
- これまでは“ルール”がなかった相乗りタクシー
- 配車アプリ「GO」は「サービス提供を今後検討」
- 国交省の狙いは“需要喚起”
目的地が近い乗客同士が同じタクシーを“相乗り”し、運賃を割り勘する。そんな「相乗りタクシー」の制度が導入され、11月1日に正式に運用が可能となった。
これまでに相乗りタクシー事業を展開してきたのはスタートアップが中心だったが、制度が整ったことで、今後はタクシー業界大手による参入も期待される。
今後相乗りタクシーを運用する上で、タクシー事業者は乗車前に運賃額を確定することが必須となり、乗客のプライバシー保護を目的とした注意喚起も求められる。従来よりも乗客の安全性が考慮されるため、新たに導入された制度が引き金となり、相乗りタクシーは本格普及へと向かいそうだ。
これまでは“ルール”がなかった相乗りタクシー
相乗りタクシーとは、配車アプリで目的地が近い乗客同士をマッチングし、相乗りさせて運送するサービスを指す。運送開始後に不特定の乗客を乗せるバスとは運送形態が異なる。運賃は乗車距離に応じた案分となるため、1人で乗るよりも割安だ。

相乗りタクシーは少数だがこれまでも存在していた。例えばスタートアップのNearMeは空港やゴルフ場行きのシャトルやタクシーに相乗りできるアプリ「nearMe.」を2019年より展開している。だが乗客の利便性や安全性も考慮したルールが明確化されていなかったため、国土交通省(以下、国交省)では制度づくりに向けて動いてきた。
国交省では2018年1月から3月にかけて、東京都内で相乗りタクシーの実証実験を実施。大和自動車交通グループと日本交通グループによる協力のもと、両社の配車アプリを活用し、949両の相乗りタクシーを運用した。マッチング率は1割と低かったものの、7割の利用者が再度利用したいと解答したことで、ニーズに関しては手応えを得られた。実証実験から制度の解禁まで3年以上を要したのは、「コロナ禍でタクシーのニーズが減っていたことも一因としてある」と国交省・自動車局旅客課の担当者は説明する。
新たに制定された制度では、乗客間における運賃にまつわるトラブルを防ぐため、乗車前に運賃額が確定する運用を原則としている。また、目的地の設定によっては自宅や勤務先を知られるなど、プライバシー上のリスクに関してタクシー事業者が乗客に対して注意喚起することも求められる。相乗り人数に関するルールはないが、車両の大きさによるタクシーの乗客定員に準ずる。ただし当面の間は旅客同士が隣り合わない座席指定など、感染対策に必要な配慮が事業者には求められている。
配車アプリ「GO」は「サービス提供を今後検討」
大手タクシー事業者は相乗りタクシーの解禁をどう見ているのか。配車アプリ「GO」を展開するMobility Technologiesの広報担当者は「弊社からはまだ何も発表しておらず、まだ(相乗りタクシー事業を)スタートしていない段階です」と話す。
Mobility Technologiesは日本交通ホールディングス子会社のJapanTaxiとディー・エヌ・エーの配車アプリ「MOV(モブ)」事業が統合、2020年4月に新社名となった。2020年9月からは両社のアプリを統合した新アプリ、GOとして展開する。
同社広報は「JapanTaxiでは相乗りタクシーの実証実験は実施したが、今はMOVと統合した新たな体制だ」と話し、「相乗りサービスを提供していくかは今後検討していく」と説明した。
その他、配車アプリを活用するタクシー事業者もまだ目立った動きを見せていない。一方スタートアップのNearmeは新制度の導入を受け、市街地における相乗りタクシーの展開を本格化。11月12日には相乗りシャトルサービス「nearMe.Town」を12月より開始すると明かした。同サービスでは東京都・中央区、千代田区、港区、江東区の一部エリアにおいて、事前予約制で最大5人まで乗車できる相乗りシャトルを運行する。
国交省の狙いは“需要喚起”
相乗りタクシー解禁の目的は何か。国交省・自動車局旅客課の担当者は「地方でのドライバー不足の解消や都心部での渋滞緩和などを期待している」と話す一方で、「これまでタクシーを利用してこなかった人たちへの需要喚起としての側面も大きい」とも述べる。
例えば運賃が高額になる場合はタクシー利用を躊躇(ちゅうちょ)していた人たちも、相乗りで割安になるならば利用するかもしれない。またタクシー事業者側にも、利用者数の増加や、長距離移動の手段としての需要の増加が見込めるのではないかと同担当者は話す。
制度が解禁されたのは11月1日。前述のとおり、主要な事業者もまだサービス提供を今後検討していく段階だ。だがタクシー事業者各社が新制度に対応し開発を進めることで、「数カ月後には新サービスが誕生してくるのではないか」と国交省では見ている。