
- VCが“ブラックボックス化”して見えるのは「まだないもの」に対して投資するから
- 独立系VCなどで課される「1%コミット」とは
- GPはスタートアップ同様に、金銭的なコミットとリスクも取る
スタートアップのエコシステムを語るうえで欠かせないのが、ベンチャーキャピタル(VC)の存在だ。最近ではスタートアップのビジネスモデルや資金調達手段は少しずつ広がりつつあるが、今も未上場のスタートアップに対して多くの資金を提供しているのがVCだ。業界団体である日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)に所属するVCだけでも、国内で257社(2020年末時点)がスタートアップへの投資を行っている。
しかし、スタートアップの存在こそ日本でも理解が進みつつあるものの、日本のVCの実態について“中の人”が語ることはまだまだ少なく、いまだベールに包まれたところも多い印象がある。TwitterをはじめとしたSNS上でもさまざまな疑問や憶測が飛び交うことも少なくない。
そんな疑問にSNS上で答え続けているベンチャーキャピタリストの1人が、独立系VCであるグロービス・キャピタル・パートナーズのジェネラルパートナー(GP:General Partner。ベンチャーキャピタリストの中でも無限責任の投資家)、高宮慎一氏だ。これまでメルカリやナナピをはじめとした企業の支援を担当してきた高宮氏は、スタートアップやVCに関する匿名での質問にTwitterやFacebook上のコミュニティ「STARTUP101」を通じて回答している。
スタートアップの伴走者であるVCとはどんな存在なのか。そのビジネスモデルやキャリアについて高宮氏に質問をぶつけてみた。前半となる本稿では、VCのビジネスモデルについて紹介する(前後編の前編。後編はこちら)。
VCが“ブラックボックス化”して見えるのは「まだないもの」に対して投資するから
──「スタートアップ」という言葉自体は定着しつつあります。一方で「ベンチャーキャピタル(VC)」がどういうビジネスなのか理解しにくいところがあると思います。
やはりVCがどのような仕事をやっているのか外から見えにくいのは、投資先のスタートアップでのできごとやどのようなやりとりが行われているのかが、なかなかオープンにならない、できるようなものではないからだと思います。そこには、起業家とVCの当人たちにしかわからない事情や関係があります。また、VCの具体的な業務という点でも、資金を提供して終わりではありません。5~7年スパンで起業家に伴走して、信頼関係をベースに、イグジット(IPOやM&A)するまで支援します。かなり人と人とのウェットな関係も大事になってきます。
スタートアップの中で、実際どんなような支援がされているか、どんなやり取りがあるのかが見えづらい側面も多いため“ブラックボックス化”しているように感じるのかもしれませんね。
そういう意味では、VCは投資業のなかで圧倒的に「投資」から遠い仕事をしていると言えます。
上場株に投資する投資信託などは、「すでにあるもの」のなかから対象を選び、投資をしています。ところがVCは、場合によっては「まだなにもないもの」に対して投資することがあります。また、ハンズオンで支援するという意味では、その会社がどれくらい成長するかに自分自身(の支援内容)が一定の割合で関わってきます。起業家と一緒に、事業を大きくするところを支援して、伴走していくという意味で、よく「entrepreneur behind the entrepreneurs(起業家たちの後ろの起業家)」と言われます。
独立系VCなどで課される「1%コミット」とは
──あらためて、VCのビジネスがどのように成立しているのか教えて下さい。
基本的には、管理報酬と成功報酬の2つです。管理報酬とは、外部投資家(LP:Linited Partner)の資金を預かり、運用するための手数料のことです。
管理報酬はVCがファンドを運用するために必要な日々のオペレーションの費用をカバーするのに必要十分なものというのが、趣旨です。後述する成功報酬が、LPとVCのファンド運用者(GP)リターンを大きくするという点において、インセンティブを1つにする役割を担うのに対し、管理報酬はリターンの多寡によらず、ファンドが設立した時点で、ファンド規模によって決まっています。
VCの報酬に占める管理報酬の割合が大きくなりすぎると、LPとインセンティブがズレかねません。なので、ファンド設立時には、LPからは「管理報酬が適切か」という議論がよく起こります。ただしファンド規模が小さい場合、管理報酬が少なすぎると必要な費用をカバーできなくなってしまいます。結果としてファンド規模が小さい場合は管理報酬のパーセンテージは上がりやすく、逆にファンド規模が大きければ上がりにくいです。
前述のようにVCによってパーセンテージは変わりますが、具体的な数字としては、だいたいファンド総額の2〜2.5%ということが多くなっています。2000年代前半などは、3%というのもありましたが、年々小さくなっていく傾向にあり、今だと3%はあまり見かけません。
──成功報酬については。
成功報酬とは、リターンを最大化し、LPとGPのインセンティブを1つにするための報酬体系です。“Two-Twenty”と言われるように、ネットリターン([グロスのリターン]-[投資原価])のうち、管理報酬が2%、成功報酬が20%となっていることがほとんどです。100億円のファンドを2倍にしたら、ネットリターンである100億円の20%、20億円をファンド運営者が貢献度に応じて分けることになります。
さらに独立系VCの場合、LPがVCにコミットを求めるために、VCの運営責任者(GP)に個人でファンドに出資することを求めます。VCが起業家に手金でコミットを求めるのと全く同じ構造です。通常は、GP全体で最低ファンドの1%となることが多いです。たとえばGCPでは2019年に400億円の6号ファンドを立ち上げました。その1%は4億円です。GPが4人いる場合、1人1億円の手金を出していることになります。
僕が最初にGPになった4号ファンド(2013年組成)の規模は115億円、5号ファンド(2016年組成)は200億円、6号ファンドで400億円でした。なので、個人で億単位でコミットしていることになります。そして、初めてGPになった4号ファンドではまだ成功報酬が入っていなかったので、借入をしてコミットしていました。
ファンドを運営している当人としては、「まさか自分のファンドが損を出すとは思っていない」というのは、起業家が「自分のスタートアップが失敗するとは思っていない」と考えるの似ているかもしれません。とは言え、端から客観的に見ると「未上場株への投資をするのに、借入を原資にしている」というハイリスクな構造になっています。当然、ファンドがゼロになったら、GPは個人で借入分の借金を背負うことになります。
なので、ファンドを立ち上げる際は、最初のファンドが本当に大変だったりします。新規にファンドを立ち上げるVCは、まさに「VC事業をやっている起業家」と言えるのではないでしょうか。
GPはスタートアップ同様に、金銭的なコミットとリスクも取る
──リスクのとり方を聞くとスタートアップの起業家に近いものを感じます。
そうなんです。むしろ金銭的なコミットとリスクだけをとりあげると、起業家が創業時に個人で拠出する資本金より大きいかもしれません。投資家の期待、あるいは他のVCに比べて、小さなリターンしかファンドが出せないと、次のファンドが集まらないので、”倒産”みたいなこともありえます。という意味では、本当に「VC事業をやっているスタートアップ」とう側面は強いと思います。とはいえ、管理報酬がありファンド期間中は売上が保証されているという意味では、「ミディアム・リスク」なのかもしれません。その代わり、成功報酬があるとは言え、アップサイド(大成功した際に得られる報酬)は起業家程ではないので「ミディアム・リターン」だと思います。
──とは言え、VCは報酬も高いのでは。
もちろん悲壮感のある話をしても仕方ありません。アップサイドは成功報酬で一般企業のサラリーマンよりはあります。一方でほかの投資事業、ヘッジファンドやバイアウトファンドに比べると少ないくらいでしょうか。
しかも、完全にその成功報酬は、自分の結果次第です。多くのVCでは自分がファンド全体のリターンにどれだけ貢献したのか、ファンドの運営にどれだけ貢献したのかで決まります。リターンがなければ、成功報酬もゼロになるわけです。その点、キャピタリスト個人は、プロ野球選手と同じく、成果がなければ来シーズンで契約してもらえないといったこともあります。ファンド全体で見ても、次のファンドが集まらないということもあります。
LPから求められるファンドのリターンはおおよそグロスで2.5倍ほどです。ですがこれはファンド全体としての数字で、パートナー(GP)だけではなく、その下にいるジュニアメンバーも含めた全体でその数字を出さないといけません。
つまり、パートナーは、VC会社の経営者として経営雑務をこなしながら、プレイングマネージャーとして現場のキャピタリストとしてホームランも求められることになります。
そういった意味では、ファンドごとの短期的なリターンと、ファーム(会社)としての長期的な継続性をバランスしなければいけません。VCは職人的な側面が大きく、属人性が高い部分があります。職人的に、「親方の技を何も教えず、背中から勝手に盗め」というかたちだと、あまりにも経営として組織戦略がおろそかになってしまっています。なので、パートナーとジュニアで常にペアを組んで案件にあたる、ペアの組み方もたすき掛けで全パートナーとジュニアが組む、ジュニアの案件にもパートナーがサブで入るなど、VCという仕事の職人的な側面を受け入れた上で、組織としてどうジュニアの成功を加速できるかというのはすごく考えています(後編に続く)。
![]()
高宮慎一
グロービス・キャピタル・パートナーズ
代表パートナーベンチャーキャピタリスト。Forbesベンチャー投資家ランキング2018年1位、2015年7位、2020年10位。
支援先:アイスタイル、オークファン、カヤック、クービック、しまうまプリント、ナナピ、ピクスタ、ビーバー、ミラティブ、メルカリ、ランサーズ、リブルー、グラシア、ファストドクター等
ハーバードMBA