつあることをMetaの発表からは意識させられた。数年後振り返ったときに、1つの時代の分水嶺となった講演として位置づけられることは間違いないだろう。