
- ドイツでは1年半で「誰もが知る」ほど有名なサービスに
- 従業員を苦しめる「10分配達」のポリシー
- Gorillasは「次のWeWork」か
驚異的なスピードで成長中のスタートアップがヨーロッパにいる。「Faster Than You(どこよりも早い)」をスローガンに掲げ、日用品のデリバリーサービス「Gorillas(ゴリラズ)」を展開するドイツ企業のGorillasだ。
Gorillasは2020年5月の設立で、翌月にはサービスをローンチ。それからわずか9カ月後の2021年3月、シリーズBラウンドで約2億9000万ドル(約330億円)の資金を調達したことで評価額が10億ドル(約1100億円)を超えるユニコーン企業の仲間入りを果たした。
今年の10月にも約10億ドル(約1140億円)の資金を調達し、従業員数はギグワーカーの配達員なども含めて1万人規模にまで成長しているGorillas。その一方で元社員や配達員たちからの、パワーハラスメントや不当解雇などに関する告発が相次いでいる。
毀誉褒貶(きよほうへん)あるそのさまを「次のWeWork」と揶揄する元社員もいる。世界中でシェアオフィスを展開するWeWorkも以前、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントの横行が問題視され、創業者の1人でCEOを務めたアダム・ニューマン氏が退任する事態に至った。またWeWorkは数十億ドルの巨額資金を調達したものの一度は上場に失敗した過去もある(その後、2021年10月に特別買収目的会社(SPAC)を通じて上場を果たした)。このような状況が似ているというのだ。
急成長中のスタートアップ、Gorillasの内部では一体何が起きているのか。ヨーロッパのスタートアップメディア「Sifted」でドイツを担当する記者のミリアム・パーティントン氏に話を聞いた。同氏はGorillasの元社員やギグワーカーを取材し、8月には調査報道記事を手がけている。
ドイツでは1年半で「誰もが知る」ほど有名なサービスに

前述のとおり、Gorillasは食料品を中心に飲料や洗剤なども取り扱う日用品のデリバリーサービスだ。本国のドイツやイギリス、フランスなどヨーロッパ諸国を中心に展開し、5月にはアメリカにも進出した。ローンチからはまだ1年半ほどだが、「ドイツでは今や知らない人がいないほど有名」とパーティントン氏は言う。
「Gorillasは特に若い世代のユーザーを獲得するため、巨額の資金をマーケティングに投じています。そのため私の母や父も知るほどの有名サービスへと成長しました。最近ロンドンを訪れた際にも、バスや地下鉄はGorillasの広告に覆われていて、驚きました」(パーティントン氏)
従業員を苦しめる「10分配達」のポリシー
Gorillasの強みはデリバリーの速さだ。サービスのウェブサイトやアプリでは「Groceries delivered in 10 minutes(日用品を10分でデリバリー)」とうたっている。だが、このポリシーが社員や配達員を苦しめる元凶となっているようだ。
「配達員たちは制限時間以内に商品を届けるよう本部から圧力をかけられており、不快な思いをしていると話しています。これまでの取材から、デリバリーに10分以上かかるケースや、商品が足りていない状態で届けられていたケースがあったことを把握しています。Gorillasでは商品の在庫が切れた際に、配達員に対して、近所のスーパーマーケットで補充してデリバリーするように指示していたとも聞いています」(パーティントン氏)
ドイツでは7月以降、労働環境の改善を求めるGorillasの配達員たちによるデモが頻発している。そのため「Gorillasは高い認知度の獲得に成功したものの、人気は下がってきている状況です」とパーティントン氏は話す。
「私が住むベルリンでは年中、Gorillasの配達員たちによるデモが開催されており、いくつかの裁判も起こっています。そのためGorillasでの仕事をボイコットする人たちが増えてきています」(パーティントン氏)

Siftedの取材に応じたGorillasの元社員も以前、デリバリーの遅延が原因でCEOのカーン・シュメール氏から脅迫とも取れるビデオメッセージが届いたことを明かしている。
その元従業員いわく、5件のデリバリー遅延が発生した際、シュメール氏は「WhatsAppのグループに私たちを大声で罵倒するビデオを投稿した」という。また現在Gorillasで勤務する複数人の社員も「恐怖によって支配されている」と証言。1人の社員は「誰もがシュメール氏が参加する会議に出席することを恐れている」とコメントしている。
Gorillasは「次のWeWork」か
前述のとおり、Gorillasは「次のWeWorkではないか」と言われている。パーティントン氏は「シュメール氏は“熱量”と“カリスマ性”でベンチャーキャピタルの信頼を勝ち取り、約13億ドル(約1470億円)もの資金調達を成功させました。この熱量とカリスマ性で多額の資金を集める姿が、WeWork創業者のアダム・ニューマン氏と重なって見えるのです」と話す。
Gorillasに懐疑的な投資家も少なくない。「Gorillasに限らず、食料品のデリバリーサービスは利益を生み出すことが難しいのではないか」といった意見もあるという。
「かつてのWeWorkのように、資金を投入し続けなければ事業を継続することが難しいのではないか、という見方もありますが、『少なくとも(ヨーロッパの日用品デリバリーで)1社は勝ち残るのではないか』と期待もしています。ですが今のところ、Gorillasはほとんどの資金をマーケティングに投じている状況です。利益を生み出す上ではマーケティング以上に、顧客獲得やサービス提供エリアの拡大が重要です」(パーティントン氏)